本格化する再編に向けた動き。投資対象としての消費者金融業界の魅力は?
黒字転換果たすも厳しい今後の見通し
消費者金融大手4社の08年3月期決算が15日、出揃いました。アコム(8572)、プロミス(8574)、武富士(8564)、アイフル(8515)の最終利益合計は928億円となりました。前期の4社合計最終損益が約1兆7,000億円の赤字でしたので、大幅な業績回復といえるかもしれません。
しかし、各社の株価はふるいません。例えば、決算発表翌日9日の武富士の株価は、前日比345円安の2,155円となり、その後も同水準で推移しています。これは、市場が2期ぶりの黒字転換よりも、消費者金融業界の先行きの不透明感に反応したためでしょう。
武富士、プロミスは09年3月期の減益を予想しています。貸付時の審査を厳格化したことで、収益の土台となる営業貸付金が、ピーク時の約4分の1にまで大きく減少するためです。
加えて、利息制限法の上限金利(年15〜20%)を超える過払い金の返却請求も高水準で続いています。消費者金融業界は、黒字転換は果たしたものの、更なる収益増の見込みは立てづらい状況にあるのです。【ポイント1】
金融庁による処分、健全化はまだ先か
そこに追い打ちを掛けたのが金融庁による処分です。
金融庁は16日、消費者金融準大手の三和ファイナンスに対し、一部店舗の業務停止命令を出しました。同社では、法令順守の責任者である支店長が主導する形で悪質な取立てが行われていたといいます。
また武富士も、債務者との交渉内容を適切に記録できていない例があったなどとして、業務改善命令を受けました。
昨年12月に改正貸金業法が施行され、貸金業者に対する改善命令制度が導入さ
れて以来、初めての適用事例となります。
過剰な貸付や悪質な取立てなどが社会問題化したことを受け、業界の健全化を目的として、貸金業法の改正が行われました。もちろん、こうした処分の事例が出てくるということは、制度がうまく動いていることの表れとも取れます。
しかし一方で、改正後も悪質な取立てなどが行われており、業界の健全化は道半ば、まだまだ問題が残っているのだ、という印象を与えたことも事実です。【ポイント2】
業界再編で投資対象としての魅力は?
このように課題山積の消費者金融業界ですが、課題山積という状況は、えてして業界再編のきっかけになるものです。メガバンク誕生の経緯を思い起こしていただければ分かるでしょう。
事実、消費者金融業界でも再編の可能性がささやかれています。その際のカギとなるのが外資系の動きです。
経営再建中の米大手銀シティ・グループは、今後2〜3年かけて約4,000億ドル超の非中核資産を圧縮する予定ですが、その一環として、日本で「ディック」の名称で展開する消費者金融事業の大幅縮小、または売却を検討しているといいます。
また、米ゼネラル・エレクトリック(GE)も、消費者金融部門「レイク」を売却する予定です。売却先としては、アコムが有力視されており、もしアコムによる買収が成功すれば、同社は業界トップとなる見込みです。
業界再編により、その業界の投資魅力が増大することはよくあります。そういう意味では、投資家であれば再編が予想される消費者金融業界は要注目といえるでしょう。
しかし、単純に「消費者金融業界の投資魅力が増大している」と飛びついてしまうのは危険です。
例えば、ディックの場合、取扱高は業界5位ですが、買収を繰り返し規模を拡大したため、資産は劣化しているといわれています。また、業界全体としても、法改正により、高い金利で貸し付けて、ある程度リスクをとりつつ高い収益性を確保するというビジネスモデルが立ち行かなくなっていることにも注目すべきです。
消費者金融業界は、今後の発展のために各社が新たな収益の柱を見つける必要があるといえます。それまでは、もう一段の業績・株価悪化の可能性も否定できません。ですので私は、今はこの業界に積極的に投資する必要性は少ないと考えています。しかし、再編が予想される以上、今後の展開を注意深く見守ることは怠ってはいけません。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- アコムは三菱UFJフィナンシャル・グループ、プロミスは三井住友フィナンシャルグループの傘下にあります。消費者金融業界の行方は、大手銀行も巻き込む可能性のある問題であり、そういった意味からも注目が必要だといえます。
- 【ポイント2】
- コンプライアンス違反が企業の信用を失墜させるのは当然です。さらに、大手企業がコンプライアンス違反を行うと、業界全体に問題が生じているようにも見えてしまいます。こうした事実が明らかになった今こそ、業界全体の自浄努力が求められることは言うまでもないでしょう。
- 【ポイント3】
- 外国人投資家にとって消費者金融は投資しやすい業界です。というのも、GEやGMといった外国人投資家に馴染みのある会社の子会社が、消費者金融ビジネスを行っているからです。しかし、同じ業界でも、国が違えば事情も違います。一時は業界再編を期待し、外国人投資家がこぞって投資をしていたようですが、ここ最近はめっきり見かけなくなりました。こうした外国人投資家の「素早い動き」も、我々の参考になるでしょう。
私は消費者金融業界を2003年ごろにも調査しましたが、現在の状況はその頃とは一変してしまったように思います。かつては、不良債権が増大しても、それが一掃されれば投資対象として魅力があると考えられました。しかし今は、構造的にかつてのような収益が見込みづらくなっており、同業界への投資を検討するのは、もう少し先になると考えています。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。