ドコモの独り負け?携帯3社の決算と今後の注目ポイント

苦境に立たされるドコモ

携帯電話大手3社の08年3月期決算が出揃いました。NTTドコモ(ドコモ、9437)は、売上高が前期比1.6%減の4兆7,118億円、営業利益は同4.5%増の8,083円と、減収ではありますが何とか増益は確保しました。

増益の一番の要因は、携帯端末の販売方式の改変により、代理店手数料が低下したことです。加えて、厚生年金基金の代行返上が営業利益を押し上げたほか、最大商戦期の3月に端末販売が低調だったため、販売経費が少なく済んだという面もあります。

一方、KDDI(9433)は、売上高が同6.9%増の2兆8,625億円、営業利益は同18%増の4,550億円。ソフトバンク(9984)も売上高は同13.1%増の1兆6,308億円、営業利益は同12.1%増の1,745億円と、両社とも増収増益を達成しています。

契約増加数を見ると、さらにドコモの厳しい現状が浮き彫りになります。各社の契約増加数は、ドコモが76万6,000台、KDDIが215万台、ソフトバンクが267万6,000台と、ドコモが他2社に大きく差をつけられています。

06年秋にナンバーポータビリティー制度が導入されて以来、ドコモは独り負けともいえる状況にありました。今回の決算でも、再びそのことが明らかになったといえるでしょう。【ポイント1】

変化を迫られる携帯業界

ドコモと対照的に好調なのがソフトバンクです。売上高、営業利益が創業来最高となったのに加え、純増数が前年同期比3.8倍に伸び、3社で唯一、前年同期を上回りました。

「連結業績は創業以来最高水準だ、暗雲は去った」と孫正義社長が決算会見の席上で胸を張る気持ちもよく分かる快進撃です。

ソフトバンクは、ナンバーポータビリティー制度の導入に合わせて、矢継ぎ早に新サービスを繰り出しました。例えば、月額980円で、夜間を除いて自社同士の通話が無料になる「ホワイトプラン」などは、他キャリアのユーザーにとっても魅力的だったようで、新規契約を増やす原動力となりました。

また、端末を分割で購入できる割賦販売は、端末購入時の初期費用が抑えられるため若年層の支持を集めました。

しかし、こうしたサービスの結果、1人あたりの通話料であるARPU(アープー)が下がっていることは見逃せません。もちろん、これはソフトバンクに限った課題ではありません。

これまで携帯各社は、音声通話の収入減をデータ通信で補ってきましたが、パケット定額制の広がりで、そのモデルも限界をむかえつつあります。であれば、“数”で補う必要があるのでしょうが、ここまで携帯電話が普及している状況で、今後の劇的な新規加入は期待できないでしょう。

携帯業界内では、携帯電話市場の飽和への警戒感が強まっています。【ポイント2】

キーワードは「既存顧客」と「海外戦略」

こうした状況を受け、私は携帯電話業界が新しい段階に入ったと考えています。

まず、これまでがむしゃらに新規顧客獲得を目指してきた各社の姿勢に変化がみられます。ドコモの中村維夫社長は、「新規獲得よりも既存顧客の流出を抑える」と戦略の転換を明言しています。4月18日には、ロゴマークの刷新も発表、これまでの戦略を一新する姿勢を鮮明にしています。

一方、ソフトバンクは、傘下のヤフー(4689)との連携を強化し、動画やコミックなどの携帯電話向けコンテンツの拡充で携帯経由のネット接続の促進をはかり、ARPUを高めていくことになるでしょう。

また、ソフトバンクの世界を視野に入れた戦略は大いに注目すべきです。

ソフトバンクは中国のインターネット大手、オーク・パシフィック・インタラクティブを傘下に収めたことを発表しました。既に約30%出資しているアリババグループと並ぶ中国でのビジネス展開の足がかりを確保したことになります。

また、中国携帯最大手の中国移動(チャイナモバイル)と英ボーダフォングループとの3社合弁で携帯ソフト開発会社の設立を発表しています。【ポイント3】

これまで比較的“新しい”業界として、各社がしのぎを削ってきた携帯電話業界も、成熟、そして飽和の段階を迎えました。そこでどのような戦略をとるのか。既存顧客の囲い込みや、成長の期待できる海外への進出。どちらも注目に値するものです。

今後の展開によっては、株式市場の中心テーマになりうる業界です。私たち投資家も、しっかりとその成り行きを見守る必要があります。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
確かに決算内容を見ると、ドコモ以外は好調です。しかし、携帯電話ビジネスは成熟が懸念され、各社の株価は直近3ヶ月間、日経平均株価を下回る推移となっています。業績がかつてほど伸びる余地がないと、株式市場は判断しているといえるでしょう。
【ポイント2】
電気通信事業者協会が5月9日発表した4月の携帯電話契約数によると、純増数はソフトバンクモバイルが19万2,900件と12カ月連続で首位。しかし、同社を追っていたKDDIは、11万8,700件の純減となりました。KDDIの月次の契約数が純減となるのは00年10月のDDI、KDD、IDOの3社合併後初めてです。かつてのような純増を達成していくことが厳しい状況となってきたことが伺えます。
【ポイント3】
中国のネット利用人口は今年、米国を抜き世界最多になる見込みです。孫正義ソフトバンク社長は「中国を制する会社が世界を制する」とみて、早くから中国事業の布石を打ってきました。今回の経営判断は、中国事業をさらに推し進めようとする動きであり、評価できます。

携帯電話を取り巻く環境はこれからさらに劇的に変わっていきます。まだ携帯電話では、パソコンのような検索もできませんし、動画もサクサクと見ることはできません。しかし、機能の向上によりこういったサービスが当たり前になる時代が近づいていると考えると、携帯関連は、投資家として注目する必要があると思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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