スタグフレーションの可能性は?物価上昇、求人倍率下落の日本経済
“二重苦”の日本
皆さんはゴールデンウィークをどのように過ごされましたか?海外旅行を楽しまれた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、エイチ・アイ・エス(9603)がまとめた、4月1日時点のゴールデンウィーク期間の海外旅行動向によると、海外旅行の予約数は前年に比べ、9%以上も減少しているといいます。
それも仕方がないかな、と思わせる経済統計が発表されました。
厚生労働省が発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月を0.02ポイント下回る0.95倍となりました。これで4ヶ月連続で1倍を下回る結果となりました。
さらに詳細を見てみると、正社員有効求人倍率も前年同月を下回り、新規求人数は前年比20%以上の減と、非常に厳しい現状がうかがえます。厚労省も「雇用改善は足踏み」との判断を7ヶ月連続で据え置いています。
こうした厳しい雇用環境の中、物価高が進んでいます。ガソリン税の暫定税率が5月1日に復活し、ガソリンスタンドでの値上げが相次いでいます。第一生命研究所は、これにより自動車を保有する世帯の平均負担増が、月間2,491円になると試算しています。
加えて、小麦をはじめとする穀物も値上がりしており、家計の負担感が一段と増しています。【ポイント1】
世界各国に広がる物価高の波
日本国内の主要商品の国内卸価格を指数化した日経商品指数四二種(1970年を100とする)の4月末値は187.634ポイントで、84年2月末(187.683)以来、24年ぶりの高水準となっています。前年同期比では、19.449ポイント上がり、上昇率は11.6%と、3カ月連続で10%を超えました。
丸紅経済研究所の柴田明夫所長は「資源高は日本の生産者物価に広く波及し、消費者物価を緩やかに押し上げる段階に入った」と分析。こうした物価高の流れはまだまだ続きそうです。【ポイント2】
物価高が進んでいるのは日本だけではありません。
欧州連合(EU)統計局は30日、ユーロ圏15カ国の4月の消費者物価上昇率(速報値)が、前年同月比で3.3%になったと発表しました。食料品に加え、公共料金などサービス価格を引き上げる動きが広がったため、欧州中央銀行(ECB)の政策目標である「2%未満」を8カ月連続で超えました。
また、お隣韓国では、4月の消費者物価指数が前年同月比4.1%上昇し、2004年8月以来3年8ヶ月ぶりの高水準となっています。原油や穀物価格の高騰が響き、灯油やサツマイモなどの値上がりが目立っています。生活必需品だけで構成する「生活物価指数」は実に同5.1%も上昇しています。
スタグフレーションの可能性は?
景気後退と物価高が同時に進行する現象を「スタグフレーション」と呼びます。本格的なスタグフレーション下で取れる金融政策は限られています。「有効な手段はない」との指摘もあるほどです。
有効求人倍率の低下など景気後退を思わせる統計と物価高。現在の日本はこのスタグフレーションに向かっているとの指摘があります。サブプライム問題を発端として景気後退がささやかれる米国など、諸外国も同様です。
では本当にスタグフレーションに向かっているのでしょうか。
スタグフレーションの直近の例としては、1970年代のオイルショック時が挙げられます。当時は、第4次中東戦争をきっかけに原油価格が約4倍に急騰し、あわせて物価も上昇しました。一方で経済活動は、企業のコスト上昇などを受け収縮しました。
今後、同じような展開を迎える可能性を完全に否定することはできませんが、当時とは異なる点もあることに注意すべきです。それは「新興国の勃興」です。
米経済と中国、インドなどの新興国の経済は連動しないという「デカップリング論」は、サブプライム問題の際に疑問視されました。もちろん、ある程度の連動はあるでしょう。しかし、膨大な人口を背景にした新興国に「成長の余地」があることは否定できません。
しかも、新興国にはエネルギー関連の企業が多くあります。原油価格の高騰は、こうした企業の業績にプラスに働くでしょう。一方、もし原油価格が下がったとしても、こうした新興国は経済成長のため大量の原油を必要としていますので、国全体としては更なる経済成長の足がかりを掴むことにもなります。
日本の状況だけを見ていると、陰鬱な雰囲気に包まれているような気がします。しかし、個人投資家としては、今後、日本、そして欧米の経済動向を見守りつつ、同時に経済成長が期待できる新興国に投資することで、「自分の身を守る」ことを検討する必要があるかもしれません。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- 決算発表が続いていますが、日本企業の業績は2000年代前半のような急成長が見られなくなりました。中には減益決算を発表する企業も出てきています。しかし、そういったタイミングで、悪材料出尽くしといわれて株価が上昇することもあります。慎重な分析が求められます。
- 【ポイント2】
- 指数を押し上げた背景には石炭の価格交渉が4月、大幅上昇で決着したことがあります。オーストラリア産の2008年度対日価格は、燃料用の一般炭が前年度比2.3倍、鉄鋼用の原料炭が3倍で決まりました。鉄鋼が悲鳴を上げ、そうなると鉄鋼を使う自動車産業も…。こうしたセクターに対しては、まだ投資するのは時期尚早ではないかと考えています。
- 【ポイント3】
- 新興国に投資をするといっても、どうしたらいいのでしょうか?おすすめしたいのは「海外ETF」です。例えば、「iShares MSCI Emerging Markets Index (EEM)」という新興国市場全体に投資ができる便利なものもあります。楽天証券などから簡単にアクセスでき、さらに購入価格も低い。注目できる投資対象だと思います。
2000年前半、まだ原油価格が1バレル30ドル台だったころ、「60ドルなんていう時代が来たら世界大不況ですね」と企業経営者とディスカッションしたものです。当時、今の価格を予測した人は全くといっていいほどいませんでした。実際には100ドルを超えても、株価は乱高下していますが、新興国は高い経済成長を達成しています。価格が上昇することでマイナスもありますが、世界経済全体の成長のためにはやむを得ないことなのかもしれません。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。