『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

GW連休明けに商品市場は大変動する?

とある代議士からの電話

先日、オフィスでいつものように朝のルーティン・ワークをこなしていると、親しくお付き合いさせて頂いている、とある高名な代議士から携帯に電話があった。一体何事かと思って聞くと、ものすごい勢いで質問された。


「食糧危機についてどう思う?東南アジアではコメの値上がりで大騒ぎになっているようだけれども。暴動すら起きてるみたいじゃないか。それこそ、日本もそのあおりで米騒動にでもなるのかね」


冷静沈着で有名な代議士の方だが、どうやらどこぞの経済評論家に酒宴の席でずいぶんと吹き込まれたらしい。しかし、そういう話ほど怪しい。ひとしきりお話をおうかがいしてから、私からは次のようにお答えしておいた。


「先生、『食糧危機』というのは全く大げさな話です。現在の騒ぎは、需給バランスが崩れたからではなくて、バイオ燃料増産でとうもろこしの価格が高騰し、それを当て込んだ先物買いがマーケットで加速した結果、他の穀物に飛び火しているにすぎないのです。これで儲かっているのはブラジルをたきつけたブッシュ政権ですが、儲からない勢力もいます。欧州がその典型で、現に彼らはまもなくバイオ燃料製造のための穀物生産への補助金打ち切りを言い出しますよ。噂に流されないほうが良いと思います」


ありがたいことに、不思議と私の話を聞いてくださる代議士だ。この時も「ふむふむ」と聞いた後、「よく分かりました。どうもありがとう」と電話を切られた。


マネーが世界で織り成す「潮目」をウォッチすることを仕事にしてから早いもので3年が経つ。その中で見聞きしたことを基にすれば、商品市場の高騰など、先物マーケットでの仕掛け以外の何物でもないことがよく分かるのだ。事実、この電話の直後、国連は緊急に食糧問題を話し合う会合を6月に開催することが決定。世界中が大車輪で動き出し、穀物価格は調整し始めた。

なぜイスラエルは追い詰められるのか?

全く同じことは、原油価格についても言える。「1バレル=200ドルは行くでしょう」などと軽々しく語る経済評論家たちが後を絶たないが、世界の潮目をウォッチしていれば、口が裂けてもそんな予測は出来ないものなのだ。


そもそも商品価格は「需給バランス」「地政学リスク」「投機的売買動向」の3つの要素から成り立つ。とりわけ原油価格の場合には、地政学リスクが演出されることで高騰がもたらされる場合が多い。したがって、調整(下落)局面への予兆をとらえるには、中東、そして米国の動きを丹念にウォッチするのが先決なのである。


この観点からいうと、米国は今年3月後半より、明らかにかなり本腰を入れて「中東和平」に向けた努力を開始していた。これを遮るのが、アラブ諸国と米国が結託するのを最も恐れている国・イスラエルだ。ところがそのイスラエルまでをも、米国は押さえ込みに走ったのである。


この関連で非常に気になる出来事が4月後半にあった。4月24日、米国の情報機関(CIA)は、連邦議会で秘密ブリーフィングを実施した。昨年9月6日にイスラエルがシリアに対して行った空爆について、インテリジェンス情報を議員たちに対して説明したのである。


ところが、これに対して、とりわけ欧州勢がいきりたって反論した気配がある。ブッシュ政権は、シリアが北朝鮮の協力を得て、極秘裏に核兵器開発施設を建設、これをイスラエルが空爆したと説明した。しかし、様々な観点から見て、これが原子力関連施設であったのは確かだとしても、核兵器開発用だったかは大いに疑問だというのである(4月28日付独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァィトゥング参照)。


一方、肝心のイスラエルはというと、非常に静かな対応に終始している。シリアも、米国に抗議はしたが、イスラエルを非難してはいない。なぜなのか?


実は、イスラエルはトルコを仲介役として、シリアとの間で極秘裏に交渉を進めてきていたのである。イスラエルは、占領していたゴラン高原までをもシリアに返還する用意があると提案したのだというから、相当な気合の入れようである。


しかし、これまでさんざん中東和平の成立を邪魔しながら、ここに来ていきなり自らがリードしようとするイスラエルの姿を、ネオコン勢以外の米国のエスタブリッシュメントたちが快く思うわけもない。そこで、あえて誰しもが「疑わしい」と思うインテリジェンス・ブリーフを行い、これをリークすることで、イスラエルが勝手に話を進めるのを押しとどめたというわけなのだろう。


私は昨年より、この「空爆」にまつわる状況をウォッチしてきているが、今回は即座に次のように判断した。


「あのイスラエルさえもが中東和平を望んでいる。イラン問題も軟着陸し始めた今、もはや中東和平を遮るものはなく、地政学リスクは大幅に低減している。
原油価格の調整は間近だ」


そして4月末。原油価格はゆっくりと調整し始めた。明らかにマーケットは国際政治の現実をしっかりとウォッチし、仕掛けがなされていたのである。

GW連休明けのマーケットを占う

マーケットと国内外の情勢が見せるこうした複雑な絡み合いについて、私は5月10・11日にさいたま・横浜・東京、5月23・24・25日に神戸・京都・静岡でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)でじっくりお話できればと考えている。


このコラムが公開される5月6日、日本はGW連休の最終日である。しかし、日本が休み、眠っているからといって、世界もそうであるわけではない。事実はむしろその逆で、このGW連休明けこそが、米国をはじめとする世界全体が、いきなりすさまじい勢いで動き始めるタイミングなのである。


その1つが中東情勢である。5月中旬にブッシュ大統領はイスラエルを訪問する。首脳会談で真顔のギリギリとした議論が行われないのは当然として、それに向けた事務方同士の折衝が既に始まっていることはいうまでもない。アラブ諸国に取り囲まれた中で生きていかなければならないイスラエルは必死、そしてまた中東において原子力ビジネスを展開するために何としてでも中東和平を実現させたい米国もまた必死である。その結果、「あっ」と驚く結果が出てくることは想像に難くない。


いずれにせよ中東和平は既定事項である。未だに「中東発の第三次世界大戦」を叫んだり、あるいは「中東和平は駄々をこねるイランの言うことを聞いたからだ」などといった正鵠を得ない分析を行う“インテリジェンスのプロ”が後を絶たないが、彼らに惑わされてはならない。マネーの潮目を見る限り、むしろそうした主張こそがイデオロギーであり、仕掛けであることに気づくはずである。


GW連休明けを迎える今だからこそ、「本当の潮目」を見抜き、すばやく動く能力を持ち合わせることが、日本の個人投資家にはますます必要になっている。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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