“大きな政府”になりつつある米国。その評価、求められる投資姿勢とは

シティに対する巨額救済

11月23日、米政府は経営難に陥った米銀行大手シティ・グループ(以下シティ)に対して、金融安定化法に基づく公的資金を使った大規模な救済策を発表しました。これは、シティが抱える3,060億ドル(約29兆円)という膨大な不良債権について損失が発生した場合、その大半を政府が埋め合わせることを保証するというものです。

さらに、200億ドル(約1兆9,000億円)の資本注入も追加で実施すると発表しました。シティに対しては、10月に250億ドルの公的資金を注入したばかりであり、事態の深刻さが伺えます。

シティの株価は、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)やリーマン・ブラザーズと同様の急激な下落に見舞われていました。シティは世界100ヶ国以上に進出する巨大金融グループです。その破たんの影響は計り知れないものになるでしょう。だからこそ、危機の根幹である住宅ローンや商業用不動産向けローンにより生じる不良資産を、政府が保証することにしたのです。

1929年大恐慌の株価推移

このシティの救済策について、モルガンスタンレーが「政府は株主価値を大幅に希薄化せずにリスクを減らした」と評価しているといいます。株主価値を希薄化せずに、ということはつまり、今現在投資をしている投資家も“救済”されることを意味します。それは金融機関だけでなく、投資家も痛い目にはあわせないと表明していると読み取ることも可能でしょう。【ポイント1】

オバマ氏、総額7,000億ドルの経済対策を検討

現在いの状況について、次期大統領であるオバマ氏は22日、ラジオ放送の演説で「我々は今、デフレスパイラルに落ち込む危機に直面している」と明言しました。

1930年代の大恐慌では、物価の下落と経済の縮小が相乗的に進みました。日本のバブル崩壊後の状況も同様です。それを踏まえれば、このオバマ氏の発言はマーケットにとってマイナス材料といえます。

しかし、オバマ氏はこうした厳しい認識を示した上で、新たな景気対策の検討に着手したと発表しています。その規模について、ワシントン・ポスト紙は24日付の紙面で、「景気対策の規模は7,000億ドルを上回る可能性がある」と報じてます。

こうしたオバマ氏の景気対策を好感し、またシティ救済を受けての金融株の買いもあり、24日のニューヨークダウは前週末比で約400ドル高となりました。

米経済にとって直近では、ゼネラル・モーターズ(GM)をはじめとする自動車業界の救済が焦点となるでしょう。今のところ議会での議論が紛糾し、結論が12月に先延ばしになりました。

自動車業界は直接雇用だけで100万人、間接雇用も含めれば300万人もの雇用を支える大産業です。オバマ氏は以前よりGMの支援を表明していましたが、果たしでどうなるのか。米経済を占う1つのカギといえます。【ポイント2】

「大きな政府」の時代に求められる投資姿勢

ブッシュ、オバマ両氏の政策を見ていると、未曾有の危機を受け、これまで「市場原理」を重視してきた米国が、市場に積極的に関与していく「大きな政府」になりつつあることが分かります。

ただ、その流れは急に始まったものではありません。2001年以降のITバブルの崩壊、同時多発テロ、エンロン不正会計などさまざまな問題に対する対策の過程で、米国は徐々に市場主義から政府主義へと舵を切っていたといえます。

そして今回の金融危機が、流れをさらに加速させているのです。その結果、マーケットでの政府の存在感が増し、政府に対する信頼次第で売りか買いかを判断せざるを得なくなっていきます。

では、今の米政府は信頼に足るのか?私は、少なくとも今回の金融危機に対する各種対策は、「100年に一度の危機」に対して、それにふさわしい「100年に一度の対策」を打っていると、評価してよいのではないかと思います。そして今後は、政府への信頼の高まりに合わせて株価も上昇する可能性が高いと考えています。

カリスマ・ファンドマネジャーと呼ばれる米大手投資信託フィデリティのアンソニー・ボルトン氏は、「GMのような問題は、株式相場の上昇局面で起きる話ではなく、株式相場の大底で起きやすい。GM問題は、それが語られている最中に株式相場は織り込んでおり、救済か破綻処理か決まってから、反応する話ではないと考えている」と話しています。

私も同意見です。数年後、「08年が大底だった」と言われる可能性は高く、今は少しずつでも市場に踏み出していくタイミングではないかと思います。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
金融危機に際しては、従来どおりの経済政策では効果は見込めません。そして、必要な政策が実行されれば、危機脱出、株価回復のきっかけとなり得ます。2003年5月、りそなホールディングスへの公的資金投入、国有化をきっかけに日本株が上昇したのがその例です。シティに対する救済も、同様の株価回復のきっかけになるのか、注意深く見守る必要があります。
【ポイント2】
オバマ氏が正式に大統領に就任する1月までブッシュ政権が続くため、端境期に何か問題が起こるのではないか、と懸念されていました。しかし実際には、共和党、民主党の壁を越えて、恐慌に立ち向かおうとする姿勢が見受けられます。翻って日本は、一体どうなっているのか。今は、政争に明け暮れている場面ではないと思うのですが…。
【ポイント3】
投資には株式市場に対する信頼が必要です。大きな政府の時代になってくると、株式市場に対する信頼は、政府に対する信頼と同義ということにもなり得ます。政府に対する信頼という言葉、今の日本では意識することは少ないかもしれません。しかし、少なくとも経済政策という点だけでも、政府は信頼できるかを判断していくことが求められます。

賛否両論ありますが、かつて小泉政権は、少なくとも政府に対する信頼を得ることに成功したと思います。だからこそ、今でも小泉氏のブレーンであった竹中平蔵元大臣の人気が高いのだと思います。当時は、小泉政権がどんな政策を繰り出すのかを注視することが投資には不可欠でした。そして今は、米政府に注目することが必要というわけです。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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