ビッグ3の危機への対処は?米政府は年内最後の正念場どう乗り切るか

週明け大幅高の各国市場

今週の株式市場は、世界的な大幅高でスタートしました。8日の東京市場の日経平均株価終値は、前週末比411円52銭(5.2%)高の8,329円5銭となり、東証1部の値上がり銘柄は全体の84%に達し、安心感が漂う動きとなりました。

アジア各国市場では、同日の香港市場でハンセン指数が前週末比1198.78ポイント(8.65%)高の1万5,044.87まで上昇。終値では、10月21日以来、約1ヵ月半ぶりに1万5,000の大台に乗せました。

また中国市場では、上海総合指数が72.117ポイント(3.57%)高の2090.773に。中国政府による総額4兆元(約56兆円)の景気刺激策を好感し、リーマン破たん直前の9月12日の水準を上回るほどになりました。

こうした株高の動きは、金融危機の“震源地”である米国でも同様です。NYダウは8日、一時、約1ヶ月ぶりに9,000ドルの大台を回復。終値でも、前週末比298ドル76セント高の8,934ドル18セントまで上昇しました。

ダウ値上がりの材料となったのも、中国と同様の政府による景気刺激策でした。オバマ次期大統領が6日に、週末恒例のインターネットとラジオを通じた演説で、「高速道路網を整備した1950年代以来最大の公共投資を実施する」と述べたのです。

その結果、建設大手キャタピラーは前週末比約11%高と急進、インフラが伸びれば素材も伸びるとの連想が働き、USスチールやアルコアなどの素材株も軒並み上昇し、ダウの値上がりを演出したのです。

「政府の相棒になる」という投資戦略

こうしてみると、今、株式投資の世界で重要なのは、政府の一挙手一投足であることが分かります。金融危機に際して、政府が「大きく」なり、その存在感を増しているのです。この点については、以前にも詳しく解説しています。

※バックナンバー『“大きな政府”になりつつある米国。その評価、求められる投資姿勢とは』をご覧ください。

また、約8,000億ドル(約74兆円)を動かす世界最大の債券運用会社ピムコの最高投資責任者で「債券王」の異名をとるビル・グロス氏が取材の中で以下のように述べています。大変参考になる意見ですので、以下にご紹介します。

民間のリスク許容度が消えた時、その代役を果たしたのは政府でした。バーナンキFRB議長はバブルが崩壊した90年代の日本や、30年代の大恐慌の研究家として知られていますが、過去を現在に通じる事実としてでなく、単なるおとぎ話としてしか見ていなかったのではないでしょうか。

投資先は政府の傘に入ったところです。私は、「アンクル・サム(米政府の愛称)の相棒になる」と社内で言っています。政府の資本注入を受けた銀行が代表例ですし、米住宅公社が保証した証券化商品(MBS)もこの1年間買ってきました。自動車など、これから傘に入るかもしれない投資対象も探していきます。

運用資産の3割は社債関連。金融が中核を占め、利回り10%超の銘柄も多いが、破綻したリーマン・ブラザーズのように裏目に出た例もある。我々はリスクを取る債券投資家です。政府の相棒になる戦略がノーリスクだと思っていません。しかし、今のような不透明な時代には正しい戦略だと信じています。

(出所)2008年12月7日号日経ヴェリタス6面『恐慌救うのは「政府の拳」』より一部筆者加工

今年3月のベアスターンズ破たんから、リーマン・ブラザーズ、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)、そしてシティ・グループと、大手金融機関が次々と「政府の傘」に入っています。

そうした状況の中、リスクは高いとしても、「政府の相棒になる」という投資戦略は、私も賛成できるものです。

年内最後の焦点「ビッグ3救済」

となると、年内最後の焦点はグロス氏も言及している自動車業界、つまりビッグ3の行く末となるでしょう。

資金繰りに窮し、破たんの可能性すらささやかれているゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラーは一体どうなってしまうのか。中でも最も危機的な状況にあるといわれるのがGMです。早ければ年内にも資金が尽きるという状況に陥っています。

そのGMに対する政府の救済については米議会でも賛否両論がありますが、週末には、つなぎ融資で年明けまでの必要資金を提供する妥協案で調整し、その内容で今週内に法案を採決する方向性が示唆されました。そのため、週明けの同社株は大幅高となりました。

どちらかというと、ビッグスリー支援に慎重なブッシュ大統領率いる現政権に対し、オバマ次期大統領はビッグ3支援を明言しています。今回のつなぎ融資は、オバマ氏によって救済されるまでの一時的な資金の確保を狙ったも案といえるでしょう。

先週末から週明けの動きを見ていると、政府の方針が株価に大きく影響していることが分かります。オバマ次期大統領の経済に対して“コミット”していくという姿勢への期待が、株価を押し上げているともいえます。

そうした状況を踏まえ私は、株価が底割れし、再びメルトダウンしてしまう可能性は低いのではないかと考えています。

もちろん、期待値で上昇基調だった株価が、来年1月にオバマ氏が「実際に登板」したタイミングで下落に転じてしまう可能性も否定できず、今後も株価は神経質な動き続けると予想できますので、引き続き政府の行動を注意深く見守る必要があります。

「政府の相棒になる」ということは、政府を信頼することに他なりません。今回の株価暴落で露呈した資本主義の崩壊は、「信頼の欠如」により起こりました。マネー、金融機関、上場企業、そして国家まで、その信頼が次々と剥落していったのです。今、投資家に求められるのは、改めて国家、政府の行動を観察し、それが評価できるものであれば素直に評価するという姿勢だと思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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