投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
温暖化対策の“真打ち”原子力セクターの「潮目」とは?
再生可能エネルギーの将来性
1997年に京都で行われた第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)。そこで議決された京都議定書には、地球温暖化の原因とされている温室効果ガスについて国ごとの削減目標が盛り込まれた。しかし、議定書の効果は疑問視されるようになる――世界最大の排出量を抱える米国が批准を拒否したためだ。これを境に、国際社会では米国が温暖化対策で「孤立」し、代わりに欧州勢がイニシアティヴを取るという構造が見え始める。
その例として、欧州の風力大国であるドイツ、スペイン、デンマークが中心となって、今年(09年)1月に国際再生可能エネルギー機関(International Renewable Energy Agency;以下、IRENA)を設立したことが挙げられる。最近温暖化対策で中心的な議題になっているのが風力、太陽光、バイオマスを利用した再生可能エネルギーであることを考えれば、これは非常に大きな動きであろう。しかし IRENA 設立会議に参加した75ヶ国の中に、やはり米国は含まれていない。
そのような中、今年1月20日に就任したオバマ新大統領は、金融危機を打破するための政策として「グリーン・ニューディール」を打ち出した。その狙いは再生可能エネルギーを倍増させて景気を刺激すること、そして新たな雇用を創出することである。また、ホワイト・ハウスのホームページにも米国を「温暖化対策のリーダー」にするとの意気込みを明記し、そのために2050年までに温室効果ガスを80%削減するとの大胆な数値も掲げている。
しかし、詳細に目を通すと、再生可能エネルギーの数値目標は2012年までに10%、2025年までに25%と非常に「控えめ」であることが分かる。つまり、再生可能エネルギーを重点に置いた温暖化対策はまだまだ「意気込みだけ」の段階にとどまっており、現実味は帯びていないのだ。では、再生可能エネルギーという「正攻法」の分野で他国の後塵を拝する米国は、それ以外の部分でどのような「手段」を用い、いかにして温暖化対策のリーダーに成り上がればよいのか。これこそが米国にとって喫緊の課題なのである。
日米欧で繰り広げられている原子力セクターの再編
マーケットとそれを取り巻く国内外の情勢をめぐる「潮目」をウォッチする中、この関連で気になる報道が1つあった。三菱重工と米国のゼネラル・エレクトリック(以下、GE)が発電設備向けの蒸気タービンを共同開発することで基本合意に達したというのである(1月30日付日本経済新聞参照)。三菱重工は、将来的に原子力発電設備向け蒸気タービンについてもGEと共同開発をする意向であるという。
この記事を読み解くには、まず原子力セクターの主な構造を頭に入れておく必要がある。我が研究所の調査レポートでも、原子力セクターでは大手同士が戦略的提携を結ぶのが昨今の大きな潮流となっていることを繰り返し取り上げてきた。三菱重工とGEもそれぞれ、「三菱重工・アレヴァ(仏)連合」「日立・GE連合」を結び、原子力分野で協力している。もう1つ忘れてはならないのが「東芝・ウェスチングハウス(米)連合」であり、これらの連合が三すくみで競争していたのが従来の構造である。ところが今回の記事では、これまで他社と原子力事業の提携を結んでいた三菱重工とGEが、将来的に原子力事業でも協力するという。まさにこの点が重要なのである。
更に最近のニュースで見逃せないものとして、ジーメンス(独)がアレヴァと進めてきた原子力合弁事業を解消することを決定したというものがある(1月26日付独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング参照)。この合弁事業が解消したことで孤立したジーメンスについては、今後ロシア企業や東芝・ウェスチングハウス連合と提携するといった観測が流れている。これらのニュースから分かるのは、今世界で原子力セクターの再編が進行しているということにほかならない。
このような原子力セクターの再編はそれだけで1つの「潮目」として捉えられる。しかし、これが米国民主党下における温暖化対策と関連づけられることにも注意が必要だ。特にそのカギを握っているのが、国務長官のヒラリー・クリントンである可能性が高いと私は考える。というのも、ヒラリーの夫であり、かつ90年代に政権を担当したビル・クリントン元大統領は、政府機能を民間へと転換する中で「ウラン濃縮ビジネス」を創出した人物であるからだ。つまり、ヒラリーが夫の「方針」を受け継ぐとすれば、米国で原子力セクターが盛り上がる可能性も高いのである。事実、ヒラリー本人が実は大統領選挙中に原子力セクターから支援金を得ていたことが明らかになっている。そのヒラリーが国務長官という重要な役職に就いたことからは、オバマ政権と原子力セクターとの繋がりが読み取れないだろうか。
大々的な温暖化対策を展開すると公言しているオバマ大統領の口から「原子力」という言葉は聞こえてこない。しかし、世界で進行中の「原子力セクター再編」そして「クリントン夫妻と原子力セクターとの関係」のことを考えれば、今後同セクターに何も動きがないとは言い切れないだろう。再生可能エネルギーにばかり目が向けられているが、他方でこのような展開が見られていることを認識し、丹念に情報を収集することが重要なのだ。
核開発との繋がりが深い意外なセクター?
このような原子力セクターの再燃を含めた最新の国内外情勢が示すマネーの「潮目」について、私は2月21、22日に大阪・名古屋で、3月7、8日に東京・仙台でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料))で詳しくお話したいと考えている。
さて原子力といえば、最近名だたる原子力大国が揃って注目している国がある――インドである。インドといえば昨年(08年)に米国と米印原子力協定を締結、これが10月に発効したことは記憶に新しいであろう。
しかし、これは NPT 体制に反するものとして日本の大手メディアには批判の声が寄せられていた。NPT 体制とは米・露・英・仏・中以外の国々に核兵器を拡散させないための体制(核拡散防止条約;Nuclear Non-Proliferation Treaty に基づく体制)であるが、NPT 条約に加盟していないインドと個別的な原子力協定を結ぶ行為は国際平和への強調に背くものであるといったものだ。
だが、実のところインドにおける核開発に名乗りを上げたのは米国だけではない。というのも、ロシアは旧ソ連時代の1988年、既にインドとの間で軽水炉を建設する契約を締結していたのだ。更に昨年10月の米印原子力協定に対抗するかのように、同年12月にはインドと原子力協定を締結している。米露の他にも、昨年9月末にフランスが、そして今年1月には世界第2位のウラン埋蔵量を持つカザフスタンがインドとの原子力協定を締結した。インド・マーケットをターゲットとした核開発競争が加熱しているのだ。
他方、思い出していただきたいことが1つある。昨年11月に起きたムンバイ同時多発テロ事件である。あの事件は、インドのみならず“BRICs”などともてはやされた経済新興国と「地政学リスク」が常に隣合わせであることを示したのである。つまり、経済新興国における核開発が進めば進むほど、こういった国々における地政学リスクの“炸裂”が大惨事に繋がる可能性も高まるのである。それを防ぐには最新の技術を駆使して国内の安全・治安を保つサービスが必要だ。そういった意味で、核開発と国家安全保障ビジネスとが繋がっていることを頭の片隅に置いておくべきであろう。
このように、一見関係のない情報どうしを繋ぎ合わせることによって、大きなレンジを持つ予測分析が成り立つのである。これこそが1930年以降最大とも言われる現下の金融危機から抜け出し、私たち日本人が成功するための“コツ”なのであろう。これについてはは2009年1月に刊行したばかりの拙著『大転換の時代――10年後に笑う日本人が今するべきこと』において詳述させていただいた。ご興味を持たれた皆様にはご一読いただければ幸いである。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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