投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
中央アジアを巡って火花を散らす大国
中央アジアの魅力
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5ヶ国のことを、一般的には「中央アジア」と呼ぶ。これらは日本の個人投資家・ビジネスマンの多くにとっては縁のない国々かもしれない。しかし、大手メディアがあまり取り上げることのないこの地域には、実は極めて多くの「宝」が眠っているのである。
中央アジアの魅力は、何と言ってもその天然資源の豊富さにある。中でも特に注目されているのが中央アジア一の面積を誇るカザフスタンである。2007年に行われた英エネルギー大手BPによる調査では、同国の石油埋蔵量は398億バレル(世界の3.3%)、そして天然ガス埋蔵量は3兆立方メートル(世界の1.7%)にも上るとの結果が出ている。また、ウラン、クロムの埋蔵量は共に世界2位である。これらの天然資源が同国からの輸出のおよそ8割を占めていることからも、資源依存型の経済モデルであると分かる。
この他にも中央アジアにはトルクメニスタン(天然ガス2.67兆立方メートル、石油6億バレル)、ウズベキスタン(天然ガス1.74兆立方メートル、石油6億バレル)といった資源国がある。
諸外国にとり、これは中央アジアが持つ魅力の一部に過ぎない。一見目立たない地域のようだが、だからこそ大国の「標的」になりやすいことにも注意が必要だ。既に世界の注目が集まった後、慌てて情報を追っているようでは「潮目」の先読みは出来ないということを、この地域は教えてくれそうである。
中央アジアを巡って火花を散らす大国
マーケットとそれを取り巻く国内外の情勢をめぐる「潮目」をウォッチする中、この関連で気になる報道が1つあった。1月21日付米インテルフュージョンによると、キルギスにある4つのインターネット・プロバイダーのうち2つのプロバイダーがサイバー攻撃を受けており、1月18日から使用できなくなっていたというのである。これを報じた米国メディアは、今回の攻撃を仕掛けている側のIPアドレスはロシア経由のものであり、これはロシア勢によるキルギスの反ロシア派に向けられた明確なメッセージであるとしている。
しかし、この記事を単にキルギスにおけるネットのトラブルや、「最近よくある」サイバー攻撃を伝えるものと捉えるのはいささか短絡的すぎる。むしろこのニュースは、キルギス、ひいては中央アジアを舞台として大国間の衝突が起こっていることを示唆するものとして読み解かれるべきであろう。このサイバー攻撃も、本当にロシア勢が仕掛けた可能性もあるが、他方では何らかの反ロシア勢力がロシアを悪者にするために、わざと仕掛けた可能性も考えられるのである。
それにしてもなぜ今、そしてなぜ中央アジアなのだろうか。1つにはやはり、上でも述べた豊富な天然資源が理由だと考えられる。これに関しては、実は既に大国間の「闘争」が繰り広げられている。かつて中央アジア諸国はソ連の一部であったため、その資源の輸送ルートは全てロシア向けのものであった。ソ連崩壊後も中央アジア諸国政府とロシア政府の繋がりは強く、このような独占的な輸送ルートもしばらく維持されたままであった。
しかし近年、この“聖域”に他の大国が“侵入”し始めている。例として、中国がトルクメニスタンでのパイプライン建設に乗り出したほか、ロシアからのエネルギー依存を解消したい欧州勢が中心となって中央アジアからロシアを通らずに欧州にガスを輸送する計画を進めているのだ。
更に、日本政府もこの流れに掉さす。カザフスタンとの間で原子力エネルギー分野における協力に合意し、それによって、これまで日本のウラン総輸入量の1%に満たなかったカザフスタンからの輸入量が、今後30〜40%にまで膨らむというのだ。ロシアの「裏庭」ともいわれる中央アジアでは、今後も大国が分け前を求めてうろつくことであろう。
他方、もう1つ忘れてはいけないのが中央アジアの「地政学上の重要性」である。オバマ政権が力を入れるものとして「アフガニスタン政策」があることは日本の大手メディアでも取り上げられているとおりである。米国はアフガニスタンでの対テロ戦争を展開するため、ウズベキスタンとキルギスに米軍基地を建設しており、後者にはまだ基地が残っている。更にロシア連邦軍の間では、米国がカザフスタンとウズベキスタンに軍事基地を開設する可能性が囁かれており、警戒を強めているというのだ(2008年12月16日付露ノーボスチ参照)。こうした動向を踏まえるならば、これからは中央アジアでは天然資源を巡る経済的紛争のみならず、より直接的な衝突、つまり地政学リスクの“炸裂”がありうるとも読み取れるだろう。
もし、実際に中央アジアで地政学リスクが高まれば、石油や天然ガス価格の高騰を招きかねない。また、この地政学リスクが、日本がウランの輸入を頼っているカザフスタンに派生すれば、発電の約3割を原子力でまかなう日本の電力セクターにも影響を及ぼし得るだろう。さらにいえば、日本の最大の貿易相手国である中国はタジキスタン、キルギス、カザフスタンという中央アジア諸国と境を接しており、それらとの関係も強い。つまり、中央アジアにおける地政学リスクの高まりに中国が関わることがあれば、それもまた日本のマーケットを変動させる要因となりうる。このような一連の可能性を意識し、前もって情報をウォッチし続けることこそが、マーケットの潮目を逃さないコツなのである。
オバマ大統領の中央アジアへの切り口とは
このような日本からは見えにくい中央アジア情勢を含めた最新の国内外情勢が示すマネーの「潮目」について、私は>2月7、8日に東京・横浜、21、22日に大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話したいと考えている。
1月20日以降、米国新政権については日々報じられ、オバマ新大統領や政府高官の顔を見ない日はないといってもいい程である。彼らの発言からは、米国は表向きアフガニスタン、北朝鮮、イランそしてパレスチナ問題に重点を置いているように見える。
しかし忘れてはならないのが、米国民主党といえば「人権問題」を得意分野としていることである。実際、民主党のクリントン元大統領下で高官を務めていたオルブライト元国務長官とコーエン元国防長官が、オバマ新大統領に対して「ジェノサイド(大量虐殺)予防のための国際的メカニズム」を形成するべきであるとの提言を2008年12月に行ったという事実がある。中でも重要なのが、軍事的手段を用いた予防も含まれていることである。つまり、オバマ新政権下でも「人権問題」が重視される見通しであり、更にいえばそれが新たな「地政学リスク」へと発展する可能性すらあるのだ。
これを踏まえた上でもう一度中央アジアに目を向けてみると、昨今の中央アジア諸国における人権問題に対して、米国勢が異論を唱えてきたことが想起される。2005年、ウズベキスタン政府は同国の東に位置するアンディジャン市における反体制派のデモ隊に対して発砲し、数百名が死亡するという事件が起きている。これを機に同国と欧米諸国との関係は悪化した。また、トルクメニスタンでもニヤゾフ前大統領下では大量の政治犯が虐殺されてきた。ニヤゾフの死後、2007年2月に就任したベルディムハメドフ現大統領は部分的な制度改革を行ってきたが、その人権保護は「十分というには程遠い」との声が米国上院から上がっている。中央アジアには人権問題が山積のまま残っているのである。
これらの人権問題にいつ米国がメスを入れるのか、そしてどのような手段を取るのかが今後のマネーの「潮目」に繋がってくるだろう。中央アジアを舞台とした新たな地政学リスクの“炸裂”が、既に仕掛けられているかもしれないのだ。
米国発祥の金融危機を機に、世界のシステムが大転換を迎えようとしている。中でも、他国に比べてより“マシ”なマーケットとして、日本が注目される可能性が高まっているのである。そのような中で私たち日本人がマネーの行方を見定め、マーケットで勝ち残っていくために、今何を考え、何をなすべきなのか?それについては2009年1月に刊行したばかりの拙著『大転換の時代――10年後に笑う日本人が今するべきこと』において詳述させていただいた。ご関心を持たれた皆様には、ぜひご一読いただきたく思う。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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