投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
偽人民元騒動が示す“新たな潮目”と日本経済への影響
経済刺激策で注目の集まる中国
去る2008年11月9日、中国国務院は2010年までに4兆元(約53兆円)の公共投資を行うことを発表した。具体的な投資対象は、(1)中低所得者向け住宅、(2)農村インフラ、(3)鉄道インフラ、(4)医療、教育事業、(5)環境対策、(6)ハイテク産業、(7)四川大地震の震災復興事業、(8)農村部の所得対策、(9)増値税改革、(10)商業銀行の融資規制撤廃、と盛り沢山である。新興市場として注目されてきた中国でも世界金融危機の影響で経済成長が急激に低迷、その対策としてこのような大規模投資で内需拡大を図り、比較的高い経済成長を維持するのが狙いだ。
この景気刺激策を受け、米系の“越境する投資主体”たちは中国マーケットの活性化に期待を寄せている。米国の調査機関によると、同国のフランクリン・テンプルトンやブラックロック、シュローダーGB-SDRといった大型投資機関が新興市場向けに投じた総額は約630億米ドル(約5兆7,000億円)であり、その内約15%が中国株式に投入されたという。また、2009年の“最優秀投資先”が中国になると予測している大手証券会社もある。その上、同国の国家情報会議(NIC)が発表した「将来の地球のマッピング(Mapping the Global Future)」と題する報告書でも、将来的に中国が米国とともに世界経済をけん引していくとしている。米国は国家単位で中国という「新興マーケット」の成長に注目しているのだ。
中国は地球上の実に5分の1の人口を抱える“大国”である。その中国に今、熱い視線が注がれている。
中国国内、そして海外に広がる偽人民元札
マーケットとそれを取り巻く国内外情勢をめぐる「潮目」をウォッチする中、この関連で気になる報道が1つあった。東南アジア諸国と香港において偽人民元札が流通しているというのだ(15日付マレーシア、ザ・スター・オンライン参照)。これまで北京、上海などでは「HD90」で始まる記番号の偽人民元札が問題視されてきたが、この記事が示すのは、その流通地域が更に拡大しているということだ。
このような「偽札の蔓延」は、マーケット動向を追い続ける私たちにとっても決して無関係な話ではない。というのも、偽札の蔓延は、その通貨に対する信頼が落ちることを“予言”するという面を持つからである。実際、我が研究所の調査レポートでは、7月上旬に偽ユーロ札が出回っていることを取り上げており、それから1ヶ月も経過しないうちにユーロが暴落を始めたという実例がある。つまりこのような「通貨の偽造」によって、その通貨が信頼性を失い、ついには暴落するということがあり、その背後で何らかのアクターが「得をしている」という可能性も考えられるのだ。
それでは、今回の人民元札の偽造も誰かが「恣意的」に行っていたとしたらどうだろう。その仕掛け人として考えられる1つが“米国勢”である。何を隠そう、米国は過去にも「偽札」を巧妙に利用した外交を行っていたとの情報があるのだ。
2003年頃、北朝鮮による偽造米ドル「スーパーダラー」が注目されたが、「米国自身が偽米ドルを刷っている」との議論が広まることで米ドルが暴落するのを恐れた米国勢が、北朝鮮を犯人に仕立て上げた可能性が高いのである(拙著『北朝鮮VS.アメリカ――「偽米ドル」事件と大国のパワー・ゲーム 』(ちくま新書)参照)。
このような過去を踏まえると、今回の偽人民元札の製造にも米国勢が絡んでいる可能性はある。しかしそれは米国勢にとってどのような利益があるのだろうか。しかも今月20日に大統領に就任したオバマ大統領が人民元の切り上げに力を入れていくと断言しているこのご時勢に、である。これらは一見矛盾した動きに見える。
しかし、これが米国勢にとって有利に働くというシナリオもありうる。それは次のようなものだ。
まず、人民元の偽札が出回っているとの情報をメディアを通じて拡散させる。それにより人民元への信頼が低下し、人民元が安くなる。そこですかさず米国勢は、この偽札騒動の原因を「中国勢が人民元切り下げのために通貨を操作しているため」と喧伝することが出来る。そのような見方が広まり、対中国批判も強まれば、逆に米国勢が主張するとおり「マーケットの原理に基づいた人民元の切り上げ」が実現するということもありうるだろう。
このような2段階のステップを踏むことで、「米国勢の願い=人民元の切り上げ」が叶うとすれば、今回の偽人民元札騒動の裏に米系“越境する投資主体”の存在が見え隠れすることも否定しきれないのである。
偽人民元札が東アジア経済圏に及ぼす影響とは?
このような中国人民元の動向を含めた最新の国内外情勢が示すマネーの「潮目」について、私は2月7、8日に東京・横浜、21、22日に大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話したいと考えている。
それではこのような人民元に関する予測は、日本経済にどのように響いてくるのだろうか。特に現在の麻生政権下では、日中韓の接近が著しく見られる。例えば、日中韓は2月27日から3月1日までタイで開催予定の ASEAN 首脳会議の場で、1,200億ドル(約11兆円)規模の外貨準備基金の創設合意を発表する予定であるという。更にこれら3ヶ国にロシアを加えた4ヶ国では、中国の長嶺子、ロシアのザルビノ港、韓国の束草、そして日本の新潟港を結ぶ輸送ルートが開通することになっている。つまり、これまで以上に東アジア各国の相互依存が強まっていくということなのだ。
そのような中、もし人民元への信頼が低下するとすれば、東アジア地域全体の経済はどのような影響を受けるのだろうか。まず域内経済では、人民元のプレゼンスが低下し、その分「より強い通貨」として特に「円」の重要性が増すと考えられる。
次に対外関係での影響だが、これは2通り考えられよう。つまり人民元が安くなることで輸出が拡大するという中国勢の狙い通りの展開と、逆に日中韓の東アジア経済への不審感に繋がり、外部との通商がより困難になるという展開である。今後の東アジア経済がいずれの道を歩むかについて、現段階で断言するのは難しい。しかし、東アジア地域の統合は今後も加速すると考えられる以上、私たち日本の個人投資家・ビジネスマンはそれらの情報を先読みし、「潮目」を敏感に察知していかなければならないのである。
このように公開情報を他の報道との関連で読み解くだけで、ある国の経済やその国が含まれている地域経済の先行きを予測することが出来るのだ。溢れる情報に埋もれることなく、そこから情報を選別し、分析することが今後日本の個人投資家・ビジネスマンに求められてくる。ではその技術をどうやって身につければいいのか。それに関する私なりの見解についてはこの1月に刊行したばかりの拙著『大転換の時代――10年後に笑う日本人が今するべきこと』において詳述させていただいた。ご興味を持たれた皆様にはぜひご一読いただければ幸いである。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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