『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

日本経済再編のカギを握るのは新潟だった?

地域経済統合と連動する物流整備

去る2008年11月22〜23日、ペルーの首都リマにおいてアジア太平洋経済協力(Asia-Pacific Economic Cooperation、以下APEC)首脳会議が開かれた。APEC は環太平洋地域における多国間経済協力を進める非公式フォーラムである。参加国は21ヶ国と少ないものの、同地域は世界人口の41.4%をカバーしている上に、その貿易額は世界の47%を占めている。この数字を見るだけで世界経済の先読みを行うためには欠かせない参照項であるといえるのだが、とりわけ今回の APEC 会議は世界規模の金融メルトダウン真っただ中という開催のタイミングも手伝い、世界の注目を集めていた。


その APEC 首脳会議における共同声明には、話題の金融危機への対応や食糧安全保障の確保が盛り込まれた。しかし、真に注目すべきポイントは他にある。さほど大手メディアの注目を浴びることのなかった「APEC 地域経済統合アジェンダ」こそ、今後多大な注意を払うべきものになってくるだろう。


この枠組みにおいては APEC 域内での自由貿易圏(Free Trade Area for theAsia Pacific、以下FTAAP)構想を展開すべく、FTAAP が与えるであろう経済効果の分析を進めていくこととされている。APEC の中でも、とりわけ日本にとっては貿易額の45.4%を占めるアジア地域内の貿易展望が重要になってくると考えられる。


このような域内貿易のスムーズ化に不可欠なものといえば、物流ネットワークの確立である。現に地域統合といえば誰もが思い浮かべるEUでも、物流市場が着実に拡大している。専門家の中には2015年の物流市場が2004年比で60%増加すると予測している者がいるほどだ。特に東方拡大の流れで、ドイツの物流業界には大きなチャンスが訪れているという。こうした点を踏まえ、アジア地域での貿易が今後も拡大するのであれば、その動向と同時にどこが「物流の拠点」になるのかという視点も持たなければならないだろう。

新潟に中国総領事館が設立されることの意味

マーケットとそれを取り巻く国内外の情勢をめぐる「潮目」をウォッチする中、この関連で気になる報道が1つあった。中国が新潟市に全国で6ヶ所目の総領事館を開設する方向で検討しているというのである(8日付日本経済新聞地方版参照)。既存の中国総領事館は福岡、大阪、札幌、長崎、名古屋の5ヶ所にあり、もし6ヶ所目が新潟に新設されれば日本海側初の総領事館になるという。一見何気なく読みとばしてしまいかねないが、上で触れたアジア地域の物流という観点からすれば、極めて重要な意味合いを持ったニュースだといえるのではないか。


これまで日中両政府は外交の原則である「相互主義」に基づき、両国の在外公館の数を同数にすることで調整を図ってきた。現在中国には日本大使館の他、重慶、広州、上海、瀋陽、香港の5ヶ所に日本総領事館があり、更に今年1月には6ヶ所目の総領事館が青島に設立された(この他にも大連に出張在官事務所が存在している)。それに応じる形で日本国内にもう1ヶ所中国総領事館を開設する方向で話が進んできており、その候補地として新潟以外にも仙台、広島、岡山が名乗りを上げたという。まだ外務省は中国側からの正式な要請を受けていないものの、「新潟に設立」という方向で話がほぼ進んでいるとのことである。


それにしても、なぜ新潟なのか。ここでキーワードとなるのが「アジアの物流」であろう。実は新潟港は日本に数ある港の中でも、特に重要な国際海上輸送網の拠点として「特定重要港湾」の1つに指定されている。そして同港からは主に中国、韓国、東南アジア方面にコンテナ航路が開設されている。つまり、新潟港は既に日本のアジア貿易を支える1つの“要”となっているのだ。


また、新潟港は西港と東港に分かれており、東港には日本最大のコンテナターミナルがある。財務省はそこに更に54億円の資金を投入し、2011年度末の完成を目処に3万トン級のコンテナ船が入港できる新たな岸壁を整備する予定だという。このように、中国総領事館の新潟設立と新潟港の整備が同時進行していることは、単なる偶然とはいえないだろう。むしろこれらは、新潟が対アジア貿易の「物流拠点」へと成長することを暗示するものといえよう。


他方、新潟港といえば現在は経済制裁によって寄港が禁止されている北朝鮮の「万景峰号」が出入りしていた港としても有名である。それを踏まえると、新潟港の重要性は北朝鮮外交の進展とともに増していく可能性もある。更にいえば、新潟港とロシアを繋ぐ定期航路「トランス・シベリア・コンテナ航路(TSCS)」が、数年の空白期間を経て2008年9月に数年ぶりに復活している。最近ではマツダ、トヨタといった日本の自動車メーカーがシベリア鉄道を使った欧州向けの輸送に注目しており、新潟港−ロシア航路からも目が離せない。


このように日本からの物流の重点が対アジア、ロシア、そして欧州に転換していくとすれば、これは新潟のみならず日本海側のいわゆる「内日本マーケット」の成長にも繋がりうるだろう。今後そのような転換が見られるのか、そして物流拠点の整備に向けた動きが新潟以外の内日本でも見られるのか、多角的な分析が必要になってくるだろう。

知られざる在外公館のもう1つの役割

このような内日本における物流マーケットを含めた最新の国内外情勢が示すマネーの「潮目」について、私は2月7、8日に東京・横浜、21、22日に大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話したいと考えている。


ところで在外公館といえば、一般的には「他国との外交や在外自国民の保護」という役割があると考えられているが、もう1つ別の顔があることにも注意が必要である――情報収集機関としての役割である。考えてみればこれは当然であって、外国の情報を自国内で、それも様々な媒介を通じて収集するよりも、現地に在外公館を設立し、そこから情報収集に繰り出した方が手っ取り早いに決まっている。では、もし今回、新潟が選ばれた理由の1つにそのような「目的」があるとすれば、一体何の情報が欲しいというのだろうか。


その1つとして考えられるのが、「資源」であろう。実は新潟沖では、新たなエネルギー資源として注目されているメタン・ハイドレードが大量に採取されているのだ。さらに新潟以外にも日本海にはまだ手つかずの資源が大量に眠っているともいわれている。現に日本政府は2018年度までに日本海の石油や天然ガスの分布を調査する計画を立てている(海洋エネルギー・鉱物資源開発計画)。「資源」の確保は今や各国の優先課題である以上、その情報もまた極めて高い価値を持つ。「資源」を巡るアジア諸国の紛争が今後どのような展開を見せるのか。上で言及した「アジアの物流」と並び、この点も日本の個人投資家・ビジネスマンにとって要注目である。


このように、「総領事館の新設」という情報からは、実に多くの「潮目」の予兆を読み解くことが出来るのである。金融メルトダウンによるシステム大転換の時期を迎えた今こそ、私たち日本人には単に情報を与えられるだけの受け身の態度ではなく、自ら情報を読み解き、道を切り開く積極的な姿勢が求められるのだ。それに関する私なりの見解については1月31日に大阪、2月1日に名古屋でそれぞれ開催される「新刊記念講演会」において詳しくお話する予定である。ご関心を持たれた皆様のご来場をお待ちしている。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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