≪緊急リポート≫未曾有の金融危機の行方は?(2)〜“沸騰点”に達した投資家の不安、その解消のために求められること
前回のこのコーナーでは、「NYダウと連動する『新興国リスクとは』」と題して、緊急レポートをお届けしました。そこでの主題は、「投資家たちが新興国の倒産リスクを意識せざるを得ないほど、今回の金融危機は深刻である」ということでした。
※前回の『≪緊急リポート≫未曾有の金融危機の行方は?(1)〜NYダウと連動する「新興国倒産リスク」とは』はこちらでご覧ください。
日経平均が26年ぶりの安値をつけたことを目の当たりにした皆さんも、事態が深刻であることは認識していることでしょう。しかし、「本当に国の倒産=破たんなんてありうるのか?」と思われているかもしれません。
今回は、“金融立国”アイスランドなどの例を紹介しつつ、現状および今後について、詳しく解説していきたいと思います。
“もっとも豊かな国の1つ”アイスランドの破たん
08年9月の名門証券会社リーマン・ブラザーズの破たんは、それだけでも歴史的な出来事です。しかし、今振り返ると「嵐の前の小さな嵐」だったのかもしれません。10月にはアイスランドという国家の実質的破たんという事態にまで発展したのです。
いくら名門とはいえ、いち金融機関の破たんが国家に対する信認を問うコンフィデンス・クライシス(信認の危機)にまで発展したのです。この状況を受けての投資家の投げ売りが、株価の下落を加速させました。
日本ではあまりなじみのないアイスランドですが、IMFによると1人当たりのGDPは世界第4位という非常に裕福な国でした。そして、それを支えていたのが、GDPの約25%を占める金融・不動産部門の伸びでした。つまりアイスランドは、世界有数の“金融立国”だったのです。
であるからこそ、リーマン・ショック以降の金融危機の影響をもろに受け、10月6日には、議会が同国の全銀行を政府管理下に置く法案を可決しました。つまり、実質的な国有化です。
しかし、実質国有化決定後も、政府ですら全負債を抱えきれないとの懸念は消えず、同国通貨クローナは下げ止まらず、事態はますます深刻化していました。
このアイスランドの実質倒産では、日本も直接的な影響を受けています。同国の銀行最大手カウプシング銀行が発行した円建て外債(サムライ債)が債務不履行(デフォルト)したのです。
事態の打開を図り、アイスランドはIMFから最大21億ドルの緊急融資を受けることで合意。その後も北欧諸国との交渉を続け、融資総額は60億ドル程度になる可能性があると報道されています。
危機的な状況にあるのはアイスランドだけではありません。IMFはウクライナやハンガリー、パキスタンなどへのそれぞれ1兆円規模の支援を検討し、一部は既に決定しています。
止まらないコンフィデンス・クライシス(信認の危機)
私はもともと、サブプライムローン問題に関しては悲観的な意見を持っていました。たとえば07年8月に寄稿した『27人のすごい議論』(文藝春秋刊)では、以下のように述べています。
米国は、これから景気が悪化していく局面になるのだ。となれば、ニューヨーク・ダウは、1万4,000ドルがピークとなり、景気悪化と共に下落に転じるのではないか。これが私の予測である。
『27人のすごい議論』176ページより
しかし、事態が「資本主義システムの崩壊」とまで呼ばれるほどの金融恐慌を引き起こし、日経平均が1日に1,000円単位で上下することまでは想定できませんでした。
なぜ想定できなかったのか。それは、コンフィデンス・クライシスに対する認識が浅かったからと言わざるを得ません。アイスランドの“破たん”に代表されるように、現在の問題は国の信認に関わる問題なのです。
その点について、元財務相の竹中平蔵氏は以下のように述べています。
今の危機はサブプライム危機という以上に、「政府がもはや事態をコントロールする能力を欠いているのではないか」という懸念が広がるコンフィデンス・クライシスであるといえる。それだけに最後の信用のよりどころとして政府・中央銀行がなりふり構わず事態収拾に動くしかない。
これまでも世界経済について様々な懸念が生じてきたが、今回の危機でこれらが一気に顕在化する「ティッピング・ポイント(沸騰点)」が到来した。非常事態を意識し、最悪のシナリオをも想定した対応が欠かせない。
日経新聞10月16日付「経済教室」より
新興国倒産リスクを払拭するには?
為替市場も沸騰点に達し、異常な状態が続いています。円の独歩高のことです。
通貨は、それに対する信頼があるからこそモノやサービスと交換することができます。しかし、その通貨を発行する国家に対する信頼がなくなったらどうでしょうか。紙くずになるかもしれないという危険性のある通貨を誰もほしがらないでしょう。
そうした状況が先に述べたアイスランドなどで起こり、通貨の価値が暴落しました。またお隣の韓国ウォンも歴史的な大暴落に見舞われたのです。
そんな中、円だけが基軸通貨である米ドルに対し、またユーロに対しても価値を高めました。それは、「日本の価値、日本に対する信認が高まっている」と読み替えてもいいものであり、本来は心強いこととして好感すべきことです。
しかし、日本の経済は多くの面で外需に支えられています。外国人投資家が多くの株式を保有していますし、優良企業の多くは輸出により収益を稼いでいます。そのため、株式市場では円高がマイナス要因となってしまうのです。
その結果、日本株は大きく売り込まれ、たとえばソニー(6758)のような日本を代表する企業であっても、その株は解散価値を大きく下回るまで売られています。
私は、こうした状況を変えるためには、やはり今苦境に立たされている新興国が持ち直すことが必要だと考えています。
前回お伝えしたとおり、NYダウと、新興国国債を扱う米ETF「EMB」の値動きは連動しています。
投資家が新興国に対して抱く倒産リスクが解消されない限り、不安定は状況は続くと考えられます。
だからこそ、IMFや世界銀行による新興国に対する資金投入が必要になってきます。この状況下にあっても、JPモルガンなど財務体質が比較的良好な金融機関の株価は、資金投入が決定した後、底堅く推移しています。それと同様のことが新興国についても求められるわけです。
私は、新興国に対してスピードと規模を伴う資金投入が行われれば、新興国の倒産リスクから派生している株価の暴落に歯止めがかけられるのではないかと考えています。日本の個人投資家にとっても、足元の日経平均の乱高下だけに目を奪われるのではなく、広い視野を持ち、海外、特に新興国の動向に注意を払うことが不可欠なのではないでしょうか。
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。