株価への影響は?半値に暴落した原油価格はどこまで下げ続けるか
ピーク時の半額まで急落した原油価格
“金融恐慌”ともいえる事態に陥った08年10月。世界中の株価が大暴落に見舞われ、日経平均株価も連日のように1,000円近い乱高下を繰り返しました。そんな株価の推移にのみ目を奪われがちですが、投資家としてはここ最近の原油価格の動きも無視するわけにはいきません。原油も株価同様に大きく値を下げています。
原油の価格は、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)と呼ばれる指標が世界標準となっています。以下はこちらでご覧いただけます。
08年年初から半年強で4割以上も上昇したWTIは、7月以降下落傾向が鮮明になりました。特に9月22日に一時的に高値をつけた後は急落し、10月16日には1バレル70ドルを割り込みました。現在も、70ドル台半ばで推移しています。
リーマン・ショック以前は原油をはじめとする商品価格の高騰に戦々恐々とする報道が目立ちました。特にガソリン代の高騰は家計にも大きく影響を与える重大な問題だと認識されていました。それが、一気にピーク時の半額にまで下落したのです。
私自身は、平日毎日お届けしているメールマガジンの中で、原油価格がピークを迎える前のタイミングで、以下のような予想をしていました。
日本株を考える上でも、世界の株を考える上でも、その国だけ、またその国の企業だを調べればいいという時代は、ずいぶん前に終わっている。中でも、特に注意をもって見守らなければならないのがエネルギーの王様、原油価格の動向だ。
私は、原油価格が120ドルを超えた水準は、明らかに割高であると考えている。投機性資金が流入しており、逆回転を起こせば場合によっては1バレル100ドル割れも起こりうると考えている。そのことは、世界中を回りながら確認している点だ。
その後の原油価格の推移はこの予想通りだといえます。ただ、あまりにも急激な下落だったことは否めません。【ポイント1】
原油価格を左右する中国
先ほど私は原油価格について、「世界中を回りながら確認している」と述べましたが、その際に忘れてならないのが中国の存在です。世界の原油消費量の4割を占める中国は、その価格に大きな影響を与えます。
中国政府はこれまで、財政補助金制度により国内で流通する原油価格を、世界標準より安価にするよう統制してきました。そのため、コスト安を期待した世界の企業がこぞって中国に進出していたのです。いくら原油価格が上昇しても、その上昇分を政府が補助金で補てんしてくれるからです。
しかし08年6月下旬、中国政府は補助金制度を縮小、原油価格上昇のコストを企業に転嫁することを決めました。あまりにも原油価格が上昇したため、政府当局がさじを投げてしまったということなのでしょう。
この事態にあわてたのが投機資金です。今までは、いくら原油価格が上昇しても、大量に使用する中国が政府の補助金で企業を助けていたので、企業の原油需要が減退することはなく、原油価格が上昇し続けることに賭けることができました。
しかし、補助金の縮小により、企業は原油の使用を控えコスト削減に向かうことが予想されます。つまり、原油の需要減退が予想されるわけです。そのため、これまで原油に流れ込んでいた投機資金が逆転してしまったのです。
加えて、金融危機による米国をはじめとする各国の景気後退懸念と、それに伴う原油需要の減退の可能性から、急速に原油価格が下落しているわけです。
先に述べたように原油価格の高騰はガソリン代をはじめとした家計に身近な物価の上昇にもつながりますし、企業にとってはコスト高というマイナスの要因になりえます。
一方で、ここ最近の原油価格の急落を背景に、日本株の中でも大きく値を下げた銘柄も少なくありません。その代表格が、資源関連銘柄と呼ばれる商社です。以下で、その典型例であり、収益の約8割を資源関連で稼ぐ三菱商事(8058)の株価と日経平均株価の直近3ヶ月の値動きを比較してみましょう。
双方とも9月以降大きく値を下げているのはサブプライムローン問題、リーマン・ショックの影響です。しかし、三菱商事が日経平均よりも大幅な下落を強いられているのは、原油価格の急落に連動したものです。実際、WTIの大幅下落を受けて始まった10月16日は、三菱商事だけでなく、三井物産(8031)、伊藤忠商事(8001)、住友商事(8053)もストップ安となりました。【ポイント2】
原油価格はこのまま下がり続ける?それとも…
その値動きが株価に大きな影響を与える原油。では今後はどのように推移するのでしょうか。私は、それを予想するためのキーワードは「新興国」だと考えています。
これまで原油価格が上昇していた背景には、漠然とした新興国に対する期待がありました。新興国の原油需要がどれほど伸びるか、はっきりとは分からないが期待できるだろうという雰囲気です。この点がオイルショックのころとは異なります。
オイルショック時は、先進国でどの程度の原油が必要とされているのか、おおよその需要は分かっていました。しかし今回は、それが分からないまま、期待が先行し、需給のバランスが需に傾き、原油価格を大きく押し上げたのです。
その期待が一気にしぼんだことが、現在の原油価格下落の要因といえます。
こうした投資家や投機資金の新興国に対する心理を如実に物語っている指標として、新興国債券に連動するETF「EMB」があります。
iShares JPMorgan USD Emer Mkt Bnd Fd ETF (Public, NYSE:EMB)
このEMBが元本である100を大きく割り込んでいます。債券は通常、毎年、または半年ごとにクーポン(配当)が入ります。満期償還を迎えれば投資した全額が戻ってきます。
その債券が、元本を割り込んでいるということは、極端な言い方をすれば、投資家たちが新興国の“倒産”の可能性すら心配しているということです。【ポイント3】
こうした状況が続くのであれば、たとえ原油価格が上昇しても一時的なことでしょう。
しかし、逆に言えば、新興国の成長性=原油需要の拡大への期待が高まれば、原油価格も再び上昇する可能性があります。そうなれば、資源関連銘柄の魅力は大いに増すと考えられます。
株価はさまざまな要因に反応します。その重要な要素の1つが原油価格です。直近のパニック的な株価の動きにのみ目を奪われることなく、こうした要因にもきちんと注目することが求められるのでしょう。
- 【ポイント1】
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中国を訪問し、現地の投資家やエコノミストとのディスカッションを重ねたからこそ、ピンポイントで原油価格の下落を予測することができたと考えています。いまや投資をする上で、世界の情報は不可欠です。
特にアジアに関しては、9月より『投資脳のつくり方〜海外株バージョン』と題したメールマガジンを創刊しました。ご興味ある方はこの機会にぜひご登録いただければと思います。
『投資脳のつくり方〜海外株バージョン』
また中国株関連の情報はこちらでもご覧いただけます。
『木下晃伸の中国株ニュース徹底解説』 - 【ポイント2】
- 原油価格を予測するには、新興国の状況を見ることが必須になっています。特に中国は、これからもウォッチしていく必要がある重要な国です。日本株では、資源との連動性が高い商社などは、新興国関連とみなして投資することが求められるでしょう。
- 【ポイント3】
- アイスランドやスイスなど、いわゆる「金融立国」が、アジア通貨危機当時を彷彿とさせる事態に陥っています。それが投資家の心理を極度に冷やし、結果として、新興国の破たんすら心配されるようになっています。 この不安心理が正常に戻るのに、どれほどの時間がかかるのか。北米需要の後退など景気悪化懸念は根強く残るでしょうが、金融恐慌が落ち着いたことで、過度の悲観論は後退するのではないか、と考えています。
いままでは米国を中心に情報を収集していれば事足りました。しかし、いまや「米国」「欧州」「アジアなど新興国」という3極の情報をつぶさに観察しなければ、分析の基本も行えない、という状況です。“情報小国”である日本では、自らが積極的に情報を取りに行かなければいけない、との思いを最近ますます強めています。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。