≪緊急リポート≫未曾有の金融危機の行方は?(1)〜NYダウと連動する「新興国倒産リスク」とは
株価の暴落が止まりません。東京市場では10月27日、日経平均株価がバブル後最安値を割り込んだ後も下げ止まらず、26年ぶりの安値となる7,162円90銭で取引を終えました。翌28日も前日のニューヨーク市場の下げなどを受け、前場で一時、7,000円台を割り込んでしまいました。
株式市場はまさにパニック状態といえます。そこで、今回と次回の2回にわたり、この未曾有の金融危機の行方を解説する緊急リポートをお届けしたいと思います。
日経平均、26年ぶりの安値で7,000円台を割り込む
日経平均がバブル後安値を割り込んだ27日、実は前場では割安感に注目した買いが入り、一時7,800円まで反騰する場面があり、安堵の空気が流れました。しかし、それもつかの間、資本増強のニュースが流れたメガバンク株が相次ぎ制限値幅の下限(ストップ安)水準まで急落しました。同時に、急速に進む円高を嫌った売りなども重なり、その日は大幅安で取引を終えました。
日本のメガバンクは、今回の金融危機への対応として財務体質の強化を急いでいます。たとえば三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は27日、普通株と第三者割り当てによる優先株の発行で、最大1兆円を増資すると正式に発表しました。これは、保有する株式の含み損による自己資本比率の低下を防ぐことが狙いです。
この自力での大型増資は、財務基盤をいち早く強化して、金融の安定化につなげようとする姿勢として評価できます。しかし、増資は株価の希薄化を招くのも事実です。それもあって、増資を発表した27日に三菱UFJ株は大幅に下落し、時価総額はこの日だけで、増資額とほぼ同額の1兆900億円も減少してしまいました。
全面安に見舞われたアジア株式市場
もちろん、暴落に見舞われているのは日本市場だけではありません。“震源地”である米国はもとより、アジア各国でも株価が大きく下落しています。
27日のアジア株式市場では、主要株価指数がほぼ全面安の展開。香港ハンセン指数は、前週末比12.7%安の1万1,015.84で引け、04年5月17日以来の安値を記録。中国・上海総合指数は同6.3%安、台湾株は同4.6%安でした。
こうした動きの中、私が特に注目しているのが中国の金融機関です。以下に最大手の中国工商銀行と、中国建設銀行の株価を見てみましょう。
・中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of China)
・中国建設銀行(China Construction Bank Corporation)
両行とも27日に大きく値を下げています。その要因としては、「伸びの鈍化」が挙げられます。
中国工商銀行の7−9月期純利益は前年同期比25.5%増281億9,900万元(約3,900億円)、中国建設銀行は同12.1%増でした。決して悪い内容ではないでしょう。しかし、08年6月中間期の増益率はそれぞれ、57.3%と71.4%だったことから、「伸びが鈍化した」と判断され、それが嫌気されて株価が大きく下落しているのです。
また、6月末から9月末の融資残高と預金残高の増加率を比較すると、中国工商銀行では融資が1.4%の伸びに対し、預金が4.8%。中国建設銀行では融資が2.5%に対し、預金が5.7%の伸びとなっています。つまり、銀行として金利を受け取る融資よりも、支払わなければいけない預金の伸びの方が大きいため、金利支出が収益を圧迫しているのです。
また、今年1月の法人税改革に伴う実効税率の引き下げという増益要因を考慮すと、見た目の増益ほどには業績は伸びていないと考えることもできるでしょう。そこに世界的な金融危機です。投資家たちが、業績が来期以降悪化すると懸念しているのかもしれません。
ダウの推移と連動する「新興国倒産リスク」
26日付の上海証券報によれば、中国工商銀行が保有するリーマン・ブラザーズ関連の債権額は同行の総資産の0.01%、サブプライムなど住宅関連債券の合計でも0.14%にとどまるといわれています。つまり、邦銀と同様サブプライムの直接的な影響を免れ、財務体質は比較的健全であるといえるでしょう。
それでも株価は大きく下がっています。邦銀にしても、財務体質の更なる強化のための増資を発表してもストップ安水準まで売られるのです。
そうしたパニック状態の中、投資家たちは「新興国倒産リスク」すらも考えるに至っています。そのことがよく分かるのが、前回もお届けした、ロシアやブラジルなど新興国国債を扱う米ETF「EMB」の値動きです。
・iShares JPMorgan USD Emer Mkt Bnd Fd ETF
本来、“100”で償還されなければならない国債が、なんと4割近くもディスカウントされているのです。もちろん国債はその国が倒産にない限り100で償還されます。
しかし、実際には投資家が新興国の倒産を想定し、EMBに含まれる新興国のいくつかが倒産し、国債が紙切れになってしまうかもしれないリスクを考えている結果、EMBがディスカウントされているのです。
そして驚くことに、EMBの値動きと米ニューヨークダウの値動きが、ここ3ヶ月連動しているのです。
NYダウとEMBの連動
この新興国の倒産リスクについては、あまり報道されていませんが、こうした状況を見れば、今後を考える上で注目する必要があることが分かります。
次回は、この新興国倒産リスクに焦点を当て、「リスクはいつまで続くのか、そもそも解消できるものなのか」を詳しく解説したいと思います。
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。