投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
オバマ政権下の米宇宙政策が示す新たな「潮目」とは
米国政権交代を前に揺れる NASA
世界の宇宙開発機関にはロシア連邦宇宙局、欧州宇宙機関(ESA)、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)などがある。しかし、宇宙開発と聞いて真っ先に名前が挙がるのは、やはり米国の国立航空宇宙局(NASA)ではないだろうか。NASA の功績はアポロ計画の遂行、スペースシャトルの発明、国際宇宙ステーション設立におけるイニシアティヴなど枚挙にいとまがない。
他方、これらの功績を構築するまでには莫大なコストがかかっていたのも事実である。アポロ計画の総費用は現在の貨幣価値に直すと約1,350億ドル、またスペースシャトル1ミッションあたりの費用は現在でもおよそ4億5,000万ドルといわれている。国家の威信をかけて行ってきた宇宙開発だが、昨今の金融メルトダウンの中でも同レベルのコストがかけられるのかという点は甚だ疑問である。
実際、1月20日に就任予定のオバマ米次期大統領下では、NASA の予算削減が囁かれている。オバマ政権移行チームは NASA に対し、有人ロケット・アレス1の開発を中止させた他、オリオン有人宇宙船についても開発の見直しを要求しているという。このような政権移行チームの強硬な態度に対抗し、NASA 側も情報提供を渋るなどサボタージュに出ているとの情報もある。
オバマ次期政権下で米国の宇宙開発が確実に縮小するかを判断するにはまだ情報が少ない。しかし、次期政権下で米国における宇宙開発の「潮目」が訪れる可能性は十分にあるだろう。それがどのような方向に転ぶのかが気になるのは、NASA 関係者だけではない。
NASA との重要な契約を勝ち取った新興企業
マーケットとそれを取り巻く国内外の情勢をめぐる「潮目」をウォッチする中、この関連で気になる報道が1つあった。NASA が国際宇宙ステーションへの輸送業務のため、2つの新興企業と総額35億ドルの契約を締結したというのである(2008年12月24日付仏レゼコー参照)。「ロッキード・マーチンとボーイングを差し置いて」という記述もあるとおり、これは米国の宇宙開発分野において中小企業の重要性が高まっていることを暗示する記事だといえよう。
今回 NASA が契約を締結したのは、Space Exploration Technologies(以下SpaceX)と Orbital Science Corporation の2社である。これらの企業は2010年に完成予定の国際宇宙ステーションに荷物を配達し、逆に撤収も行うことになっている。SpaceX は2002年6月にイーロン・ムスク氏が設立した宇宙輸送会社である。同氏は1998年にインターネットを利用した決済サービスができる PayPal を立ち上げた人物でもあり、インターネット業界との関係が強いことが窺える。
後者の Orbital Science Corporation は1982年にデイヴィッド・トンプソン氏、ブルース・ファーガソン氏、スコット・ウェブスト氏の3名が設立した衛星の発射・製造を手掛けている会社である。この3氏はハーバード・ビジネス・スクールで知り合い、当時 NASA の支援を受けながら商業用宇宙応用分野の研究を共同で行っていたという。この Orbital Science Corporation にはもともと NASA とのコネクションがあったことが分かる。
しかし、この政権交代を目前に控えた時期に米国政府機関である NASA が新興企業と契約を締結したのはただの偶然ではないだろう。その証左として、オバマ米次期大統領が政権移行チームの宇宙開発分野担当にベンチャー・キャピタリストのトム・ウィーラーを任命している点が挙げられる。この人選は次期オバマ政権におけるポリシーを反映している可能性が高い。
また、この大企業から中小企業へのシフトという潮流で忘れてはならないのが、以前のコラムでも取り上げた米国インテリジェンス機関とIT業界の関係である。そもそもITとは、米ソ冷戦の際、遠隔地にある複数のコンピューターを繋ぐ通信手段として発明されたものであり、その開発を行っていたのがインテリジェンス機関なのである。そしてそのインテリジェンス機関の発明を民生利用するためのベンチャー企業に技術を植え付け、インテリジェンス機関が設立したファンドが投資し、株式を上場、最終的にはインテリジェンス機関自体が利益を得るという構造があるのである。
例としては米国中央情報局(CIA)が1999年に立ち上げたベンチャー・キャピタル In-Q-Tel がある。In-Q-Tel は特に米国の安全保障に資する技術を持っているベンチャー企業に投資を行っているという事実がある。つまり、国家政策として中小企業への注目を高めれば、これらのベンチャー企業、引いてはそこに出資しているインテリジェンス機関も利益を得ることになる。こうしたインテリジェンス機関に由来するベンチャー・キャピタルの存在も、大企業から中小企業へという流れに拍車をかけていることもまた重要な点であろう。
以上のように、米国では宇宙開発分野に限らず、大企業から中小企業へという流れが見られている。特に中小企業は既に規模の大きな企業に比べて成長を見込める幅が広く、そういった意味で投資家にとって“おいしい”案件であると言えよう。来る1月20日に控えた米国政権交代という大きな「潮目」を迎えて以降、このような中小企業への注目が加速していくのか、目が離せない状況が続くだろう。
意外なあの国で加速する宇宙開発
このような「大企業から中小企業へのシフト」というマネーの「潮目」について、私は2月7、8日に東京・横浜、21、22日に大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話したいと考えている。
宇宙開発といえば、最近意外な国での開発に力が入れられている――ベトナムである。ベトナムでは2008年12月の中旬に「第15回アジア太平洋地域宇宙機関会議」が開かれ、同国の宇宙開発のため日本、米国、欧州の宇宙機関が協力していくことを確認したという。特にその中で日本が果たす役割は大きい。日本からは日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)の最先端技術をベトナムに提供する他、330億円の ODA 資金を充ててハノイ市に「宇宙技術研究センター」を建設するというのである。
他方、ベトナムといえば人件費が安く、世界からのアウトソーシングが集まる「軽工業の国」というイメージが一般的には強い。そのベトナムで高い工業レベルを必要とする宇宙開発が進もうとしていることには驚きを隠せない。では、なぜベトナムなのだろうか。
それを考える1つの手がかりとなるのが、隣国タイにおける動向である。実は、タイは最近になってロシアとの協力で宇宙開発を進めているという事実があるのだ。その証左として、去る2008年10月に、タイがロシアのウラル山脈南部にある発射台から地球観測人工衛星を発射していることがある。また宇宙開発以外でも、タイがロシア製の武器の購入を進めつつあるという情報すらある。タイといえば、現在亡命中のタクシン前首相が親米派であり、米国譲りの大胆な「破壊」ビジネスをタイで展開していたことはよく知られている。そのタイでタクシンの失脚以降、いわば「ロシア・シフト」とも言える動きが見られているのだ。それに西側諸国が反応しないわけがない。つまり、昨今のベトナムにおける宇宙開発の動きは、西側諸国による「タイ・ロシア接近」への「反撃」ともいうことが出来るのだ。
ベトナムを拠点とする西側諸国とタイに接近するロシア、このような東南アジア地域における「宇宙開発合戦」の先行きは非常に気になるところである。特に日本はベトナムにおけるプログラムで中心的役割を担っており、日本の宇宙防衛産業の動向との兼ね合いで、日本の個人投資家・ビジネスマンとしてもその展開をしっかり注視していきたいところである。
このように、私たちが知らない間に日本が海外で何らかの中心的役割を担っていることがある。特に金融メルトダウンで米国の一極支配が疑問視されている今こそ、日本の国際社会における存在感が高まっていくかもしれないのだ。そのような中私たち日本人には何が求められてくるのだろうか。その点については、「新刊記念講演会」において詳しくお話する予定である。ご興味のある皆様には、ぜひ足を運んでいただきたいと思う。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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