08年株式市場ふりかえり(1)〜上半期、見え隠れする“恐慌”の予兆
2008年も残すところ後わずかとなりました。思えば、本当に色々なことが起こった年でした。相場で言えば、秋以降に急速な悪化に見舞われたことが強く印象に残っていると思いますが、そして、今振り返れば、前半にその予兆があったことに気づかされます。
09年、新たな気持ちで投資に臨むためにも、08年に何が起こったのかを整理しておくことは重要です。そこで今回と次回の2回にわたり、08年の振り返りをお届けします。
【1月】大発会、株価暴落スタート
≪日経平均株価/1万4,691円→1万3,592円≫
株式市場は、今年が波乱の1年になることを予想していたのかもしれません。2008年最初の取引となる4日の東京株式市場の大発会で、日経平均が急落したのです。
07年の終値は1万5,3075円でしたが、4日は取引時間中に一時765円安となり、終値でも616円安の1万4,691円で、07年11月につけた安値(1万4,837円)を割り込んでしまいました。大発会での株価下落は実に7年ぶりのこと。波乱の幕開けとなりました。
戻りを期待し、「子(ね)は繁栄を表す縁起の良い年。相場の活況を期待する」という意見も聞こえましたが…。まさか100年に一度の恐慌と呼ばれる程、荒れた1年になろうとは、少なくとも私は、この時点では予想すらしていませんでした。
【2月】東芝、HD-DVD 事実上撤退へ
≪日経平均株価/1万3,497円→1万3,603円≫
2月、東芝(6502)が「HD-DVD」規格の新世代 DVD から事実上撤退する見通しが明らかになりました。ソニー陣営の「ブルーレイ・ディスク(BD)」との規格争いで劣勢に立たされ、事業を抜本的に見直す方針を固めたのです。
これにより電機業界を二分してきた新世代 DVD の標準規格争いは、BD 方式の勝利で決着することとなったのです。
東芝の西田厚聡社長は撤退を決めた最大の要因として、「1月のワーナー・ブラザーズの方針転換が大きい。ワーナーなき後、当社が細々と事業を続けるのは消費者にも迷惑がかかる。事業的にも、もはや勝ち目がないと判断した」と語りました。
しかし、BD の販売不振の報道も聞かれ、新世代 DVD のデファクトをとったソニー(6758)にとっても、大きな収益を稼ぐ事業体とはいえない状況です。
【3月】ベアー・スターンズ救済
≪日経平均株価/1万2,992円→1万2,525円≫
米証券大手ベアー・スターンズの資金繰り危機は、米連邦準備理事会(FRB)が直接、緊急融資をして破たんを回避する非常事態に発展しました。
3月の時点では、「悪材料で尽くし」とばかりに株価は反発していました。しかし、その分、9月のリーマン・ブラザーズ破たんで株価が急落したのかもしれません。
ベアーは1923年に株式仲介業者として創業、大恐慌や世界大戦の荒波を乗り越え、米国第5位の大手証券に成長した有力企業でした。2001年にトップに就いたジェームス・ケイン前最高経営責任者(CEO)の下、積極経営に舵を切り、住宅ローンの証券化業務などを急速に拡大させていました。
ベアーは、こうした高リスク経営があだとななった“最初”の事例であったことを、私たちは08年後半に思い知らされることになります。
【4月】サブプライム関連損失、みずほFG5,600億円
≪日経平均株価/1万2,656円→1万3,849円≫
4月発表のみずほフィナンシャルグループ(以下みずほ、8411)の業績下方修正により、海の向こうの問題だったはずのサブプライムローン問題が、いよいよ日本にも牙をむき始めたことが鮮明になりました。
みずほは08年3月期の期初時点では過去最高の7,500億円の最終利益を予想していました。しかし夏以降、サブプライム問題が徐々に深刻化し、9月の中間決算の段階で、6,500億円に下方修正。そして08年に入ってから1月にもに下方修正する異例の事態となり、最終的には前の期の半分にあたる3,100億円で着地しました。
今年度09年3月期は、その08年3月期比で増益を目指していましたが、2割減の2,500億円で着地する見通しです。傘下銀行合計で前年同期の 2.4倍にあたる1,300億円余りに達した不良債権処理が足を引っ張ったためです。
メガバンクはまさに正念場を迎えているといえます。
【5月】四川大地震
≪日経平均株価/1万3,766円→1万4,338円≫
5月には中国四川省で大規模な地震が発生しました。中国メディアは、「1976年に河北省で発生し、約24万人の死者を出した唐山地震以来、最悪の被害」と報道。実際に、死者6万9,000人、行方不明者1万8,000人、居住が不可能になった住宅450万戸という未曾有の被害となりました。
四川省には2010年までの3年間で、3兆元(約42億円)が投資される見通しとなっています。うち、地震復興に1兆6,700億元が使われる予定で、残りは鉄道敷設や資源開発に使われる予定です。
この3年間で3兆元という額は、07年までの3年に投入された投資額(1兆4,000億元)の2倍以上の規模です。これにより被災地が復興し、そこに住む方々に笑顔が戻ることを期待するばかりです。
【6月】鉄鉱石最大96.5%値上げ
≪日経平均株価/1万4,440円→1万3,481円≫
6月、中国の鉄鋼最大手・宝鋼集団と豪英系資源大手のリオ・ティントが、08年度のオーストラリア産鉄鉱石価格交渉が値上げ幅79.88〜96.5%で合意したとの発表がありました。
宝鋼は中国の鉄鋼メーカーを代表してリオ・ティントと交渉していました。当時、リオ・ティントは「我々にはサスペンション・レター(供給停止通知書)を出す用意もある」と、値上げに応じない場合の取引停止をほのめかしたといいます。
この合意を受け、日本の鉄鋼大手も値上げを受け入れざるを得なくなり、原材料の値上がりが収益を圧迫することとなりました。鉄鉱石に限らず、原油なども歴史的な高値をつけ、企業だけでなく、家計にも影響したことをおぼえていらっしゃる方も多いでしょう。
ただ私は、「一方的に勝利する資源ナショナリズムは常識的に考えても長続きしない」と各種媒体やメールマガジン等でお伝えしてきました。行き過ぎた価格高騰は、その後の暴落の予兆だったともいえます。しかし、年後半にあれだけ資源価格が暴力的に下落するとは…。
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ここまで08年上半期を振り返ってみました。今振り返ると特に驚くようなこともなく、平穏な半年だったと思われるかもしれません。日経平均も1万2,000円〜1万4,000円台を維持していました。
しかし、それが「嵐の前」の静けさであり、この期間のちょっとした“予兆”が、下半期に大きく牙をむくこととなります。
次回は「100年に一度の恐慌」に見舞われた08年下半期を振り返りながら、09年 の投資ヒントを探りたいと思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。