08年株式市場ふりかえり(2)〜“100年に一度の危機”に見舞われた下半期

先週は「08年株式市場ふりかえり(1)〜上半期、見え隠れする“恐慌”の予兆」と題して、今年上半期のニュースを解説しました。今回は下半期を振り返り、来年の展望を読み解くヒントを探したいと思います。

※前回「08年株式市場ふりかえり(1)〜上半期、見え隠れする“恐慌”の予兆」
こちら

【7月】WTI原油価格がピークアウト
≪日経平均株価/1万3,463円→1万3,376円≫

7月、原油の世界指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)が終値での最高値を更新する1バレル145ドルをつけました。前回もお伝えしたように、原油、そしてその他原材料費の値上がりが企業のコストを押し上げ、家計にも影響を及ぼしていました。

しかし、私は原油がほぼピークを迎えた7月8日の時点で、「私は、原油価格は120ドルを超えた水準は、明らかに割高であると考えている。投機性資金が流入しており、逆回転を起こせば場合によっては1バレル100ドル割れも起こりうると考えている」と指摘していました。

※無料メールマガジン『投資脳のつくり方』より

実際、このピークのあと急落しました。現在では3分の1程度まで下落しています。下落自体は予測できたものの、ここまでになるとは…。

北京オリンピック開催
≪日経平均株価/1万3,094円→1万3,072円≫

水泳の北島康介選手、ソフトボールの上野由岐子投手の活躍をはじめ、日本が大活躍した北京オリンピック。

開催地の中国については、北京オリンピックをきっかけに経済が伸びるため、株価も上がる…と期待されていました。しかし、その期待とは裏腹に、株価は大きく下落していました。

そうした中国の“盛り下がり”は、8月の海外(香港、マカオ、台湾含む)からの北京市への来訪者数が38万9,000人で、北京五輪が行われたにもかかわらず、昨年同月比7.2%減少(北京市旅遊局)だったことに現れているでしょう。すでに、人心が中国から離反していたのです。

では、このまま経済がダメになってしまうのか。私はそうではないと考えています。中国に進出する欧州連合(EU)系企業の商工会である中国EU商工会議所が先ごろ行った調査で、EU系企業の70%が、中国市場における自社の純利益の伸びについて「楽観視している」と回答していたことが分かりました。

こうした点は、「力強いこと」だと思います。

【9月】リーマン・ショック
≪日経平均株価/1万2,834円→1万1,259円≫

詳しい説明は不要でしょう。9月14日、米証券業界第4位のリーマン・ブラザーズが破たんしました。

既に前号でお伝えしている通り、3月には同5位のベアー・スターンズが経済危機に陥り米政府に救済されていました。しかし、リーマンは救済されず破たんした。そのため、市場関係者は「更なる破たんが起こりうる」と、米当局の金融政策に対して懐疑的な目を向けるようになりました。

しかし、一方でアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)には巨額の公的資金を投入するという“ダブル・スタンダードにより、投資家の不安は一気に高まりました。

こうした不安・不信感が翌月のパニック的な売りにつながったといえるでしょう。

【10月】G7、公的資金投入を表明
≪日経平均株価/1万1,368円→8,576円≫

リーマン・ショックを契機に、いわゆる“クレジット・クランチ(信用危機)”が起こりました。これまで一部の金融機関の問題だと思われていたものが、全世界の金融機関にまで広がったのです。

事態の深刻さは、あのモルガン・スタンレー証券は、とうとう三菱UFJフィナンシャル・グループの傘下に入る決断を迫られるほどだったといえばよく分かるのではないでしょうか。そして、救済する側だった三菱UFJをはじめとする日本のメガバンクも株価下落と急激な景気悪化による不良債権の増大により、業績が悪化しました。

しかし、10月中旬に開催されたG7(先進国首脳サミット)において、世界各国が力を合わせて難局を乗り切る構えを見せたことにより、株価はいったん落ち着きを取り戻し、底堅く推移することになりました。

各国政府が、公的資金投入をもって金融システムを救うという“大義名分”を
発信したことが、投資家の不安を和らげたのです。

【11月】金融サミット開催
≪日経平均株価/9,114円→8,512円≫

G7からさらに踏み込んで、世界各国が手と手を取り合い危機に対処する覚悟を見せたのが、11月に開催された金融サミットでした。これには、G7だけでなく、新興国も加えた20ヶ国が参加しました。

今回の恐慌は、“100年に一度”と呼ばれ、1939年の世界恐慌とよく比較されます。

もちろん、問題自体が完全に解決したわけではありません。しかし、39年の世界恐慌時に比べて各国が団結していることは高く評価できるでしょう。

具体策がないなどの批判もあります。しかし、金融サミットにおいて各国が足並みをそろえ、首脳宣言を採択し次回開催を決めたことは評価でき、いずれ株高を起こす予感を感じさせるものとなったのです。

【12月】ビッグ3に破たん危機
≪日経平均株価/8,397円→8,747円≫

12月、世界中から最も注目を集めた企業は、今年で会社設立から100年のゼネラル・モーターズ(GM)でしょう。「米国によいことはGMによいこと。逆も真なり」。1953年、GM社長からアイゼンハワー政権の国防長官に転じたチャールズ・ウィルソン氏が米議会で語った有名な言葉です。まさかそのGMが破たんの危機に瀕するとは…。

資金繰りに窮し破たんの危機に瀕したGMに対し、「イラク戦争に始まり、ビッグ3破たんで終わった大統領」の不名誉を避けたいブッシュ大統領は、GMに対する公的融資を実施することを表明。これにより、GMの当面の破たんは避けられました。

しかし、設立101年目に「公的管理企業」に転落してしまう見通しのGMが、この先本当に生き残れるのかはまだ不透明です。09年、最初の火種となる可能性は十分にあります。

前回お伝えした08年前半に比べ、激動の後半、ということになりました。日本経済新聞朝刊13面に掲載された「金融技術の限界」によれば、一番下げがキツかった10月16日の下落率(11.4%)について、発生確率を逆算すると、224京年(京は兆の1万倍)に1回という天文学的数値となった、というのです。 来年09年は、いったいどんな年になるのでしょう?いつ何が起こるのか分からない、という体験をしたことで構えられると共に、これほどの確率で起こる暴落的な株価下落はありえない、と考えると、決して悲観する必要は無い、と私は考えています。 今年も1年ありがとうございました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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