『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

米露“新冷戦”が早くも終了?

冷戦後も揺れ続けてきた米露関係

冷戦終結から今年で20年が経とうとしている。旧ソ連の崩壊後、一般的には「米国による一極支配」の時代が続いてきたと言われている。しかし、第一義的にはイデオロギー戦であった冷戦後も、再度ロシアが米国の対抗馬となり、今度はより生々しい様々な利権をめぐって、両国が世界各地で覇権争いを繰り広げる“新冷戦”の状況となったこともまた、よく知られた事実である。


最近特にその舞台となっているのが、東欧、中央アジアといったいわゆる「旧東陣営」である。昨年(2008年)8月に緊張の高まったグルジア問題、前々回の本欄で取り上げた中央アジアにおける資源争奪戦などが分かりやすい例として挙げられよう。


だが、もう1つ忘れてはならない重要な争点がある――東欧諸国におけるミサイル防衛(Ballistic Missile Defense、以下BMD)の配備問題だ。具体的には、米国は「欧州と米国をイランの弾道ミサイルから守る」という名目の下、ポーランドとチェコにBMDを配備する計画を立て、それぞれの政府と合意を締結してきた。対するロシアはそれを「ロシアの国家安全保障に対する脅威」であるとして批判し、ポーランドとの国境付近に精密誘導戦術ミサイルを配備すると警告したという経緯がある。このようにBMD配備問題をめぐっても、東欧を舞台にして、この2ヶ国は依然として火花を散らし続けている。


しかし、ここで転期が訪れる。米国の政権交代である。1月に就任したばかりのオバマ新大統領の語る外交政策は、上で見たようなBMDの配備による安全保障を訴え、実際に展開してきたブッシュ前米大統領の政策とは明らかに一線を画している。オバマ大統領は武力や圧力などの「ハード・パワー」を用いるよりも、他国との対話や相互理解を求める「ソフト・パワー」による外交を推進すると公言しているのだ。このような政策が、常に大きな地政学リスクの“発火剤”となる米露関係にどのような影響をもたらすのかは、マーケット動向を追う上でも決して看過できない問題だといえる。

米露接近の予兆の陰にある“あの”セクター

マーケットとそれを取り巻く国内外の情勢をめぐる「潮目」をウォッチする中、この関連で気になる報道が1つあった。オバマ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めるジェームズ・ジョーンズ元将軍が、BMD配備問題を含む安全保障政策について現在見直し中である旨を述べたというのである(9日付独フィナンシャル・タイムズ参照)。また、同時期にドイツで開催された安全保障会議においても、バイデン米副大統領が同様の発言を行っていることも見逃せない。


これらの動きは前述した米露間対立、特に東欧を舞台としたBMD配備問題の行く末を大きく方向転換させることになるだろう。米露間の覇権争いが世界のすみずみにまで広がっていることを考えると、この影響が米露2ヶ国に留まらないことは想像に難くない。しかし、ことは単なる「国際政治」ニュースの範囲には収まらない。私たち日本の個人投資家・事業経営者は、このような外交上の動きには、マーケットで利益を得ようとする“越境する投資主体”たちの戦略が絡んでいることを常に意識しなければならないのだ。それではこの米露接近の裏には何があると考えるべきなのだろうか。


ここで思い出さなければいけないのが、昨年4月に締結された米露戦略的枠組み合意協定であろう。そこでは米露が世界の原子力マーケットにおける「役割分担」を行い、高濃縮ウランは米国が、低濃縮ウランはロシアが世界に供給するとした。ところが、グルジア問題を機に米露間の緊張が“高まり”、米国側が同協定を凍結させるという事態に至ったのだ。しかし、抜いた刀を鞘に収め、お互いに原子力ビジネスを「円滑に」進めるにあたっては、関係の改善、そして同協定の復活は必要不可欠なものなのである。これらを総合的に捉えれば、今般の米露接近とはつまり、「原子力セクターの再燃」を意味しうるものだと考えられる。


現在の米国が温暖化対策で国際社会のリーダー的存在の座を狙っており、そこでは原子力セクターが再度浮上してくる可能性が高いことは、前回のコラムでも取り上げたとおりである。そのためにはまず、東欧の地で凍てつき、原子力ビジネスの道を塞ぐ存在となってしまったBMD配備問題についても米露間の「雪解け」が必要とされる事情があるということがお分かりいただけただろうか。純粋な外交上の問題として一般的に解釈されるこのようなニュースも、マーケットを追う上で非常に重要なカギとなることを私たち日本の個人投資家・ビジネスマンたちは忘れてはならないのだ。

最も直接的な影響を受けるのは武器セクター

このような米露関係を含めた最新の国内外情勢が示すマネーの「潮目」について、私は3月7、8日に東京・仙台で、14、15日に福岡・広島でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナーで詳しくお話したいと考えている。


ここまでは米露接近が実現した場合に、それが結果としてどのような影響をもたらすのかを取り上げてきた。しかし、勿論このような動きが武器セクターに直接的な影響を及ぼすことも忘れてはならない。BMD配備問題と合わせて、オバマ政権は米露間で核兵器の削減プログラムを積極的に進めていくとしていること、また1月末に行われたオバマ大統領とメドヴェージェフ・ロシア大統領との電話会談で「武器の蔓延」が対応すべき課題の1つとして挙げられていることも重要である。つまり、米露接近から逆に武器メーカーは打撃を受けるかもしれないのである。


武器メーカーといえば、世界の武器マーケット上位5位のうち、米国勢からはボーイング、ノースロップ・グラマン、ロッキード・マーチン、レイセオンの4社がランクインしている。つまり現状において武器ビジネスは米国の“十八番”なのである。そうであってみれば、今回の米露接近が現実のものとなることは、これらのメーカーにとっては朗報ではないだろう。更に最近になって米国では宇宙防衛産業で中小企業の存在感が高まっている。そういった意味で、外交関係と米国の国内事情を合わせて多角的に情報を追っていけば、これらの産業における「主役交代」という新たなマネーの“潮目”が自ずと見えてくるのかもしれない。


このように超大国間の関係に動きが出つつあるが、双方とも今般の金融メルトダウンの影響を大きくこうむっている。そのような中、残された「より“マシ”なマーケット」として今後日本が注目される可能性が高まっている。では私たち日本の個人投資家・ビジネスマンがスポットライトを浴びる今後の日本マーケットで成功するためにはどうすればいいのだろうか。これについては2009年1月に刊行したばかりの拙著『大転換の時代――10年後に笑う日本人が今するべきこと』において詳述させていただいた。ご関心を持たれた皆様にはぜひご一読いただきたく思う。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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