『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

再論・ヒラリーは本当に“撤退”したのか?

裏目に出たオバマ候補の中東・欧州歴訪

以前、このコラムでも取り上げたことがあるのだが(※バックナンバー『ヒラリーは本当に“撤退”したのか?』)、今年11月頭に行われる米大統領選挙で、下馬評どおり民主党のオバマ候補が勝利の栄冠をつかむ、はたまた共和党のマケイン候補が逆転する、といった「常識的な結果」とは異なる“第3の結果”こそが、あらかじめ描かれたシナリオではないかという疑念が募っているような気がしてならない。その隠されたシナリオとは「“撤退”したはずのヒラリー・クリントン女史こそ、次代の米大統領になる」という驚愕の結果を描くものである。


ここに来て特に低落振りが激しいのがオバマ候補である。オバマ候補はどういうわけか、大統領選が始まった当初より、選挙戦の最中に外遊する意向であることを明らかにしていた。そして実際、今年7月、アフガニスタン、クウェイト、イラク、イスラエル、ドイツ、フランス、そして英国を歴訪したのである。


「ひょっとして中東でテロに遭うのではないか?」そんな心配がされていたものの、特段、そういった“非常事態”はなかった。それどころか、たとえばドイツ・ベルリンでは、当初希望していたブランデンブルク門前広場(注:ケネディ大統領(当時)が「私もベルリーナー(ベルリンっ子)だ」と歴史的な演説を行った場所)でこそなかったものの、総勢20万人もの群衆を前に演説を行い、欧州におけるオバマ人気を見せつけた。欧州3ヶ国では続々と首脳たちと会談し、さながら「もう大統領に選ばれた」かのような堂々とした振る舞いであった。


ところが、帰国したオバマ候補を待ち受けていたのは、「傲慢」「まだ選ばれていないのになぜ大統領ヅラをするのか」といった激しい非難だった。しかも、共和党のマケイン候補はオバマ不在の国内でしっかりと練り歩き、着実に支持を広げたのである。焦るオバマ候補は少しでも支持層を広げるべく、対イラン政策、原油政策などで次々と「方針転換」を公表。これがまた「CHANGE(改革)といっていたから票を入れようと思っていたのに」という若者層を中心に、激しいオバマ離れを起こしてしまっている。

不敵な笑みを浮かべるビル・クリントン元大統領

「世界の潮目」をウォッチすることを生業とする私にとって、こうしたオバマ候補の異様なまでの低落振りは、その背後にある仕掛けと意図を探るという意味で大変興味深いテーマとなっている。


そんな中、1つの興味深い報道が飛び込んできた。ビル・クリントン元大統領がインタビューにおいて、オバマ候補に関し、「米国の大統領の座につくには準備は整っていない」旨の発言を堂々と行ったというのである(8月5日付英デイリー・テレグラフ英国参照)。


長文のインタビュー記事の中に写っている不敵な笑みを浮かべるビル・クリントン元大統領。直接的な言い回しではないものの、「勝負はまだまだこれからだ」といわんばかりの調子である。これはおかしい。何かがおかしい。


精緻に見ていくと、ビル・クリントン元大統領の妻であるヒラリー・クリントン女史は、選挙戦から「撤退」するとは一度たりとも口にしていないのである。彼女が口にしたのは「選挙戦の停止」にすぎないのであって、実際、「選挙資金として莫大な借金をしたので、その返済のため」と称し、募金活動は続行しているのだ。


これに対しオバマ候補はといえば、「民主党の大統領候補に確定した」と自ら言いつつも、なぜか選挙に向けた公的助成を断り、サポーターたちからブーイングを受けている。その上、「勝つ為にはヒラリー・クリントン女史との協力が必要だ。彼女の借金を減らしてやってほしい」と、自らの大口献金者に対してヒラリー・クリントン女史への資金提供をお願いする始末。これもまた異様だ。あまりにも異様なのである。


もっと決定的であったのが、党内規定に違反する形で早々と行われたフロリダ・ミシガン両州における予備選の獲得代議員数を、来る8月25日〜28日に行われる民主党大会では完全にカウントして欲しいとオバマ候補が言い出したことである。これではせっかく差をつけたはずのヒラリー・クリントン女史が息を吹き返してしまう。いや、オバマ候補の手によって、ヒラリー・クリントン女史が「大統領候補」になってしまいかねないのである。その先には、先ほど述べた「第3の結果」が見え隠れする。

「逆転の構図」に備える

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外
情勢”について私は、8月30・31日に大阪・名古屋、9月6・7日に東京・横浜でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。


米大統領選は11月頭に行われる。したがって、それまでは何が起きるか分からないということを、ここでまずは踏まえておこう。来週行われる民主党大会の結果、もちろんオバマ候補が首尾よく大統領候補として指名を受ける可能性は充分にある。だが、当初より身辺警護を米国土安全保障省に求め、屈強なシークレット・サービスによる警護を異様なほど早くから認められたオバマ候補の身に何か起こる可能性すら、ゼロとはいえないのである。


しかし何よりも深刻なのは、そういった衝撃的なシナリオというよりも、既に数パーセントの差に縮まってしまった「オバマ VS マケイン」の対立で本当に良いのかという選挙戦略上の判断なのであろう。


ヴェトナム戦争の“英雄”であるマケイン候補がしっかりとつかんでいるのは、主に高等教育を受けていない白人層だ。高等教育を受け、豊かな有色人種を支持基盤としているオバマ候補には手が届きにくい層である。


だが、ヒラリー・クリントン女史がつかんできるのが、正にこのマケイン支持層と重なる層なのである。ただでさえ目立ったことでバッシングの嵐に見舞われているオバマ候補として選ぶべき選択肢には、「政権交代に向けた絶好のチャンスを潰したパフォーマー」として終わるのではなく、「政権交代に向けて、自らが副大統領候補へと一度は退き、民主党として共和党を叩きのめすための挙党体制づくりに最大の貢献を行うこと」が入っているはずだ。


“真実の時”は今から1週間後に訪れる。仕掛けられた「逆転の構図」が現実のものとなるのか、私たち日本の個人投資家にとっても目が離せない。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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