投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
グルジア紛争で想定外の窮地に追い込まれたイスラエル
8月上旬にやはり生じた「潮目」
去る8月9日(日本時間)の朝。日本のテレビは一斉に、ロシア軍による「グルジア侵攻」を報じた。寝ぼけ眼にテレビをつけ、激しい撃ち合いの画像をいきなり見せ付けられ、大いに仰天した読者の方も多いのではないかと思う。
正確にいえば、ロシア軍が侵攻したのは南オセチアであり、グルジアからの独立をかねてより主張していた地域である。当然、グルジアの中央政府は、押さえ込もうと必死になっていたのだが、ロシアがこれに反発してきた経緯がある。もちろん黙って引き下がるグルジア政府でもなく、これまで盛んにロシアへの挑発行為を繰り返してきた。
そうした状況を背景に、ロシア軍は南オセチアを占領すると、今度はグルジアの北西部にあるアブハジアにまで侵攻し始めた。この地域もまた、グルジアからの分離独立を求めているとされてきた地域であり、ロシアからすれば反グルジア勢力の傘下にある地域2つを、一気に抱え込むことに成功したというわけなのである。
ロシア軍の勢いは全く止まらず、さらにどんどんとグルジア“本体”へと食い込んでいく。その結果、このまま行くとグルジア全体が占領されてしまうのではないかという流れになった時、ようやくEU議長国をつとめるフランスのサルコジ大統領が“仲介者”として登場。米国のブッシュ大統領やライス国務長官もロシアに対する激しい“糾弾”を行い、ついには停戦合意にこぎつけたことは記憶に新しい。
ちなみに私が率いる研究所(IISIA)では、初夏頃よりこの夏、具体的には8月上旬を目処に地政学リスクが炸裂する可能性が高まっているとの分析を公表してきた。しかも7月頃の情勢を見る限りでは、もはやそれは中東の1ヶ国、たとえばイランに限られるような話ではなく、場合によっては「米露対立」という巨大な構図の中で生ずる“潮目”となる可能性があることも述べてきた。戦乱の被害者については痛ましい限りだが、悲しいかな、こうした予測分析は結果として的中したことになる。
グルジア紛争で本当に震え上がった国はどこか?
私の率いる研究所がなぜこのような分析をしたのかというと、当然、マーケットとそれを取り巻く国内外の情勢をウォッチし続けてきた結果、それを指し示すいくつもの予兆が見て取れたからに他ならない。そもそも今なぜ“地政学リスク”なのかといえば、「それが正にマーケットの論理からすると必要だから」という一言に尽きる。
サブプライムローンのみならず、米国由来のリスク資産の損失額が余りにも莫大であることが既成事実化していく中、これが明るみに出ることを、なんとしてでも先送りにしようと、米欧の“越境する投資主体”たちは必死になって策動してきた。その結果、本来であれば金融マーケットの健全化のために必要な措置、すなわち損失額の全容が明らかになるような会計基準へのルール変更を2010年まで遅延させることに成功したのである。
その一方で、“越境する投資主体”とそれとペアを組んでいる米欧などの各国政府は、盛んに地政学リスクを変動させるよう集団乱舞を繰り返している。そしてそのたびに世界のどこかで、何らかの金融商品のマーケットが揺れに揺れ、“越境する投資主体”たちがマネーをかっさらっていったというわけなのだ。「原油」然り、「金(ゴールド)」然りである。
今回のロシアによる“グルジア侵攻”もその1つに過ぎないともいえる。しかし、マネーの織り成す「世界の潮目」をウォッチしていると、必ずしもそれだけとは言い切れない事情があることに気づくのである。
今回のロシア軍による攻撃でもっとも震え上がったのは、グルジア自身もさることながら、隣国でもなく、遠く離れたイスラエルだったからである。なぜなら、イスラエルこそが、グルジア政府に対して大量の武器を売りつけてきた当事者だからである。そのイスラエル製の兵器が木っ端微塵に粉砕されていったというのだから、たまったものではない。「グルジアへの武器輸出は最大限の慎重さと理性をもって行うべし」とのイスラエル政府高官の声まで聞こえてきたのだという(8月11日付スイス、ノイエ・チューリッヒャー・ツァィトゥング参照)。
それではなぜ、そこまでイスラエルが震え上がっているのか。何を隠そう、イスラエルが“天敵”のように糾弾してきたイランに武器や関連技術を供与し、サポートしているのが、他ならぬロシアだからだ。このコラムでも繰り返し述べてきたとおり、イスラエルはイランに対して空爆を行う意思を密かに抱き続けており、それがマーケットとそれを取り巻く国内外の情勢にとって最大の「地政学リスク」となっている。
ところが、頼りになるはずのイスラエル製の武器が、どうもロシア軍の猛攻を前に歯が立たなかったということが、もはや誰の目にも明らかになったのである。イスラエルはここに来て窮地に立たされたというべきだろう。
「逆転の構図」に備える
この点も含め、今後、激動が想定されるマーケットとそれを取り巻く国内外情勢について私は、8月30・31日に大阪・名古屋、9月6・7日に東京・横浜、9月20・21日に福岡・広島でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。
それにしても不思議なのは、マーケットの深層部では当初より“常識”とされてきたグルジア紛争を巡るこうした“真実”が、日本の大手メディアではほとんどといって良いほど取り上げられていないことである。一体、彼らは「社会の木鐸(ぼくたく)」を自称しつつ、何を恐れているというのか。大変奇妙である。
ただでさえ情報の乏しい日本の個人投資家にとっては、こうした「物事の核心を知らないこと」が、大変な事態を引き起こすことになりかねないのかもしれない。ちなみに今回のグルジア侵攻の際、原油は(なぜか)下がり、金(ゴールド)も下がる一方で、米ドルは(なぜか)上がった。
「どうしてそうなったのか?正真正銘の“有事”ではないのか」
そうした極めて健全な疑問を抱くことなくして、思考は前に進まないのである。私なりの考えを述べれば、答えは1つだろう。
「本当の“潮目”は、別に、そして間もなくやってくる」
それが一体、世界のどこで、いかなる地政学リスクとして炸裂することになり、そのことでどれくらいの規模のマネーの潮目が発生することになるのか。このことに思いを馳せ、思考を積み重ねることこそ、私たち日本の個人投資家に求められている最大の課題といって過言ではないのだと思う。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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