金融サミット“100年に一度の危機”脱出の足掛かりはつかめたか?

世界経済の9割、20ヶ国が勢ぞろい

10月15日午後(日本時間16日未明)、ワシントンで開催されていた緊急首脳会合(金融サミット)が閉幕しました。

この金融サミットには、日米欧や中国、インドなどの新興国、あわせて20ヶ国・地域(G20)が参加し、金融安定化に向けて「あらゆる追加措置をとる」との首脳宣言を採択しました。

金融サミットは、サブプライムローン問題に端を発し、リーマン・ショックを経て“100年に一度の恐慌”とまでいわれるまで深刻化した経済状況を受け、世界中が足並みをそろえて危機を打開するために開催されたものです。

世界経済の9割を占める国々が一堂に会するという意味で、世紀のイベントとなったわけですが、当初より懸念もありました。「具体策は何も決まらないのでは」というものです。

今回の恐慌の最大の引き金は、投資の前提にあった“つぶれない”という信用に疑問が生じたことだといえます。大手金融機関、特に世界中で活躍していた投資銀行のうち、リーマン・ブラザーズが姿を消し、メリルリンチは名前が消え、モルガンスタンレーは三菱UFJグループの傘下に入る…。多くの投資家が想像すらしていなかった事態が現実のものとなったのです。

では、そうした根底にある信用不安に対して、今回の金融サミットはどのような対策を打ち出したのか?確かに具体的な動きが発表されたわけではありません。「一致団結しよう」という優等生的な回答に終わったことは、多くの投資家の悲観につながりました。【ポイント1】

「足並みそろわず」の1930年代の世界恐慌

しかし、私は今回の金融サミットはそれなりに評価できると考えています。来年4月に再度サミットを開催すると決定した点ですは特にです。

今回の金融恐慌に際しては、しばしば1930年代の世界恐慌が引き合いに出されます。1929年に株価が大暴落、その後もズルズルと下がり続け、株価は最終的には5分の1にまで下落してしまったのです。

1929年大恐慌の株価推移
出所:Dow Jones & Companyより

大恐慌後の株価推移
出所:Dow Jones & Companyより

この世界恐慌では、1929年のクラッシュから遅れること4年、1933年の6月にロンドンで「世界経済会議」が開かれました。当時の報道によると、ロンドンのサウスケンジントン地質博物館に、自治領も含め67ヵ国の代表が終結、英国王ジョージ5世が開会を宣言したとあります。

しかし、第1次世界大戦中に英仏などが米国から借りた戦費(戦債)の処理と為替安定策の2点で米国と欧米諸国が対立、会議は46日目に無期休会となったのです。つまり、足並みがそろわなかったのです。

その後、自国の利益を囲い込む「ブロック経済化」が進み、第2次世界大戦へとつながるわけです。【ポイント2】

高まる「恐怖指数」、今後の展望は?

それと比較すれば、今回の金融サミットでは、少なくとも各国が足並みをそろえ、首脳宣言を採択し次回開催を決めたことは評価できます。ただし、細かな点を見ていくと、不協和音も聞こえてきます。

たとえば、フランスのサルコジ大統領は、「もはや唯一の基軸通貨ではない」とドルと距離をおきます。インドのシン首相の「新興国は先進国の犠牲」との発言に代表されるように、新興国からは「もっと支援が必要」「先進国主導の金融安定化の枠組みに正統性はない」といった批判もあります。

また、アイスランドなど“待ったなしの危機”に瀕している国々への対応という点でも懸念が残ります。支援の矢面に立つであろう国際通貨基金(IMF)の改革推進では合意はしたものの、果たして実効性のあるものになるのか?【ポイント3】

こうした不安を如実に表しているのが、一般的に「恐怖指数」と呼ばれる「VIX(CBOE VOLATILITY INDEX)」です。11月初旬こそは緊急事態から平時に戻ろうとしていましたが、ここにきて再び緊急事態水準にまで駆け上ろうとしています。

VIX(CBOE VOLATILITY INDEX)
VIX(CBOE VOLATILITY INDEX)

また株式市場も乱高下しています。17日の東京市場では、日経平均株価が終値こそ前週末比60円19銭高の8,522円58銭となりましたが、朝方は200円超の下落でスタート、輸出関連株などへの買戻しで一時300円超上げる場面もあるりました。これは、金融サミットに対する投資家のプラスとマイナスの評価が真っ向からぶつかった結果ではないかと思います。

確かに株式市場では、まだまだ不透明要因が払拭しきれていません。さらに下落リスクはあるのか?そう問われると否定はできないでしょう。しかし私は、各国の「足並みをそろえて危機に立ち向かう」という姿勢を評価するのであれば、10月のような大幅な下落に見舞われるリスクは小さくなっているのではないか、と考えています。

※プレミアムメールマガジン『なぜ、この会社の株を買いたいのか?』最新号でも、“バブル後の世界はどうなる?”と題しお伝えしています。ご興味ある方は、ぜひご覧いただき、投資の一助にしていただければと思います。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
私は、昨年8月『日本の論点2008』(文藝春秋編)に寄稿したコラムで、「サブプライムローン問題はかなり厳しいものとなり、NYダウは1万4,000ドルがピーク」と書きました。メールマガジン『投資脳のつくり方』などでは、「NYダウは1万ドルをめざす」とも書いてきました。 しかし、結果は予想以上の下落となり、NYダウは現在も8,000ドル前後となっています。改めてその背景を分析すると、やはりキーワードは「信用」なのだと思います。「信用をいかに回復するか」、それが今、もっとも必要とされていることなのです。
【ポイント2】
1929年大恐慌については、ハーバード大学で教鞭をとり、恐慌論の権威でもあるジョン・ケネス・ガルブレイス博士の『大暴落1929』(日経BP刊)が非常に詳しいです。また、最近ではバブル論に関して『ソロスが警告する』(講談社刊)も参考になるでしょう。ご興味ある方はご一読をお勧めします。
【ポイント3】
日本政府は新興国、途上国向け支援として、IMFに1,000億ドル(約10兆円)の拠出を表明しました。今回の金融サミットでは明らかにされませんでしたが、中国やインドなどの豊富な外貨準備を持つ国々の今後の拠出も期待されます。IMFの財源という問題については、一応の目処がついた感があるといえます。

苦しい市場環境が続きます。ここ数年、投資をすれば多くの投資家が儲かるという流れが続いていました。そしてその前は当然、厳しい状況だったわけです。具体的には2003年のりそなホールディングスが実質国有化されるほど景気・経済が真っ暗だった時代です。規模とスピード、またその範囲が全世界に及ぶなど異なる点もありますが、恐慌の本質は同じです。決して悲観的になる必要も、あわてて現金化する必要もないと考えています。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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