米シティに8,000億円出資。存在感を増すオイルマネー

アブダビ投資庁、米シティに75億ドルの資本参加

11月26日、金融業界に衝撃が走りました。世界最大の金融グループ、シティグループ(以下シティ)が、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国政府のアブダビ投資庁(ADIA)から、75億ドル(約8,000億円)の出資を受け入れると発表したのです。

シティは信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に絡み、有価証券の評価損などで多額の損失を計上し、経営の健全性を疑われる事態に陥っていました。そこに助け舟を出したのが、ADIAだったのです。

世界最大のシティですら、資本を注入してもらなわければ健全性を維持できないという事態。それだけ、サブプライム問題の影響は大きく、株価が全般的に軟調な展開となるのも仕方ない、といえるかもしれません。

しかし、悲観に暮れてばかりではいけません。私は、今回のシティの大型資本増強は、サブプライムに関連する悲観から脱却するきっかけと捉えています。金融機関の大型資本増強は、株価反転のきっかけとなるのです。

例えば、平日毎日配信しているメールマガジン『投資脳のつくり方』の11月28日号で、今回のシティの件に関連し、以下のような指摘を行っています。

ただし、資本増強が行われたということは、サブプライムローン問題だけ取り出せば終息に近づいているということ。02年末にみずほをはじめメガバンクが大型の資本増強をした時期と同じだ。翌03年は、株式市場は大幅な下落の後、大幅な反発に転じた。

これから同問題で着目すべきは欧米大手金融機関(日本で言えばりそなクラス)の破綻と金融問題から派生する実需、つまり米個人消費の行方だ。だからといって悲観的になる時期は過ぎた。

『投資脳のつくり方』11月28日号

こちらのの表を見ていただければ、金融機関の大型資本増強が株価の大幅反発の関連性をご理解いただけるでしょう。

私たち日本人が過去に経験した不良債権問題を振り返ることで、悲観論が大勢を占めるサブプライム問題も、別の見方ができるのではないでしょうか。【ポイント1】

圧倒的資金力で存在感を増す中東政府系ファンド

さらに注目すべきは、中東の政府系ファンドが、今回のシティ出資以前から、米金融機関の株式を買収するという観測が流れていた点です。

日経新聞は、ドバイ首長国の金融特区「ドバイ国際金融センター(DIFC)」のオマル・スレイマン長官は、複数の中東投資機関がサブプライム問題の影響で「評価額を下げた米資産の買収を狙っている」と述べたと報道しています。

原油高で膨らむ産油国の輸出収入が、政府系ファンドを通じて世界に流れ込む状況がはっきりとしてきました。しかも、これまでは日米欧の国債への出資が目立ちましたが、最近では株式への傾斜が鮮明になっています。

今回、シティに出資したADIAの運用残高は7,000億円(約77兆円)ともいわれ、政府系ファンドとしては世界最大です。日本の上場企業数十社の大株主で、不動産を含め計1兆円前後を既に日本に投資しているとされています。

他にもドバイの政府系ファンドであるドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)も、ソニー株買収を発表しています。【ポイント2】

カダフィ大佐率いる北アフリカの産油国リビアの政府系ファンドであるリビア投資庁も、400億ドル(約4兆4,000億円)前後の資産運用を始めたことが明らかになっています。

このように、中東をはじめとする産油国の政府系ファンドは、世界のマーケットにおいて、その資金力を背景に、存在感を増し続けているのです。

原油価格とオイルマネーの今後

なぜこれほどまでに巨額な資金を運用できるのか。その背景には、もちろん原油価格の高止まりがあります。

国際開発センター研究顧問の畑中美樹氏によると、「原油価格が高止まりすれば、現状で1兆6,000億ドル程度とみられるオイルマネーは、6〜7年で3兆ドル規模にふくらみ、一部はアジアにも向かうだろう」と述べています。

原油価格は、多分に投機性資金が流入しているため、今後も乱高下が続くと予想されます。しかし、かつてのような1バレル=30ドルの水準にまで落ち込むとは考えにくい状況です。であれば、今後もオイルマネーはその存在感を、世界のマーケットで主張し続けることでしょう。

英スタンダード・チャータード銀行は最近のレポートで、新興国が政府系ファンドを使い戦略的な投資を進める現状を「国家資本主義」と名づけ、その運用資産が今後10年間で13兆4,000億ドルに達すると推定しています。

中東、イスラム諸国が、世界のマーケットでこれほどまでに存在感をましていることを、どの程度の方が認識していたでしょうか。

今回のシティへの資本参加は、これまでオイルマネーについて関心を持っていなかった人への警鐘となったでしょう。私たち個人投資家も、オイルマネーを背景とした政府系ファンドの動向に注目しなければならないのです。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
不良債権に苦しんだ私たちですが、過去をしっかりと眺めることにより、現在起こっているサブプライム問題を読み解くことができるのではないかと思っています。過去起こったことが何度も起こるのが金融市場。見た目は違った姿をしていても、本質は変わらないことが多々あるのです。
【ポイント2】
ドバイ首長国政府は、さきごろ米高級衣料品専門店バーニーズ・ニューヨークの買収案件で、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)と戦い、見事勝利を収めました。同ファンドを率いるのは米投資銀行リーマン・ブラザーズで企業M&Aを担当していた人物。経験豊富な人物と巨額の資金が融合し、ビッグディールを手掛ける事例は、これからも増えるとみるべきです。
【ポイント3】
原油価格を予測するのは非常に難しいことです。第一線で原油等商品市況に関わっている商社などを訪問取材しても、当初見込みどおりに価格が動かない世界だと実感させられます。私たちは原油価格の動向がオイルマネーを動かしているのではなく、もう既にオイルマネーは無視できない存在であると認識し、世の中の動きを見ることが重要でしょう。

お金が流れるということは決して悪いことではありません。これから中国投資など、多くの政府系ファンドのマネーが世界中を駆け巡ることでしょう。よりグローバルにダイナミックになる金融市場。私たちも、いままで以上に知識武装し、対応していかなければならなくなっていることを実感せずにはいられません。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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