07年株式市場ふりかえり(1)〜上半期、株価は順調ながらも不安くすぶる

2007年は、2006年に比べても非常に厳しい年だったといえます。株価は、金融業界の流行語ともいえる「サブプライムローン」をはじめとする国外要因に大きく影響されました。

今年起こったことが、来年も引き続き影響を持つことは珍しくありません。だからこそ、年末のこのタイミングで、今年起こったことを振り返っておくことが非常に重要です。日経平均の推移とともに、株価を動かしたニュースを振り返ってみましょう。

【1月】経営者の9割が先行きを楽観視
≪日経平均株価/1万7,353円→1万7,383円≫

米大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が1月24日まとめた調査で、世界景気の拡大見通しを裏付けるような経営者の意識が明らかになりました。

調査は世界50カ国、1,000人超の最高経営責任者(CEO)を対象に、2006年10月から12月に実施、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に合わせて発表されたものです。

向こう12カ月間の売り上げ成長について、「非常に自信がある」と答えた経営者は52%にのぼりました。「やや自信がある」(40%)と合わせると楽観論者は92%にのぼり、5年前の調査から倍増しています。

さらに、先行き3年についても93%の経営者が成長に自信を示していました。中でも、楽観論者が多かったのが米国人経営者でした。今年世界景気を揺るがせたのは、サブプライム問題自体というよりも、米国経営者の慢心だったのかもしれない。今から振り返れば、そう思わざるを得ません。

【2月】上海総合株価指数、過去最大の下落
≪日経平均株価/1万7,519円→1万7,604円≫

2月には「中国発」の株価下落が起こりました。同国の代表的な株価指数である上海総合株価指数は27日、前日比268.81ポイント(8.84%)安の2771.79と大幅下落となりました。この下げ幅は1995年5月23日の147.12ポイントを抜き過去最大です。

前日に終値で初めて3,000台に乗せたため、急ピッチな上昇に対する警戒感が台頭したというのが当時の理由でした。そしてそのあおりを受け、世界各国の市場でも株価が大きく下げる「上海発世界同時株安」の様相を呈したのです。

日経平均も28日、前日比515円安の1万7,604円と、06年6月の614円以来の大きな下げ幅を記録しました。

この事態は一過性のものなのか、それとも世界のマネーフローに地殻変動が起こる予兆なのか。その捉え方の違いによって、以後のマーケットの見方も大きく変わってきました。

【3月】サブプライム、危機の始まり?
≪日経平均株価/1万7,453円→1万7,287円≫

「サブプライム、危機の始まり?」は、3月19日付日本経済新聞朝刊14面に掲載された記事の見出しです。前米連邦準備理事会(FRB)議長であるグリーンスパン氏が、サブプライム問題は「小さな問題ではない」と警告するなど、徐々にサブプライム問題に関心が集まり始めた時期です。

私はこの記事を見たとき、さきほどの上海総合株価指数の急落にあわせ、平日毎日更新しているメールマガジン『投資脳のつくり方』で下記のように書いたのです。

私は、サブプライムローンの焦げ付きは、後々大きな問題になると考えている。(中略)今のところ焦げ付き分が融資の2割程度と見られ、30兆円と巨額でも「欧米の経済規模から考えると対応可能」とする意見が多い。しかし、本当にそうだろうか。

金融は血液と同じ。何かをキッカケにして逆流を起こすことは良くある。最近私たちが経験した世界同時株安も、背景は違えど金融の本質的な部分では同じことだ。(中略)

サブプライムローンに関しては、慎重に慎重に見ておくことが肝要だろう。

『投資脳のつくり方』3月19日号

当時、サブプライム問題が年間を通して大きく騒がれると考えていた人はそれほど多くはありませんでした。実際、株価は夏ごろまで順調に推移していたのです。

我々はこのニュースから、「不安の種」から目を背けてはいけない、でなければ、後々手痛いしっぺ返しを食らうことになる、ということを学ぶべきなのではないでしょうか。

【4月】三菱電機、バブル以来の高値更新
≪日経平均株価/1万7,028円→1万7,400円≫

4月10日の東京株式市場で三菱電機(6503)の株価が一時、1,262円まで上昇し、バブル期の1989年6月以来、17年10カ月ぶりに上場来高値を更新しました。

三菱電機の株価は半導体の低迷などで、02年11月に250円まで下落。その後、長期にわたる上昇局面に入ったのは、堅実な事業に経営資源を集中してきたためでした。

選択と集中を実践し、結果を出した企業にとっては、世界各国の環境はあまり影響がない、と投資家は考えたようです。

他にも、商社、海運など外需依存企業の株価上昇も大きなものとなり、2月、3月に報じられた悪材料は、ほとんど注目されなくなっていったのです。

【5月】トヨタ自動車、年初来安値
≪日経平均株価/1万7,274円→1万7,875円≫

10日の東京株式市場でトヨタ自動車(7203)の株価が一時、前日比150円安の7,050円となり、年初来安値を更新しました。前日の決算発表を受け、北米での新車販売の鈍化を嫌気した売りが出たのです。

9日に発表された同社の08年3月期の連結営業利益予想は、1ドル=115円の為替前提で2兆2,500億円と前期比0.5%増にとどまる予想でした。相場全体の回復に逆行する形で、2月に付けた8,350円の年初来高値をピークに下落を続けてしまっていたのです。

このころから、北米に依存している企業の株価には変調の兆しが見え始めていました。実際、トヨタの渡辺捷昭社長は北米の販売予測について「少し慎重にみている」と語っており、株式市場も北米リスクを織り込み始めたのです。

一方で、円安に注目が集まっていたのもこのころ。対ドルでは1ドル=121円台に下落、対ユーロでは1ユーロ=160円台の最安値となり、円安メリットを享受できる企業に注目が集まり始めました。

【6月】NOVAに一部業務停止
≪日経平均株価/1万7,958円→1万8,138円≫

英会話学校最大手のNOVAが事実と異なる広告で勧誘したり、契約時に虚偽の説明をするなどしたのは特定商取引法違反(不実告知など)に当たるとして、経済産業省が同社に長期コースの新規契約など一部業務を6カ月間停止するよう命じました。同法に基づく英会話学校への業務停止命令は初めてでした。

NOVAの猿橋望社長らは13日午後、大阪市内で記者会見し、「行政処分を厳粛に受け止めている。ご利用いただいている方に深くおわび申し上げます」と頭を下げ謝罪。経営に与える影響については「軽微にとどまる」との認識を示していましたが、実際は11月には経営破たんしました。

ワイドショー大いに騒がせた同社の業務停止は、不祥事が企業の信用を一瞬で崩壊させてしまう恐ろしさを物語っているといえるでしょう。

その後、食品業界の偽装を中心に、不祥事が目立った年でもありました。

このように、07年上半期は楽観的な雰囲気で始まりながらも、サブプライム問題をはじめとする「不安の種」を抱えていました。日経平均株価は、6月末は1万8,000円台で取引を終えるなど、順調に推移したといえるでしょう。

しかし、そんな悪材料を抱えたままの楽観姿勢が長く続かないことを、私たちは下半期に思い知らされることになります。

下半期は、サブプライム問題をはじめとする悪材料が一気に顕在化し、株価が乱高下を繰り返しました。なぜそうなったのか?次週は、下半期の注目のニュースを詳細にお伝えしながら、来年に向けて気付くべきポイントを解説します。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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