07年株式市場ふりかえり(2)〜サブプライム問題に振り回された下半期

前週お伝えしたとおり、2007年上半期は株価を押し下げるであろう悪材料が多数ありました。しかし、実際には株価は世界的に堅調に推移し、そのことをきちんと認識している人は決して多くありませんでした。

しかし下半期は、そんな隠れた悪材料が一気に表面化、特に「サブプライムローン問題」により、世界中の市場は株価急落に見舞われたのです。

個人投資家は、そうした現実を受け止めた上で、“次”を考えなければいけません。そのヒントを探るため、07年下半期のニュースを振り返ってみましょう。

※上半期の振り返りについてはバックナンバー『07年株式市場ふりかえり(1)〜上半期、株価は順調ながらも不安くすぶる』をご覧ください。

【7月】参院選で与党・自民党大敗
≪日経平均株価/1万8,146円→1万7,248円≫

外国人投資家にとって、政治の安定は投資を決断するかどうかの重要な判断材料です。05年、小泉純一郎首相(当時)が「郵政民営化」を掲げて、総選挙で自民党を大勝に導いたとき、彼らは小泉氏の主張に賛同するとともに、与党の大勝による政治の安定を好感し、日本株を買いました。

一方、07年7月に行われた参院選挙では、安倍晋三首相(当時)率いる自民党が、参院第一党の座を野党民主党に奪われるという歴史的大敗を喫しました。

その原因として、閣僚の相次ぐ不祥事が挙げられます。加えて、不祥事発覚時に露呈した安倍氏のリーダーシップの欠如も、国民からの「不信任」につながっ
たのでしょう。

参院選の結果、衆議院では与党が過半数、参議院では野党が過半数というねじれ状態となり、重要法案の成立が難しくなりました。与党の参院選惨敗は、政治の安定を重視する外国人投資家の日本株離れを加速させた一因といえます。

なお、参院選直後に続投を表明していた安倍氏が9月に辞意を表明、福田康夫氏が首相となったのはご存知の通り。福田氏は、安定した政治手腕を持つと評されますが、ねじれ国会という難しい局面をうまくハンドリングできているのか、疑問は残ります。

【8月】米株急落、日経平均も前日比874円安を記録
≪日経平均株価/1万6,870円→1万6,569円≫

この時期、上半期からくすぶり続けていたサブプライム問題がとうとう表面化しました。そのインパクトは、想定以上のものだったといえます。

7月下旬から、資金繰りに対する不安が高まり住宅ローン大手をはじめとする米国の金融関連銘柄が軒並み下落しました。

そのあおりを受け、日経平均も軟調な展開となり、8月17日には前日比874円安の1万5,273円となりました。14日の日経平均終値は1万6,844円でしたから、たった3日で1,500円以上の大暴落です。

不動産市場の好調を前提に広がったサブプライムローン。しかし、逆回転を始めた途端に、世界中の株式市場に深刻な影響を与えたのです。

しかし、当時はまだ「サブプライム問題は一過性」との意見が主流だったように思います。その論拠は、米国が利下げに踏み切れば、景気の悪化は食い止められ、サブプライム問題の影響も限定的なものに終わるだろう、というものでした。

しかし、私は当初より、それほど単純な問題ではないことを指摘していました。そのことが、実際に利下げが実施された翌9月に明らかとなります。

【9月】米FRB利下げを実施
≪日経平均株価/1万6,524円→1万6,785円≫

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月18日、最重要の政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.5%引き下げ、年4.75%とすることを全会一致で決定、即日実施しました。

これはサブプライム問題による株価下落、景気後退懸念に対応するためのものでした。実際、この利下げにより、米株価は一時持ち直しました。

しかし、FRBの決定について、私は平日毎日更新しているメールマガジン『投資脳のつくり方』で下記のように指摘しています。

米国の利下げにより、サブプライムローン問題の不安が払拭されたことにより、大幅高となった。しかし、この上昇は、私には非常に怖いものに見える。

(中略)

米利下げは、米国がこれから景気が悪化していくことを暗示している。一瞬の上げで安心できるタイミングではない。今回の大幅高により、逆に短期的により厳しい局面がやってくる準備が必要だと考える。

『投資脳のつくり方』9月20日号

その後も2回利下げが行われましたが、その途中には大幅な下落があり、決して株価を浮揚させるまでには至りませんでした。

日本の歴史を振り返れば、利下げが景気回復、株価上昇につながると、単純には考えられないはずです。

日本は01年3月、量的緩和とともにゼロ金利政策を導入しました。その結果、2ヶ月弱で株価は約2割上昇しました。しかし、5月には1万4,000円台だった日経平均は、9月には1万円の大台を割り込むまで下落しました。短期的には利下げは株価上昇のきっかけとなるでしょう。しかし、もう少し長いスパンで見ると、決して利下げは景気回復、株価上昇の万能薬ではないことが分かります。

逆に、利下げを迫られているということは、それだけ景気が悪いともいえます。だからこそ、私は利下げに踏み切ったFRBの決定に、今後の危うさを感じ取ったのです。

【10月】米メリルリンチ、サブプライム関連で評価損9,000億円
≪日経平均株価/1万6,845円→1万6,737円≫

サブプライム問題が一過性ではない、と多くの人が気付くきっかけとなったのが、相次ぐ米金融機関の巨額損失計上でした。米証券大手のメリルリンチは、79億ドル(約9,000億円)の評価損を計上し、スタンレー・オニール会長兼最高経営責任者(CEO)は引責辞任に追い込まれました。

金融問題は、それが金融問題のみである内は一過性であるといえます。しかし、雪だるま式に徐々にその影響を増し、最終的には実需を悪化させることもあります。そうなれば決して一過性の問題ではありえないのです。

サブプライム問題は不動産という実需をベースとしたものです。そこで不良債権が発生し、実需を冷え込ませてしまい、金融機関を大きく揺るがす規模にまで拡大しました。もし、一般の人が活用している「ホームエクイティローン」にまで波及することがあったら、大手金融機関の損失はさらに莫大なものになる可能性があります。

【11月】米大手銀シティグループ、中東産油国の出資受入
≪日経平均株価/1万6,870円→1万5,680円≫

さすがというべきか、サブプライム問題の重要さが認識されて以降の欧米の金融機関は、素早くその対応策を模索し始めました。

その典型例が、米大手銀シティグループ(以下シティ)です。シティは、11月26日、アラブ首長国連邦(UAE)の政府系投資期間から75億ドル(約8,000億円)の出資を受け入れると発表しました。サブプライム問題で悪化した経営の健全性を取り戻すためのものです。

日本で02年末にみずほをはじめとするメガバンクが大型の資本増強を実施、翌03年に株価は下落後、大幅な反転を見せました。そのことを考えると、米大手金融機関の資本増強は、今後の株価反転をうかがわせる好材料です。

ただし、先ほど述べたように、問題がホームエクイティローンにまで波及し、問題がさらに深刻になる可能性も否定できません。

サブプライムローンは、低所得者や信用力の低い層を対象にしたローンです。一方ホームエクイティローンは、一般層を対象としたローンです。サブプライムローン問題の影響で景気が悪化すれば、ホームエクイティにまでその影響が及ぶ懸念もあります。

ですので、私はサブプライムから始まる一連の問題は08年も引き続き注目する必要があると考えています。

【12月】機関投資家、日本株の割安感に「消極的強気」
≪日経平均株価/1万5,628円→????円≫

資産運用サービス会社のラッセル・インベストメント・グループが日本国内外の機関投資家53社に、11月末から12月上旬にかけて実施した調査によると、今後1年間の日本株に対する姿勢を「強気」とした回答が74%に及びました。

とはいえ、日本株に投資したいと思わせる積極的な要素はあまり見当たりません。米国景気に不安が漂う中、それに大きく影響される日本株にもやはり不安が残るのではないでしょうか。

ではなぜ7割強が強気と答えたのか。それは、米国をはじめとする他国の株などに比べ割安感があるためです。このことを「消極的強気」と揶揄する向きもあります。

しかし、たとえ消極的であろうと、投資家が日本株に強気になっているのは決して悪いことではありません。そもそも投資は相対的なものです。比較検討のうえ、より魅力的な投資対象にこぞってお金が流れ込むのが常です。

また、誰もが完全な強気に傾いていたら逆に投資チャンスはなくなります。「消極的強気」が大勢を占める今こそ、日本株への投資を再度、検討するべきタイミングなのかもしれません。

07年、日経平均は1万7,353円でスタートし、12月21日現在では1万5,257円となっています。最高値は2月26日の1万8,300円、最安値は11月22日の1万4,669円で、その差は約3,600円です。

その間、何度かの世界的な暴落を経験し、投資家にとって学びの多い年となりました。08年に持ち越される問題も多くある中、どう悩み、苦しんだか、そしてそこから何を学んだかが、08年のパフォーマンスを占うことになるでしょう。

先に指摘したとおり、08年に持ち越された問題も多くあり、その行方を注意深く見守る必要があるのは確かです。しかし、私は日本株の逆行高の可能性が十分にあると考えています。日本株全体を見渡せば、決して総悲観になる必要はないのではないでしょうか。 (木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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