米大統領選と連動して原油は暴落する?
1バレル=100ドル時代を迎える原油先物マーケット
今、原油が高騰し続けている。その勢いはもはや何者であっても止められない様相だ。
こうした状況について、「専門家」たちは一体どんな分析をしているのか?今、私の手元にはリーマン・ブラザーズ社(ロンドン)のアナリストたちが書いたレポート「原油価格小史(A brief history of the oil price)」(07年8月30日)がある。
そこでは、高騰する原油先物マーケットの「原因」として、「需給関係の逼迫」「金融マーケットにおけるマネー・フローが価格変動の揺れを激しくしていること」といった4つのポイントを掲げている。
それにしても妙な動きではある。70年代のいわゆる「オイル・ショック」の時期を過ぎて以来、80年代後半にむしろ原油価格は急落。その後、90年代に入って「イラクによるクウェート侵攻」(90年)の際の急騰を除けば、1バレル=16ドルほどで原油価格は推移してきた。
それが2000年代に入った途端に急転。とりわけ、2001年に発生したいわゆる「9.11同時多発テロ事件」の後、原油価格は一貫して上昇し続けている。もちろん、いわゆるBRICs諸国など新興市場国の登場といった事情はあるだろう。だが、それにしても1バレル=16ドルから、現在の90ドル台になるとは、あまりにも唐突すぎる展開なのだ。
米国がロシアの油田獲得で負けた本当の理由とは?
原油価格の形成メカニズムを見る限り、原油先物価格の高騰は、もはや実需を反映したものではないという指摘がある。70年代の「オイル・ショック」に際しては実際の需用動向を反映した動きになっていたのに対し、90年代に入ると米系投資銀行たちがこぞってアセット・マネジメントの一環として原油先物マーケットに参入、これによって「投機」によって価格変動が激しくなってきたというのだ。
こうした指摘を日本の大手メディアは表立って語ることはない。しかし、マーケットにおいては、もはや「公知の事実」であるといってよいだろう。国際機関の報告書などにすら、そうした記述が堂々と書かれている。
すると問題となるのが、米系投資銀行たちは、いったい誰のために、いつアセット・マネジメントを行うのかということになる。彼ら「越境する投資主体」たちには、必ず資金を提供する顧客がいる。原油先物であっても同じはずであり、そうした顧客たちの意向があって、今、投機的売買がNYマーケットを中心に繰り広げられていると見るべきなのだ。
08年、米国では大統領選挙が行われる。そのための「集金作業」はヒートアップし、大統領選は「集金競争」と言っても過言ではない。政治とマーケットが表裏一体となった米国では、こうした集金のために、あらゆる手段が使われるのが普通だ。原油先物マーケットがそこから除かれるはずもない。そうである以上、現下の「原油先物価格の高騰」は、ひとつには米国大統領選挙とシンクロナイズしていると見るのが妥当なのだ。
そうである以上、原油価格は、米国大統領選挙の動向いかんによって、ある段階で「下げ」に転じるはずである。「選挙」のための資金が必要である以上、選挙戦に入る前に集金、すなわち「利益確定」は行われるはず。そうなれば、高騰してきたマーケットは一気に転落へと向かう。そして、米国大統領選は来年1月早々から、いよいよ本格化する。
この関連で、最近、大変気になるニュースがロシアで報じられた。世界第7位の埋蔵量を誇るバレンツ海のシュトックマン・ガス田について、ロシアのガスプロム社が操業会社の株式25パーセントをノルウェーに譲ったというのだ(10月25日付ザ・モスクワ・タイムズ)。フランス勢が24パーセントをすでに獲得しているので、あわせて外資勢が49パーセント。ロシアが過半数を譲るはずもないので、これで外資枠はすべて取られたことになる。
実はこのガス田の採掘をめぐっては、米国が真っ先に名乗り出ていた経緯があるのだ。ところがロシアは、さんざん引っ張った挙句、こうした米国勢を蹴落とし、ノルウェー勢と手を組んだことになる。果たしてこれは、エネルギー・マーケットにおける米国の落日を示すものなのか?
そして…原油は暴落する
天然ガスをめぐる動きではあるが、私はここで米国はいったん負けたように見えて、実は新たな戦略に入ったものとみている。確かに期待されていた採掘権の獲得だけに、米国勢の落胆ぶりは目に浮かぶようではある。しかし、それが本気なのか、それとも「演出」であるのかは、高騰する石油にかわるエネルギーとして、米国が今、本当に追い求めているのが天然ガスだけなのか、それとも別にあるのかを仔細にみた上でなくては判断できないのだ。
見えない動きではあるが、米国が今、最も力を入れているのは、原子力エネルギーなのである。日本では地震によるショックで柏崎原発が損傷したことを受け、「原子力」に未来を託すような声は、世間で広くは聞かれなくなっている。
だが、今年の夏より、米国勢が本当に力を入れているのは、中東、とりわけ湾岸諸国における原子力の共同開発だという情報がある。しかも、こうしたアラブ勢による原発開発を、イスラエルすら堂々と認めているというのである。
他ならぬ「石油が湧き出る国」で原発を懸命に開発している状況は何を意味するのか?1つだけはっきり言えるのは、「産油国にとって石油がオイシイ時代はもう終わりそうだ」ということであろう。さもなければ、湾岸諸国が代替エネルギーに手を出すはずもない。そして、仮にこうした動きが明らかになれば、実態がどうであれ、思惑でマーケットが左右される「先物市場」で原油は暴落する。また、地政学リスクがあるところで原発開発ができるはずもない。そうである以上、中東情勢は「安定化」するはずだ。その結果、その意味で世界はまもなく「反転」する。
福岡(11月10日)・広島(11月11日)・大阪(12月1日)・名古屋(12月2日)で開催する情勢分析セミナーでは、こうした「世界、そしてマーケットの反転」について、私なりの考えをじっくりと述べ、聴衆の方々と一緒に考えてみたいと思う。現にスイス勢は、早くも「年末の原油価格は1バレル=70ドル前後」と言い出している(10月24日付フィナンツ・ウント・ヴィルトシャフト)。天然ガスをめぐって、ロシアに「負けた」ふりをする米国。だが、そんな米国が利益確定を終えた原油マーケットを手放し、本当の狙いは非原油エネルギーの原子力であることを高らかに語る中、「一枚上手」であることを示す日は、着実に迫ってきている。
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2007年11月16日 04:42 | 米流時評
筆者プロフィール
名前:原田武夫(はらだ たけお)
1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。
2005年3月末をもって自主退職。
現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表。
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