日経平均1万円割れ。難局の舵取りを任された麻生内閣の手腕は?
麻生首相「日本経済は全治3年」
リーマン・ショックをきっかけに、マーケットは混迷を深めています。10月6日のNYダウ平均は終値で1万ドルの大台を割り、それを受けた7日の日経平均株価も大幅安で寄り付き、4年10ヶ月ぶりに一時、1万円を割り込みました。
こうした未曾有の金融危機の中、日本の舵取りを任されたのが麻生太郎首相です。その麻生内閣の支持率は思ったほどは伸びず、野党からも厳しい批判が飛び出しています。各党は以下のように麻生内閣を名付けました。
【仮免内閣】
そう遠くない時期に解散総選挙だから仮免内閣という位置付けだ。(民主党の菅直人代表代行)
【がけっぷち内閣】
自民党政治が行き詰まった。がけっぷち内閣という印象だ。(共産党の市田忠義書記局長)
【取りあえず内閣】
タカ派、仲良し、取りあえず内閣。賞味期限のラベルを張り替えた賞味期限偽装内閣だ。(社民党の福島瑞穂党首)
首相という存在は、いつの時代も叩かれる孤独な存在です。今回は、そうした揶揄(やゆ)する声に振り回されることなく、首相自身の言動や考え方から、今後の日本経済の行方をうらなってみたいと思います。
最大のポイントは、9月29日午後の衆院本会議での所信表明演説です。麻生首相はその中で、「日本経済は全治3年」と述べ、日本経済の建て直しを最優先で取り組む姿勢を示しました。
(1)景気対策、(2)財政再建、(3)改革による経済成長の3段階で経済の立て直しに取り組むとし、「メドをつけるのには大体3年。3年で日本は脱皮できる。せねばならぬ」と語っています。
しかし、参院で民主党が過半数を握るねじれ国会では、思うように政策が実現できません。では、その民主党にどう対応するのか。麻生首相は民主党を「政局を第一義とし、国民の生活を第二義、三義とする姿勢に終始した」と厳しく批判しています。
野党に対して下手に出た感のあった福田前首相に対し、麻生首相は対決姿勢を鮮明に打ち出しているのです。果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。その手腕に注目が集まります。 【ポイント1】
世界の流れに沿った財務・金融の兼務
一方、今回の金融危機は米国が震源地であり、国内の政局だけでなく、世界に目を向ける必要があります。その意味で、中川昭一元自民党政調会長を財務相と金融担当相の兼務としたことは注目に値します。
麻生首相は、「財務相の(国際)会議でウチは金融は関係ない、という大臣はほかにいない」と述べています。
欧米では金融企画機能は財務省が握っている場合が多いのですが、日本では証券・銀行の不祥事を受け、中央省庁再編に伴い00年に金融企画機能が財務省から金融庁に移されました。
実際、今回のリーマン・ショックに端を発する金融危機においても、米国ではポールソン財務長官を司令塔とし、財務省による国際通貨システム安定化や中央銀行(FRB)による金融政策が、一体となり対応していました。
その意味では、中川氏の財務相と金融担当相の兼務は、世界の流れに沿っているといえるでしょう。
その中川氏は、5日のテレビ朝日系番組で、米国発の金融不安を踏まえた経済対策について、「必要があれば第2のもの、第3のものをやる必要があるかもしれない」と語り、その財源については「赤字国債は考えていない。臨時特例的なもので知恵を絞ってかき集めたい」と、公共事業などにあてる建設国債の増発を軸に検討する考えを示しました。これは先に紹介した麻生首相の方針に合致したものといえます。【ポイント2】
麻生首相は未曾有の金融危機を乗り越えられるか
麻生内閣にとって、直近の課題は補正予算でしょう。
衆院予算委員会は6日午前、麻生首相と全閣僚が出席し、総合経済対策を盛り込んだ08年度補正予算案に関する実質審議に入りました。
首相は、「補正予算をまず審議して、上げることが一番だと思っており、この段階で(衆院)解散という話を考えているわけではない」と述べ、解散よりも補正予算の早期成立を優先する意向を重ねて表明しています。
また、「米国発の金融危機は欧州にも広がっている」と指摘、「景気に対する先行き不安が国民の最大の関心事だ」と強調し、「当面は景気対策をやらなければいけない」と語っています。
10日には主要7ヶ国(G7)の財務省・中央銀行総裁会議が開かれます。ここで、金融市場の安定化に向けて協調姿勢を打ち出すことができるかが焦点となります。
米国で金融安定化が成立しましたが、それでも株価は大きく下げています。そのため、資金繰りに窮する金融機関も出てくることでしょう。そこで、国際的に協調し、金融機関の健全性や資金繰りを監視し、危機管理を万全にする必要があります。日本の、そして麻生首相のリーダーシップが求められる局面です。
足元の日本の景況感は決して芳しくありません。しかし、米国など世界と比べると、比較的安定していることも事実です。麻生首相がリーダーシップを発揮すれば、それを株式市場が好感する可能性も決して低くはないでしょう。
あとは米国発の金融危機に萎縮している投資家、特に外国人投資家に向けて、明確なメッセージを伝えられるかどうかです。もしそれができれば、NYダウが横ばいの中、日経平均が40%も上昇した05年の再来もありえないことはないと考えます。
悲観的な局面では何を見ても不安が募るばかりですが、私は期待を込めて麻生首相の今後に注目していきたいと思います。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- 強い姿勢を示す麻生首相に、多くの投資家が魅力を感じているのではないでしょうか。一方で、自民党に対する不信感も根強く、「自民党をぶっ壊す」と語った小泉元首相に比べると、見劣りする部分があることも否定できません。政策でどこまで国民、そして経済を引っ張っていけるのか、真価が問われます。
- 【ポイント2】
- 中川財務・金融担当相は4日午前、米修正金融安定化法が成立したことについて、「米国や世界の金融情勢にプラスに働くと考え評価したい」と記者団に語りました。週明けの東京市場への影響については、「マイナスにあたることはない」との見方を示しましたが、実際には大幅な下落となりました。政治家にとっても、非常に難しい局面なのだと思います。
- 【ポイント3】
- 「冷めたピザ」と揶揄された小渕元首相も、積極的なデフレ対策を打つことで景気を浮揚させ、株価上昇に導きました。政治と経済は密接につながっています。躍動感ある政策こそが国民の期待していることだと思います。
壊滅的な株価下落で意気消沈している投資家も非常に多いと思います。株式市場から離れてしまう投資家も少なくないでしょう。私は、総悲観論状態で投資家がパニックに陥っているのではないかと考えています。 確かに、今の株式市場にい続けるべきかどうかは判断の分かれるところです。私は、大きなリターンを狙うために、グッと我慢をする局面だと思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。