相場復習ノート
日々、新聞やテレビをにぎわすニュースをきちんと理解できていますか?疑問を疑問のままにしていませんか?
現役証券アナリストが、ニュースを詳しく解説し、そこから学ぶべき株式相場で成功のヒントを伝授します!

海外戦略とん挫?“デフレの勝ち組”ユニクロの次の一手は

ユニクロ、バーニーズ買収を断念

衣料品店ユニクロを運営するファーストリテイリング(以下ファストリ、9983)は8月9日、米高級衣料品専門店バーニーズ・ニューヨーク(以下バーニーズ)の買収を断念したと発表しました。


そもそも、バーニーズを傘下に持つ米ジョーンズ・アパレル・グループは6月、ドバイ政府系投資会社のイスティスマルと、バーニーズを8億2,500万ドル(約1,000億円)で売却することで基本合意していました。


合意の中には第3者からの買収提案を受け付ける条項があり、これに基づきファストリが9億ドル(約1,100億円)で買収すると提案したのです。買収構想が明らかになった翌朝、ファストリの柳井正代表取締役会長兼社長は記者の質問に、「買収後の事業計画は、今の段階では発言できません」と繰り返しつつも、バーニーズの経営に強い意欲をみせていました。


しかし、イスティスマルも譲らず事態は買収額の引き上げ合戦に突入。結果、ファストリが競り負けたのです。イスティスマルはドバイ政府が保有し、80億ドル(9,500億円)前後の運用資金を持っているといわれています。原油高で潤う中東地区の豊富な資金がバックにあっては、いかにファストリが4,000億円規模の現金を持っていても、相手が悪かったということになるのでしょう。【ポイント1】


今回の買収提案について、株式市場は懐疑的な反応を示していました。ファストリが買収を提案した7月5日までの同社の株価は8,000円台後半。しかしその後、今期3度目となる業績下方修正や国内ユニクロ事業の販売低迷など悪条件が重なり、約1ヵ月後の8月7日には6,430円にまで急落していました


柳井氏の掲げる「1兆円構想」

これまでもファストリは海外戦略に注力してきました。しかし、かつて英国に進出するも失敗、捲土重来を期したニューヨークの旗艦店も決してうまくいっているとはいえない状態です。


なぜここまで海外進出にこだわるのか。米国のGAP、スウェーデンのH&M(へネス&モーリッツ)などの世界的な衣料品企業に対抗するためには、「1兆円企業にならなければ戦えない」と柳井会長が明言していることにヒントがあります。【ポイント2】


同社のアニュアルレポート2006によると、ファストリは世界の主な衣料品専門店の中で第7位に位置しています。売上高1兆円を達成できればファストリがトップ3入りも目前です。そのためには、まだ数千億円足りないため、同社はM&Aをしかけているのです。

≪世界の主な衣料品専門店≫
順位 企業名 国名 決算期 売上高(億円)
1位 ギャップ 米国 06/1 18,800
2位 リミテッド・ブランズ 米国 06/1 11,380
3位 インディテックス スペイン 06/1 10,150
4位 H&M スウェーデン 05/11 9,970
5位 ネクスト 英国 06/1 6,940
6位 リズ・クレイボーン 米国 05/12 5,690
7位 ファーストリテイリング 日本 06/8 4,490
8位 ポロ・ラルフローレン 米国 06/3 4,400
9位 エスプリ・ホールディングス 香港 06/6 3,520
10位 アバークロンビー&フィッチ 米国 06/1 3,270
(出所)ファーストリテイリングのアニュアルレポート2006より作成


加えて、国内での業績の伸び悩みとも無縁ではありません。かつてはフリースのブームで業績を大きく伸ばした時期もありましたが、直近の業績を見てみると、国内のユニクロ事業は、既存店売上高が7月で11.7%減と3ヶ月連続でマイナスとなっています。結果、今年度の営業利益は前期比ほぼ横ばいと予想されています。


ファストリにとってバーニーズの買収は、世界の企業と伍すためにも、そして国内の伸び悩みをカバーするためにも、ぜひとも成功させたいディールだったのでしょう。


買収失敗で得たものとは?

今回、ファストリの海外戦略はいったんとん挫したわけですが、投資対象としての同社をどう考えればよいのでしょうか。私は、「日本で初めての世界で戦える小売業」として注目に値する会社だと考えています。


確かに今回は、バーニーズの買収自体には失敗しました。しかし、同社は世界的な知名度という副産物を手に入れました。今後、同社にとって大きな武器になるでしょう。


今回の買収を巡る報道で、ファストリは「日本版GAP」などと形容されました。ウォールストリート・ジャーナルをはじめとする有力紙も、柳井氏の売上高1兆円構想やアジア最大の専門店チェーンを目指してるという将来像を、かなりの行数を割いて紹介しました。


ファストリが「有力な買い手」と認識され、「世界的なアパレル企業」との印象を強めたことは明らかでしょう。同社はバブル崩壊の荒波をうまく乗り越え、さらには世界で戦えるアパレルメーカーに変貌を遂げようとしているのです。


株価は、バーニーズの買収失敗を逆に好感、6,000円台半ばだった株価も7,000円を回復しています。今後、日本の景気拡大とともに、国内事業が好調さを取り戻し、いずれは海外戦略による成長性を期待した株高が起こってもおかしくないのではないでしょうか。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
バーニーズ側としては、少しでも高い値段で売却するためにあらゆる手段を講じます。ファストリは買収金額引き上げのための当て馬に利用された感は否めません。しかし、仮に買収したとしても、営業利益に与えるインパクトは数十億円規模。買収金額は明らかに高値であったのも事実です。買収が結実しなかったのは、決して悪い話ではなかったように思います。
【ポイント2】
アメリカでも投資ファンドは当時は「バーバリアン(野蛮人)」として見られていました。日本では「ハゲタカファンド」が当てはまる言葉かもしれません。ここで取り上げたコールバーグ・クラビス・ロバーツだけではなく、ブラックストーンなど世界の大投資ファンドが巨額の資金を世界中から集め、儲けのチャンスを虎視眈々と狙っています。資金が大きくなれば、それ相応のリターンを稼ぐために大企業への投資が中心となります。「初」の敵対的買収が起こった日本は狙われて当然、といえるかもしれません。
【ポイント3】
ファストリのM&A戦略は決してうまくいっているわけではありません。一方、外食産業では、牛丼チェーンの「すき家」などを運営するゼンショー(7750)が、M&A効果を業績に結びつけ、株価を大きく伸ばしています。M&Aでは、いち早く情報が入ってくることが成功の鍵になります。ゼンショーの場合、実績と知名度から、真っ先にディール情報が入ってくるといわれています。
海外の小売企業をオペレートするのは、日本企業にとってまだ未体験ゾーン。バーニーズへの買収提案で、ファストリは世界的な知名度を得ました。日本初の世界標準アパレルメーカーが誕生するか否か、ファストリに今後に注目が集まります。
 

ファストリをただの小売企業と捉えるのは誤りです。同社は「モノづくり」企業です。確かに、衣料は水物に近いところがあり、業績がぶれることはあるかもしれません。しかし、いきなりうまくいく会社が少ないのも事実。新しい成長を模索している中で、産みの苦しみをしょっている同社を応援したいのであれば、今まさに投資という形で応援するタイミングなのではないでしょうか。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

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マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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