インフレ時代到来?ガソリン140円突破、株価への影響は

ガソリン代高騰、行楽シーズンを直撃

いよいよ夏の行楽シーズン本番が近づいてきました。しかし、浮かれてばかりもいられません。ガソリン代が高騰しているのです。移動手段に自動車を使う方にとっては痛手でしょう。

7月11日、石油情報センターが発表したレギュラーの全国平均価格(9日時点)は1リットル140.6円と、前週比で1.0円の値上がりとなりました。2週連続の値上がりで、140円台になったのは06年10月以来のことです。

原因は原油高や円安です。ニューヨークの原油先物相場では、11ヶ月ぶりの高値がつくなど、原油が高騰しています。しかしガソリンの元売各社は、5ヶ月連続で卸値を引き上げてはいますが、「原油のコスト上昇分に比べ、ガソリン価格への転嫁が進んでいない」としています。大幅なコスト転嫁による値上げは、ガソリンの需要を一段と冷やしかねないと考えているからでしょう。

というのも、ガソリン販売量は04年の約6,147万キロリットルをピークに減少、06年度は6,055万キロリットルにまで落ち込みました。ハイブリッド車や軽自動車に乗り換える消費者が増えているからでしょう。また、「満タン」ではなく、 1,000円や10リットルなど、きりのいい単位で給油している人が増えていることも一因と考えられます。【ポイント1】

しかし、原油価格の上昇がガソリン代に十分反映されていないのは事実。今後の原油価格や為替の状況次第では、更なる値上げもありうると考えておくべきです。

原油価格を見極める4つのポイント

なぜ原油の価格が高騰しているのか。一般的には、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)やVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)などの新興国の経済発展が理由として挙げられます。

経済発展のためには、どうしても原油が必要になります。しかし、需要を満たしてくれる供給が限られているため、需給要因で市況が上がるのです。

しかし、需給だけで原油などの商品市況の変動要因を把握したとはいえません。(1)需給に加え、(2)政治、(3)投機、(4)事故という視点を持つ必要があります。

需給については上記の通り、買いたい人と売りたい人のバランスで価格が決まるということです。

(2)の政治の観点は、最近のロシアを例に見ると分かりやすいでしょう。ロシアは原油を含めたエネルギーを外交の武器に利用しています。日本企業も参加するサハリン沖の石油・ガス開発事業「サハリン2」では、外資の権益を事実上剥奪しました。

最近では、石油メジャーの英BPが、ロシアの合弁会社が保有する東シベリアのコビクタ・ガス田などの権益をロシア政府系のエネルギー会社・ガスプロムに売却し、同ガス田の開発から撤退すると発表しました。これもロシア政府からの圧力があったといわれています。こうした政治的な要因が不安感をあおれば価格の上昇につながります。

また(3)の投機の観点は、アメリカ・テキサス州を中心に産出される原油であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)の価格が典型的な例です。

WTIは、実際には世界の産出量の数%しか占めていませんが、主要指標と見られているため、現実の状況とかい離した価格がつくことがままあります。結果、投機資金が集まり価格が乱高下しがちです。そして主要指標と見られているがゆえに、その価格に全体が影響を受けてしまうのです。

(4)の事故は直近では主だったものはありませんが、ただでさえ供給に限りがあるといわれている原油です。もし事故が起こったら、急騰する可能性も否定できないでしょう。【ポイント2】

原油高はインフレ時代到来の予兆?

では、原油高は株価にどのような影響を与えるのでしょうか。直接的な影響として、エネルギー関連の代表銘柄である大手総合商社の三菱商事(8058)、三井物産(8031)、伊藤忠商事(8001)などが高値を更新しています。

しかし、原油高の影響をこうした直接的なものに限定して考えてはいけません。さらに広い視野を持ち、「インフレ時代」の到来の可能性に気付くべきなのです。歴史をひも解き、世界景気の拡大・縮小の流れを追えばそのことが分かります。

世界景気拡大・縮小の流れ
(1)新興国の発展で国際商品価格が上がり始める
(2)国際商品価格の高騰で交易条件(輸出価格/輸入価格)が悪化
(3)輸出価格が上昇し、交易条件が改善し先進国が活況に
(4)インフレが加速し、長期金利が高騰
(5)バブル崩壊、億歳商品価格と長期金利の下落

この流れと現在の状況を照らし合わせてみましょう。まずは中国という新興国が発展し、「世界の生産地」から「世界の消費地」へと変貌を遂げ、その過程で国債商品価格が上昇しました。そして、特に化学セクターなどが原油価格の高騰の影響を受け業績が悪化しました。

しかし、最近では交易条件は改善傾向にあります。上記の流れでいえば、(3)の段階に差し掛かったのです。であれば、先進国である日本はこれから活況になる、つまり株価は大きく上昇する可能性を秘めているということになります。

ガソリン代の上昇という身近な話題を、大きな視点で歴史の流れの中で読み解いていくことで、このような仮説を立てることができます。投資をする際は、こうした大きな視点を持つことを忘れないようにしましょう。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
ガソリンを大量に使用する自動車業界では、ホンダ(7267)が太陽光発電システムに本格参入すると発表しています。CO2削減も含めた環境にも配慮を示すニュースであり、注目すべき内容です。
かつて、環境はコストが高いだけで投資テーマにはなりえないといわれてきました。しかし現在は、投資を通じて環境にも配慮することが求められる時代ではないでしょうか。
【ポイント2】
エネルギーは原油だけに限るものではありません。例えば原子力発電の原料となるウラン。最近では東芝(6502)が米原発大手ウェスティングハウス株を取得したことで、株価が上昇しました。このようにエネルギー関連銘柄を考える際は、原油だけでないことを覚えておきましょう。それにより、選択肢が広がるはずです。
【ポイント3】
1つの事象を、あるタイミングだけ切り出して分析をすると見誤ることがあります。大きな流れの中にあるうねりを捉えると、不透明に見える商品市況も、自分なりの仮説をもって眺めることができるのです。商品市況が高止まりすることを前提にしていくと、投資対象も変わっていくのではないでしょうか。

モノ・サービスの価格が上昇するということは、巡り巡って私たちの給与も上昇していくことになります。つまり、小売業も恩恵を受けることになります。最近では、日本マクドナルド(2702)が地域別価格を導入し、実質的な値上げに踏み切りました。これも、デフレからインフレへ移行する大きな流れとみることができます。ガソリン価格が上がっていることは、一概に悪いことばかりではないのです。(木下)

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最新コメント

  • 2005年の独立行政法人産業総合技術研究所のシンポジウムを見てください。
    「高くて乏しい石油時代が来た」です。
    注目すべきは「乏しい」のです。石油の生産がピークを打ち、これからは生産自体が減少すると考えられているのです。
    http://www.gsj.jp/Event/0628sympo/index.html

    2007年10月17日 20:37 | 匿名
  • 中国がバブルであるとすると、それはどの段階に当てはまるのでしょう?2〜3の間?

    2007年07月18日 11:51 | 匿名
  • なんだかんだ言ってもやはり値上がりはつらい。

    2007年07月18日 11:21 | 匿名
  • >ガソリン販売量は04年の約147万キロリットルをピークに減少、06年度は6,055万キロリットルにまで落ち込みました。
    正しくは6,147万でしょうか?

    2007年07月18日 11:14 | 匿名
  • あまりにも日本の景気は弱い。景気回復といっても、以前の強さがない。
    このままではスタグフレーションに陥るのでは?という危機感を持っています。

    とはいえ、一旦は上昇するのでしょうから、ひとまずは儲けておいて、後々に備える、というのが正しいのかもしれませんね。

    2007年07月18日 01:10 | 匿名
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プロフィール

木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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