7日間で失われた時価総額は56兆円。続落の日経平均の今後は?

現実になった日経平均の急落

11月12日の日経平均株価は一時、500円もの大幅安を演じ、1年4ヶ月ぶりに1万5,000円を割り込む場面も見せました。結局、終値でも7日連続の続落となり、約3ヶ月ぶりに年初来安値を更新する1万5,197円となりました。続落前の11月1日は1万6,870円です。その間に1,673円も下落したことになります。

これにより、東証一部の時価総額は約56兆円目減りしたと報道されています。

10月上旬には1万7,500円を伺う展開を見せていた日経平均が、このような厳しい状況になることを、どれほどの人が予想していたでしょうか。

私は、株式新聞に毎週掲載しているコラム『投資脳の創り方』の10月2日付コラムで、「私は短期的には下落に備えるタイミングがやってきていると考える。秋口には8月見られたような急落が起こる可能性も出てきているのではないだろうか」と書きました。

さらに、10月中旬には、日経金融新聞で「日経平均株価は15,000円台に下落する可能性もある」と指摘、「年内は上値の重い展開が続き、日経平均株価が1万5,000円台まで下押しする場面もあるとみる。(中略)追加利下げ期待で株価を上げてきた株式市場の楽観論は修正を迫られる公算が大きい」と書きました(10月19日付日経金融新聞『相場を読む』)。【ポイント1】

その時点では仮説に過ぎなかった日経平均の急落が、現実のものとなってしまったのです。

利下げでは下落は防げない?

では年末にかけての状況をどう予測すればよいのでしょうか。私は残念ながら「まだ予断を許さない」と考えています。その最大の理由は金利です。

このコラムでも何度もお伝えしている通り、米国ではサブプライム問題の影響で株価が大きく下落しました。それを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)が、9月には市場の予想を上回る0.5%の大幅利下げを断行、それにより投資家は更なる追加利下げを期待し、買い向かいました。そのため、「つかの間」とはいえ、株価が持ち直したのです。

しかし、私は当初から利下げの効果には懐疑的でした。利下げが全てを助けてくれる、そんな楽観姿勢にはとてもなれませんでした。

というのも、利下げが株価を押し上げる要因になりえるのはあくまで短期的なスパンでのこと。時間軸を少し長くすると、逆に株価を押し下げる要因になりかねないのです。

例えばこの表を見ればそのことに気付けるのではないでしょうか。

これは、日本が01年3月19日にゼロ金利・量的緩和策を導入した後の日経平均の推移と、世界的な株価暴落に見舞われた07年8月17日を基点とした米NYダウの推移を比較したものです。

日経平均は、ゼロ金利政策導入後、急速に上昇を見せますが、その後は長い下落傾向が続いています。もしも、NYダウも今後、日経平均と同じ動きをするとしたら…。決して予断を許さない、という私の主張に同意いただけるのではないでしょうか。

アメリカはバブル日本と同じ道をたどるのか?

もし、利下げで本当に景気悪化を抑えられるのであればそれでいいでしょう。しかし、現実には金利の操作で悪化を抑えるのには限界があります。バブル崩壊後、そしてゼロ金利政策導入後の日本を見れば明らかでしょう。

であるなら、我々は改めて米景気の悪化について真剣に考えなければいけません。特に、個人消費はこれからの株価を占う上で大変重要です。

世界景気全体の約3割を占める米国。その7割を個人消費が占めています。それだけ全体に与えるインパクトが大きいのです。いくつか、米国の個人消費の状況を読み解くトピックスを挙げましょう。

小売際大手のウォルマート・ストアーズは06年より玩具を最大5割安くする販促策を打ち出しました。最大手ですら価格競争に走らざるを得ないのです。そして、最大手が値下げを打ち出したということは、今後さらに物価が安くなる、つまりデフレの可能性が出てきたということです。デフレは日本の景気悪化の象徴ともいえます。その兆しが米国で見え始めているのです。

また米会計事務所大手のデトロイト・トウシュの調査は、米消費者の4割が年末商戦向けの買い物予算を前年より減らす見込みだとしています。出費を減らす理由として、低所得者は「燃料費高騰」、高所得者は「不安定な株式相場や住宅資産の下落」をそれぞれ挙げているといいます。

このように米国の景気の大半を占める個人消費にかげりが見える以上、株価も下落基調となる可能性は否定できません。NYダウは、1万3,000ドル台で小康状態を保っていますが、1万2,000ドル、さらには1万1,000ドルへと下落する可能性もあります。【ポイント3】

投資家はいつでも投資をしないといけないわけではありません。「休むもまた相場なり」という相場格言を思い出したいところです。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
日経金融新聞の取材を受けたのは、掲載日をさかのぼること4日前の10月15日。そのとき取材された記者さんが「木下さんほどの悲観的意見は最近聞いていません」とおっしゃっていたほど、みな楽観的だったわけです。楽観論に支配されているときはついつい巻き込まれてしまうものです。起こっている事象をしっかり眺めたことが、とりあえず現時点までの予測を可能にしたのではないか、と思います。
【ポイント2】
日本は、不動産をきっかけにした不良債権がデフレ経済を引き起こし、さらには個人消費、法人業績の悪化を引き起こしました。今回、米国ではサブプライムローン問題が叫ばれていますが、まさに日本が90年代に経験したことが、これから米国で起こるような気がしてなりません。
【ポイント3】
NYダウは、これまで紆余曲折ありながらも、30年近くにわたって上昇を続けてきました。だから、下落に転じることがなかなか信じることができないかもしれません。私が、なぜ、米国株に対して悲観的な見方をとるかは、拙著『日経新聞の裏を読め』で詳細をお送りしております。ご興味ある方はぜひご覧いただければと思います。

私は日本株に対しては長期的には強気です。ただ、短期的に出来る限り割安で投資をしたいという思いを持っているのも事実。これから出る悪材料がクリアになるにしたがって、資金を投下していくチャンスが生まれると思っています。(木下)

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最新コメント

  • 基本的に同感です。
    現状を見る限り,日米とも目前に暗雲が立ち込めているように思えます。

    ただ,米国は何かあっても,よく言えば不死鳥,悪く言えばゾンビのように立ち直ってきた国ですので,予想通りは行かないかもしれませんが。

    それに,日本の場合は不況が長期化したのはむしろ政策ミスを連発したのが大きいと思いますし。

    2007年11月18日 17:54 | CardCaptor
  • アメリカに20年在住の者ですが大まかな記事に対しては納得ですが、バブル崩壊後の日本と同じ道を歩むことは考えにくいですね。国家の成り立ちが根本的に違うのでアメリカの底力に期待しています。ちなみにたまたま同姓でした。

    2007年11月14日 06:22 | 木下
  • いつも楽しく読ませてもらっています。
    今回の記事は100%同感です。

    2007年11月14日 05:36 | 匿名
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プロフィール

木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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