体感したインドの成長の勢い〜新興国投資ガイド(2)
前回のこのコーナーでは、新興国への投資をどう考えるべきかについて、その導入部分をお伝えしました。
※『大幅下落はまだ続く?〜新興国への投資をどう考えるか(1)』
数年前までは、中国、インドなどに関して、「いつまでも経済が成長し続ける」とでもいわんばかりの成長神話も聞かれました。しかし、実際には昨年来のサブプライム問題で、こうした新興国でも株価は大きく下落し、苦しい状況から完全に脱し切れているとは言えない状況です。
果たして、投資対象としての新興国は今後どうなるのか?
新興国投資の場合、テクニカル分析や、メディアが発信するニュースなどを収集し分析することも重要ですが、現地の“生の雰囲気”を知ることが、貴重な投資判断の材料になります。
今回は、私のインド出張の模様を写真とともにご紹介し、私なりの「投資対象としてのインド」の評価をお伝えしたいと思います。
混沌とするインド経済の現状は?
私は2月21日から26日までの間、英プルーデンシャルグループのPCAアセットマネジメントのインド視察旅行に同行しました。同マネジメントは、04年からインド株投信をスタートさせた、インド投資の老舗といえます。
インドといえば、「生水が飲めない」「貧困層が多い」といったイメージをお持ちの方も多いでしょう。そして、それはある程度、現実でもあります。
世界最大の貧民街
そこら中に見られる貧民街の風景
しかし、貧困層が住む貧民街があるかと思えば、インテリジェンスビルもある。かつての宗主国イギリスの影響を受けた荘厳華麗な建造物もある。それがインドという国なのです。
PCAアセットマネジメントの現地法人が入居するインテリジェンスビル
今から150年前に建造されたインド最大財閥タタ・グループの建造物
また、インドといえば「人口の爆発的増加」を思い浮かべる方も多いでしょう。この人口増がけん引し、経済は大きく成長を続けています。インドの国内総生産(GDP)は年率1桁台後半の高い成長を見せ、既に100兆円規模に達しています。これは先進国といわれるカナダやスペインと同規模です。
ショッピングモールで駐車待ちをする自動車。日本とほとんど変わらない光景
ショッピングモールの店内。きれいなショップに、人があふれかえっている
こうした高成長の背景には、7,000万世帯ともいわれる巨大な中産階級の存在があります。私は、実際にIT企業に勤務する Yogesh さんのご自宅を訪問し、中産階級の実態をこの目で見てきました。
Yogesh さんの世帯年収は日本円で300万円前後。400万円ほどで購入した2LDKで生活しています。IT企業の新入社員の給与は、IT都市プネではだいたい日本円で7万5,000円程度だそうです。
Yogeshさんと奥様
こうした安定収入を得た中産階級の消費意欲の高まりを受け、インドではローンが盛んに利用され始めています。街中で見たインド大手銀行HDFCの看板にはローンの文字が躍っていました。
インド大手銀行HDFCの看板。“Loan”の文字が目立つ
先進国のローン利用比率は対GDP比70、80%程度ですが、インドでは盛り上がりつつあるとはいえ、まだ6%程度に過ぎません。つまり、拡大の余地があり、その過程でますます消費は拡大することでしょう。
急落するインド株をどう評価する?
こうした経済成長の原動力を持つインド。しかし、株価は冴えません。08年頭には2万ポイントを超えていたインド株式市場の代表的指数SENSEXは、1月後半から1万6,000ポイントを割り込む水準まで下落しました。サブプライム問題を発端とした米国、そして世界的な景気悪化の懸念がある以上、インドを含む新興国への投資はリスクが高いと考える方も多いでしょう
しかし、それはあくまでも短期的な話です。もう少し長期で考えた場合、私はインド株式市場はそのGDPを追いかける形で、今後も拡大するのではないかと考えています。
インドのGDPは先述の通り約100兆円。一方のインド市場の株式時価総額は約120兆円で、両者はほぼ同じ。そして、インドのGDPは2020年には340兆円まで拡大するとの予測もあります。それを追いかけて株式市場が拡大するのであれば、今後10年程度で約3倍になるということです。つまり、短期的には下げる局面があったとしても、長期的には大きく上昇する可能性があるのです。
世界的な景気環境や国内の貧困層など、問題がないわけではありません。しかし、インドは少子化とは無縁であるがゆえに、人口の拡大、そしてそれに伴う膨大な消費が期待されます。
私がお会いした Yogesh さんをはじめ、インドの中産階級は消費意欲が旺盛です。そして、現在のインドの人口約11億人のうち、25歳以下の若年層が半数を占めています。そのうちの何%かでも中産階級の仲間入りを果たせば、それだけでも日本を上回る消費が生まれるのです。
インドとはそうした可能性を秘めた国であることを、今一度思い出してください。その可能性にかけて踏み出した一歩が、10数年後に大きなリターンをもたらすかもしれません。
- 「百聞は一見にしかず」が身に染みた旅行でした。私自身、独立しましたので、今年は積極的にこの目で海外を見てこようと思っています。4月にはベトナム・タイに訪問する予定ですし、今年は他にロシアやカナダ、アメリカにも訪問してこようと思っています。機会あるごとにご報告していきたいと思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。