12年ぶりに1ドル100円突破。急速に進む円高で株式市場は?

ドル円、一時95円台に

ここにきて円高が急速に進行しています。3月14日に1ドル100円の大台を突破。その後、さらに勢いをつけ、17日には一時、前週末比4円以上の上昇となる1ドル95円台をつけました。これは12年7ヶ月ぶりの円高水準です。

各企業の想定為替レートを大幅に上回る円高の進行で、東京株式市場では株安が一段と加速。日経平均株価は、17日には一時550円を超える急落をみせ、終値でも前週末比454円安の1万1,787円と、1万2,000円の大台を割り込んでしまいました。

為替は国力を示すともいえます。つまり、円高ドル安が進んでいるということは、日本の国力が増し、米国の国力が減退しているともとれます。

しかし、単純に「日本の国力が増した」とはいえません。それは、円はドル以外の通貨に対しては決して強くはないからです。確かに対ドルでは、12年ぶりの円高水準となっています。しかし、対ユーロでは、ここにきて多少円高にふれている程度で、対ドルほどの円高ではありません。

つまりこれは、「円=日本が強い」ではなく、「ドル=米国が弱くなった」結果、相対的に円が強くなっているということなのです。事実、ドルは円だけでなく、対ユーロでも安値を更新しています。【ポイント1】

ドルが弱くなっている理由は明らかでしょう。サブプライム問題を発端に、金融不安が深刻化、景気悪化が現実味を帯びてきているのです。

さらに表面化した米国の金融不安

直近の急速なドル安の進行も、米国の金融不安を物語る“事件”が直接的な原因になったといえます。

その事件とは、米大手銀行JPモルガン・チェースの米証券大手ベアー・スターンズ買収の発表です。

ベア・スターンズは、11日には約170億ドル(約1兆7,000億円)あった手元現金が、13日にはほぼ底をついてしまったといいます。そのため、銀行などの資金取引の相手が一斉に引き上げてしまいました。結果、85年の歴史を持つ、米5大証券の一角が、あっけなく実質的な破たん状態に陥ってしまったのです。

これを受けニューヨーク市場では、証券株に連鎖売りが及び、ダウが一時200ドル近く下げました。その後は大幅利下げへの期待もあり、多少の反発を見せましたが、金融不安の根本原因が払拭されたとはとてもいえない状況でしょう。

私は、サブプライム問題を発端とする金融不安の中で、こうした金融破たんが起こる可能性、そしてそれによる株価下落のリスクを、平日毎日更新している『投資脳のつくり方』でも指摘していました。

「サブプライム、日本との共通項」

大手金融機関の中には破綻、もしくは公的資金が注入される場面が出てくるのではないか、と考えている。もう一段の金融リスクに注意が必要だ

『投資脳のつくり方』2008年1月10日号

ただし、こうした金融破たんを必ずしも悲観的に捉える必要はありません。サブプライム問題に端を発した信用問題が、収束に向かっているとも考えられるのです。

今回、ベアー・スターンズの買収に際して、JPモルガンはニューヨーク連銀から資金を調達しました。それを考慮すると、実質的な公的資金、公的援助といっても過言ではありません。

ベアー・スターンズは1923年創業で、世界19拠点に約1万4,000名の従業員を抱える、米5大証券の一角。今回の破綻は、日本でいえば、山一證券の破綻と同等といえます。

日本では山一證券の破綻後、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の実質的破綻などが続きました。そういった意味では、今後、米国でも金融破たんが続く可能性は十分にあります。

しかし、日本ではそうした金融破たんの時期を底として、回復基調を迎えました。そう考えれば、今回のJPモルガンによるベアー・スターンズの買収は、金融不安の「収束の始まり」とも捉えられるのです。【ポイント2】

市場介入はあるか?その効果は?

果たして米国の金融破たんは打ち止めとなり、小康状態を迎えるのか。または、さらに大きな破綻がありうるのか。為替市場もしばらくは、その動きを見ながらの推移となるでしょう。

私は、更なる危機が訪れる可能性はある、と考えています。なぜなら、サブプライムローンの問題だけでなく、プライムローン、つまりトリプルA格の優良債券でも、住宅関連が暴落ともいえる状況となっているからです。

影響がプライムローンにまで及べば、不良債権処理により、ベーア・スターンズのように窮地に陥る金融機関が出てくることは十分に考えられます。そうなれば、米国の信用不安は拡大、さらにドル安円高が進行する可能性もあります。

ここで、かつて1ドル100円を割り込んだ際の状況を思い出してみましょう。

95年2月、米投資銀行ベアリングスの破綻が表面化しました。そのまま円は上げ足を速め、その後7月まで1ドル80円台で推移し続けたのです。

こうした円高気運の反転のきっかけの1つが「協調介入」です。95年8月、大蔵省(当時)は、「円高是正のための海外投融資促進対策」を発表、さらに日米欧の協調介入があり、9月には1ドル100円台まで円安が進行しました。

それを受け、一時は1万5,000円前後まで落ち込んでいた日経平均株価も、年末には2万円を回復するまで上昇したのです。

市場規模の拡大やグローバル化の進展などを背景に、為替介入の効果は乏しくなりつつあります。財務省も、現時点では円売り介入には慎重です。しかし、ここでサプライズ的な介入があれば、急速に円安に反転する可能性もあります。【ポイント3】

いずれにしろ、急ピッチで進んだ対ドルの円高。更なる円高を懸念するよりも、そろそろ円安反転の可能性を考え始めるタイミングではないか。私はそう考えています。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
忘れがちですが、円高になるということは、いくら米国景気が後退していることが主要因だからといっても、自国通貨が国際的に強くなっているということに変わりありません。つまり、内需に投資チャンスが到来しているということ。ネット業界など、内需に魅力があると考えられます。
【ポイント2】
欧米の金融機関は、まだ危機を脱しているとは言い切れない状況でしょう。実需にまで影響が及ぶと、さらに不良債権が増大する可能性は否定できないからです。金融緩和とFRBの姿勢に投資家がどう反応するか、見守る必要があるでしょう。
【ポイント3】
現在は、ドルの独歩安という側面が強いです。そのため、米欧と日本が協調し足並みを揃えるのはやや難しい側面もあります。また、為替市場の規模の拡大も忘れてはいけません。世界の外為市場の取引高は95年に約1兆2,000億ドルだったのが、07年には3兆2,000億ドルと、約2.7倍に拡大しています。日本の単独の為替介入は効果が薄いという見方にも説得力があります。

乱高下する為替が日本株に影響を与えています。ただ、これは歴史的に何度もあったこと。もっといえば日本の歴史は円高の歴史。それを企業が乗り越えてきた歴史でもあります。自国通貨が強くなることに右往左往するのは、あまりよい態度とはいえません。為替という金融商品を冷静に見る姿勢が、今ほど求められていることはないと思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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