インド株最高値更新!「今から投資」では手遅れ?
インド株が過去最高値を更新
2006年10月30日、インドの株価指数であるSENSEX(センセックス)が、過去最高値を更新し、初めて1万3,000の大台に乗せました。
センセックス指数とは、アジア最古の株式市場であるインド・ムンバイ証券取引所(BSE)が86年から公表している株価指数。IT(情報技術)、金融、石油・ガスなど幅広い業種の30銘柄で構成され、インド株の代表的な指標として投資家に注目されています。
銘柄は時価総額や業種のバランスなどを基準に選び、現在はインフォシス・テクノロジーズなどIT大手4社や民間商業銀最大手のICICI銀行、石油天然ガス公社(ONGC)などインドの主要企業が名を連ねています。
最高値を更新した30日の個別銘柄の値動きをみると、ICICI銀行の上げ幅が3.6%と最大。HDFC銀行も2.7%高。通信のバルティエアテル(2.8%高)などにも人気が集まりました。
高値更新の背景には、インド企業の好決算があります。たとえば、IT大手のインフォシス・テクノロジーズが10月11日に発表した7−9月期決算は、53.3%の大幅増益でした。その後も次々と好決算が発表され、インド企業全体に対する期待が高まっていたのです。【ポイント1】
新興国BRICs(ブリックス)が好調なわけ
ここ数年、インドを含め、新興国が投資対象として注目を集めています。中でも、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国は、それぞれの頭文字をとってBRICs(ブリックス)と呼ばれ、個人投資家にも人気があります。
実際、BRICsの株価をみてみると、ブラジルのボベスパ指数は、年初の高値こそ更新していないものの、40,000台を回復しました。ロシアのRTS指数もボベスパ指数とほぼ同様の動きとなっています。香港ハンセン指数も10月16日に前週末比21.34ポイント高の18,010.20と、6年7カ月ぶりに18,000台を回復しました。
最近では、BRICsに続きVTICs(ベトナム、タイ、インド、中国)という言葉も生まれ、ベトナムやタイにも注目が集まってきています。【ポイント2】
新興国へ投資をする場合、「高い成長性」に注目が集まりがちです。しかし、ブラジルの過去3年の経済成長率は年平均2%台にとどまっており、今年も3.5%程度と低迷しています。しかし株価は3年で4倍に上昇しています。では、どうして新興国の株価は上がるのでしょう。
答えは「人口」。最もお金を使う世代である40歳代の人口推移と株価は、非常に近い動きをするのです。これは、日本はもちろんのこと、アメリカでも当てはまるものなのです。
では、BRICsはどうか。インドの場合、総人口10億人強のうち、約1億1,000万人が40歳代です。これが2030年には、総人口が13億人に、40歳代が約2億人にそれぞれ増加すると予想されています。この40歳代の人口の伸びが大きなポイントなのです。
40歳代は、非常にお金を使う世代。つまり、消費拡大世代といえるのです。そのため、40歳代が増えると、景気が良くなり株価も上がる、という構図が成り立ちます。
総人口が1.3倍に対して、40歳代が2倍に増加すると予想されるインドは、株価上昇の大きな可能性を秘めているといえます。ブラジルも同期間に、2,300万人の40歳代の人口が約1.4倍になり、総人口の増加率(1.3倍)を上回る増加が予想されています。
もし一過性の要因で、株価が人口の増加トレンドを下回る推移となっても、いずれはしっかりと人口トレンドに戻ってくるのです。アメリカの例を見れば、そのことがはっきりとします。
01年の同時多発テロ後、米株価は大きく下落しました。しかし、当時のアメリカは消費拡大世代が増加しており、一時的に株価は人口の増加トレンドを下回りましたが、最終的には人口トレンドと同様の上昇傾向に戻ったのです。
※同時多発テロ後の米株価の推移については、こちらもご覧ください。
『大停電だけじゃない。避けられない“危機”と株価』
新興国への絶好の投資タイミングとは?
投資対象として新興国を見る際に、ただ成長率の高さだけに注目していてはいけないもう1つの理由があります。それは、新興国が先進国へと移行する際に、株価が大きく、時には劇的に上昇するということです。そして、新興国から先進国に移行する際には、成長率は鈍化するのです。
日本を例にみると、そのことが分かります。60年代から70年代前半の高度成長期の日本の経済成長率は10%程度でした。そして、先進国と呼ばれるようになった70年代後半からは4%の成長に落ち着きました。
もちろん、経済成長率の鈍化=先進国への移行というわけではありません。しかし、インドや中国は先進国への移行に向け、着々と準備を進めています。
04−05年にアジアの石油消費量は米国を上回り、なかでも中国は日本を追い越して世界2位の石油消費国となり、世界で輸出される原油の半分を購入しています。新興国が先進国に移行するためには、国内産業の発展が不可欠です。そして、そのためには石油が必要なのです。
インドは、中国と手を取り合い、エネルギー権益を確保すべく世界中を駆け巡っています。ブラジルも世界第5位の規模を誇る国営石油会社のペトロブラスを中核に据え、アジアに進出してきています。
ブラジル、インド、中国は自国に豊富な資源を持っています。加えて、必死で世界中のエネルギー権益の確保に努め、さらに産業を発展させ、先進国入りを狙っているのです。【ポイント3】
最高値更新というこのタイミングでは、インドに対する投資はもう遅いのでは、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、人口増加、そしてエネルギー戦略に裏付けられた先進国への移行の可能性を鑑みると、たとえばインド株は今後、2万の大台を伺いながら推移するのではないかとみています。
その他の国も同様です。経済成長率が落ち着き先進国となったとき株価は劇的に上昇する可能性があります。そのタイミングこそ、絶好の投資チャンスなのです。
投資をする上で、新興国に関する情報は少ないといわざるを得ません。それでも投資を検討するのであれば、中長期的な視点を持って、腰をすえて大きな収益を狙うべきでしょう。
- 【ポイント1】
- インドはご存知のように「ゼロ」を発明したとされる数字に強い国。そのため、IT産業は世界的に強い企業が多くあります。本文でご紹介したインフォシス・テクノロジーズの他にも、ウィプロという会社があります。同社は、「ミスター円」と呼ばれ元財務官、榊原英資(さかきばら・えいすけ)氏が顧問に就任しています。インドに興味を持たれた方には、『インドを知らんで明日の日本を語ったらあかんよ』(竹村健一・榊原英資、PHP研究所)をお薦めです。
- 【ポイント2】
-
VTICsの中でも特に注目を集めているのが、11月にも世界貿易機関(WTO)に正式加盟するベトナムです。たとえばアメリカを代表する経済誌フォーブスは、06年10月30日号で「A New Ho Chi Minh Trail(新しいホーチミンの道)」と題したベトナム特集を組みました。その中で、ベトナムの魅力について低コスト、豊富な人材などの要素に加え、「it's not China.(中国でないこと)」が挙げられています。つまり、過熱する中国への投資のヘッジとして、注目を集めているというのです。
大型汚職の発覚など、ベトナムには特に政治面で問題点が多々あります。しかし、WTOへの加入で、より国際基準に近づいた「投資しやすい国」になるのではないでしょうか。 - 【ポイント3】
- 日本は、原油のほぼ全量を輸入に頼っている資源小国。そのため、国を挙げてエネルギーを確保しようとしている新興国の戦略がなかなか理解しづらいかもしれません。しかし、人口がこれから増えき、先進国の仲間入りをするためには、原油はがどうしても必要です。新興諸国は「国家100年の計」でエネルギー確保に動いているのです。投資する私たちも、100年とは言いませんが、中長期的な視点で新興国に投資をすることが必要だと思います。
人口と株価の関係でいえば、少子化に悩まされる日本は、将来が暗いといわざるをえません。2015年ごろをピークに、株価は下落する可能性を秘めています。投資という観点から考えると、今から新興諸国への投資を含めて、国際分散投資を心がけることが重要になってくると思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。