大幅減益も株価は上昇。ソニーの今後を占うキーワードとは?
ソニー決算、大幅減益
ソニー(6758)は5月16日、07年3月期決算(米国会計基準)を発表しました。決算発表は、投資において非常に重要なタイミング。しっかりと分析することが必要です。
分析すべきは数字だけではありません。経営陣のコメントから、会社の向かう方向などが明らかになるケースがあります。新商品の発表など、意欲的なコメントが聞けることもあるでしょう。【ポイント1】
では早速、ソニーの決算内容をみてみましょう。やはり重要なのは本業のもうけを示す「営業利益」です。また、実績だけではなく、会社側が今年度の予想をどう出してきたか、プラス・マイナスの両面から確認することが大切です。
<部門別営業利益> | ||||
部門 | 06年3月期 | 07年3月期 | 08年3月期会社予想 | |
電機 | 69億円 | 1,567億円 | ↑ | |
ゲーム | 87億円 | ▲2,323億円 | 赤字縮小 | |
映画 | 274億円 | 427億円 | ↑ | |
金融 | 1,883億円 | 841億円 | → | |
全体 | 2,264億円 | 718億円 | 4,400億円 |
実績では、液晶テレビ「ブラビア」が牽引し、電機部門が大幅に伸びたものの、06年11月発売のゲーム機「プレイステーション3(PS3)」でスタートダッシュに失敗したことで、ゲーム部門が大幅な赤字となってしまい、全体では前期比約7割の減益となってしまいました。
一方で、08年3月期の予想は、慎重な業績見通しを出す企業が多い中、ソニーの強気ぶりがみられるという判断が一般的です。
新聞報道では、「任天堂の新型機『Wii(ウィー)』に比べた(PS3の)劣勢は明らか。需要喚起のためには値下げが避けられない」(片山栄一・野村證券アナリスト)としてゲーム部門の赤字縮小を疑問視する声や、「収益性の面でようやく普通の姿に戻るだけ」(衣川明秀・T&Dアセットマネジメントチーフ・ファンドマネジャー)と冷ややかな意見が聞かれます。
「減益決算」でも株価は上昇基調
では、この決算を受け、株価はどういった反応を示したのか。5月22日には7,190円と年初来高値を更新し、02年6月6日以来約5年ぶりに7,000円を回復しました。
外国人投資家のソニーの持ち株比率状況は、07年3月末時点で52.7%と過去最高になっています。「ソニーショック」と呼ばれた03年の業績低迷期には、一時30%台半ばまで低下しましたが、その後は一本調子の上昇が続いています。
約8%保有している米運用会社ドッチ・アンド・コックスなどは、「純投資」が保有目的のようです。日本株に投資する外国人投資家は、コア銘柄に集中投資する手法が目立つため、電機機器セクターでは、ソニーが復活期待からコア銘柄として選ばれたと考えられます。
私は05年9月に、『週刊ダイヤモンド』9月10日号の「日本経済は今後10年復活する」で、「厳選!今後10年の有望銘柄10」としてソニー株を取り上げました。雑誌掲載時点の株価は3,740円でした。また、06年1月にはブルームバーグテレビジョンで、「ソニー株は8,000円になってもおかしくはない」とお伝えしました。
当時は「どうしてソニー株を取り上げるのか」と言われたものです。
でも、私はそういった意見に聞く耳を持ちませんでした。それは、株式投資には数字だけでは計れない面があり、それこそが投資の醍醐味だと考えているからです。【ポイント2】
企業の復活のカギ「原点回帰」
では、数字では計れない面とは何なのか。ソニーの場合のキーワードは「原点回帰」です。業績などが悪化し、投資家から見捨てられた企業の復活にとって、原点回帰は避けては通れない道なのです。【ポイント3】
ソニーの原点といえば、創業者である井深大氏が起草した「東京通信工業株式会社設立趣意書」でしょう。中身を見てみると、会社設立の目的の第1条に「真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度ニ発揮セシムベキ自由豁達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」とあります。つまり、ソニーの原点は「モノづくり」なのです。
東京通信工業株式会社は、1958年(昭和33年)に社名を現在のソニー株式会社に変更しました。このソニーという社名は、英語の『SONIC(音速の)』の語源となったラテン語『SONUS (ソヌス)』と、「小さいとか坊や」という意味の『SONNY』に由来します。簡単な名前で、どこの国の言葉でもだいたい同じように読めて発音できることが大事、ということで考案されたそうです。
この「坊や」をもじって、前出井体制では「デジタル・ドリーム・キッズ」というコンセプトを基に成長を進めたものの、原点である「モノづくり」にまで踏み込んだ施策はみられませんでした。
モノづくりに踏み込めなかった原因は、プレイステーションの大成功という“誤算”です。本来、モノづくり企業としてハード(プレイステーション本体)で稼ぐビジネスモデルを構築しなければならないにもかかわらず、ソフトで稼ぐビジネスモデルで成功してしまったのです。
私は常々、ソフトで稼ぐプレイステーションの成功は、モノづくりというソニーの原点とは相容れないと感じていました。
しかし、05年4月に技術者出身の中鉢良治氏が、代表執行役社長兼エレクトロニクスCEOに就任したことで、私は「ソニーがモノづくりの原点に回帰する」という変化の兆しを感じ取りました。それが上記のソニー株を有望銘柄に選んだ理由です。
株価は数字だけで動くわけではありません。会社の価値が反映されるものです。決算発表では、そのことを意識し、会社自体の価値どう変わりつつあるのかに着目する癖をつけることが必要だと思います。
- 【ポイント1】
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決算発表というと、すぐに今期業績の達成はどうか、という話題になります。どうでもいい、とはもちろん言いませんが、その点だけを重視していては、企業価値を見誤ってしまいます。特にソニーほどの大企業になると、深い議論が必要になってきます。
深い議論とは「××とは」という問いかけです。××には企業名が入ります。今回はモノづくりにフォーカスしてお伝えしましたが、ソニーに投資を検討するのであれば、「ソニーとは」という問いに答えられる、自分なりの仮説を用意する必要があると思います。 - 【ポイント2】
- 周りの意見に反して、「株価が上がる」と発言するのは勇気がいることです。でも、誰もが反対しているからこそ、割安な水準で買えるともいえます。株式投資では、完全に霧が晴れた状態で投資に臨むことはできません。反対意見があっても買うという判断をするためには、しっかりとした自分なりの仮説と考え方を持つしかないと思います。
- 【ポイント3】
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復活を遂げようとしている会社の株価がさらに上昇するには、投資家が大きく期待できる成長性が必要です。ソニーの場合、「有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)」がその例です。
ソニーは5月14日、折り曲げた状態でもフルカラーの動画を映せる有機ELディスプレーを世界で初めて開発したと発表しています。ウォークマンを生み出し、生活を変えたソニーの、モノづくり企業としてのさらなる成長を期待させる話題ではないでしょうか。
今からソニー株を買うべきかどうかは議論が分かれるところでしょう。さらに上値を追っていけるかどうか。有機ELなどの新商品をどこまで評価するか。そして、ソニーの数年後の変革を予想できるかどうか。
株価は復活ステージが一番上昇します。であれば、これからのソニー株の上昇は、やや物足りないものになる可能性もあります。ソニーの状況は注視しつつも、他にもこれから復活をしようとしている会社を探すことが、大事な投資行動といえるでしょう。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。