『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

この場に及んで未だに「本当の問題」に着手しないオバマの意図

「大山鳴動、ネズミ一匹」を演出したオバマの謎

4月13日(米国東部時間)、ホワイトハウスは突然、次のような声明を発表した。「明日(14日)、オバマ大統領がワシントンで重大な経済演説を行う。金融メルトダウンの中、オバマ政権がいかなる政策を講じてきたのかを振り返るのとともに、やり残された重大な課題についても言及する予定だ」。


そしてやってきた14日。日本時間で15日の午前0時半過ぎから始まったこの「重大演説」では、オバマ大統領の口から何ら意味のある決意表明が語られることはなかった。そのせいだろう、ただでさえウォール・ストリートの金融利権とは険悪な仲になっているといわれるオバマ大統領に追い打ちをかけるかのように、同日のNYマーケットで米ドルは売られ、米国株も売られた。


まさに“大山鳴動、ネズミ一匹”とはこのことであろう。――「やり残された重大な課題」として思いつくことと言えば、すさまじい金額にまで積み上がった連邦および州規模での公的債務の最終処理として、デフォルト(国家債務不履行)を宣言することであったはずだ。あるいは、そこまで劇的な手段ではなかったとしても、証券化された金融商品に基づく損失額がもはや天文学的な数字にまで拡大した米系金融機関に対する「破たん処理」が考えられよう。さらにより“想定内”の出来事として、米自動車大手3社(いわゆる“ビッグ3”)の一部についての「破たん処理」ということも想像できた。


しかし、結果としてこれら3つについては触れられずに、今回のオバマ演説は終わった。むしろ「大丈夫、大丈夫。これまでしっかりと手を打ってきたのだから、問題は解決に向かっている」というのがオバマ大統領の言い分であった。そうであれば、なぜことさらに「重大な経済演説」などと事前に大々的なPRを展開したのか。謎が謎を呼ぶ展開となっている。

米系“越境する投資主体”の喧伝する高収益の正体

そのような中、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、ここにきて1つの気になる報道が飛び込んできた。


米国由来のリスク資産に基づく損失額の被害を最も受けたのが、米欧系“越境する投資主体”の雄である投資銀行たちだ。その一例として世界的に知られているのがゴールドマン・サックス社であるが、先般に同社が発表した2009年度第1四半期決算がこのご時世に黒字の好決算だったのには理由があるというのである(4月14日付独フィナンシャル・タイムズ)。


この記事によれば、今回、同社が一転して好決算をはじき出した背景には、そもそもマーケットが乱高下していた状況で、「債券」「FX」「商品(コモディティー)」の3本柱(FICC)で儲けることができたからだという。また、同社にとって競合相手であった有力な数社(ベア・スターンズ、リーマン・ブラザーズ)がすでに昨年、相次いで破たんしたことで競争環境はそもそも良くなっている。その上、昨年10月以降、米政府が公的資金を投入していることから、マネーの調達コストが下がってきていることも有利な材料なのだという。


だが、その一方でより伝統的な手法である「株式取引」について見ると、「決して期待を上回る“戦績”を上げているわけではない」ともこの記事は分析する。正確に紹介すると「その“戦績”は期待を大いに下回るものであったことに注意しなければならない」というのである。――つまり事態は控えめに見ても、決して好転しているわけではないのだ。むしろ、金融メルトダウンが止まるところを知らないからこそ、マーケットは乱高下し、その中で生じる短期的な「潮目」を巧みにとらえられたため、米系“越境する投資主体”の雄はとりあえず急場をしのいだというのが正確なところのようだ。

これから生じる本当の「潮目」とは?

それでは一体、米系“越境する投資主体”たちはなぜ、このようにしてまでも「好業績」を今のタイミングで喧伝するのだろうか?この問いに答えるカギは、米系“越境する投資主体”の雄を取り仕切るマーケットの猛者たちが獲得している、巨額のボーナスにある。この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”について私は、5月9日、10日に東京、名古屋でそれぞれ開催する「新刊記念講演会」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きはぜひともお集まりいただければ幸いである。


欧州勢をはじめ米国勢までもが続々とデフォルト(国家債務不履行)へと転落していく中、これを絶好の投資チャンスとしてとらえ、その渦に巻き込まれる企業のみならず、苦しみのたうちまわる国家に対してまでカネを貸しつけようとしているのが“越境する投資主体”であるプライヴェート・エクィティー(PE)だ。米系“越境する投資主体”はこうした絶好のチャンスに控えて、これまで密かにカネを内部に積み上げてきた。実はその原資が、投資銀行やファンドの最高幹部たち(パートナー)たちが受け取る巨額の「ボーナス」なのだ。そしてそのボーナスの少なからぬ部分が本人には渡らず、自動的に積み立てられてきたからこそ、金融メルトダウンの中であるのにもかかわらず、私企業や国家に対して堂々と貸付を行うほどの資金量をあらかじめ確保できていたというわけなのだ。


ところが、先ほど書いたとおり、昨夏以来の苦境の中、さしもの米系“越境する投資主体”といえども、若干なりとも公的資金のお世話になってしまっている。その結果、金融メルトダウンの中でより困窮している納税者=一般国民たちから、こうした「高額のボーナス」がやり玉にあげられる流れになっており、このままでいくと米系“越境する投資主体”としては絶好の投資チャンスをつかむために必要な原資としての「高額ボーナス」を奪われかねない展開になっているのだ。――だからこそ、まずは「好業績」を喧伝し、返す刀で「もはや公的資金は要らない。これまでの分はきっちり返済する。これ以上、納税者に
文句は言わせない」ということになるのである。オバマ大統領も、今回のような演説を行うことによって、結果として見ると「市場環境の好転」という“越境する投資主体”たちの主張をサポートした結果になっているわけだ。オバマ大統領も所詮は「政治家」である。このようにしてサポートを行ったことに対する“見返り”はしっかりと算段しているに違いない。


金融資本主義の中で自らは次なる“潮目”に備え、着々と動いてきた米系“越境する投資主体”たちが見せる、あまりにも巧妙で狡猾な手法。これをあらためて目の当たりにするにつけ、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンが「貯蓄から投資へ」という虚妄のシュプレヒコールに踊らされてきたことに激しい憤りを覚えるのは私だけだろうか。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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