『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

マーケットに「潮目」を作り出す「越境する投資主体」(その2)

イスラム・ファンドとは何か?

世界中をくまなく移動し、割安な資産を大量に買い付けては、高値で颯爽と売り抜けることで雪だるま式に資産を増やしていく。それが「越境する投資主体」である。一般には、米国を中心とした欧米のファンド、あるいは投資銀行などが知られているが、ここに来て日本人が思いもよらない役者が現れつつある。それがイスラム・ファンドである。
イスラム・ファンドとはその名のとおり、イスラム圏諸国で資金調達を行い、これを運用することで収益を上げるファンドのことを指す。もっとも、それだけではアラブの石油王たちが原油高によって貯め込んだマネーを主に欧州経由で世界中に投資してきた、いわゆるオイル・マネーと区別がつかない。しかし、実は両者を明確に分ける区分が1つだけある。
それは、イスラム・ファンドが「イスラム法」に則ったファンド運用を行う点にある。イスラム教徒は日本では馴染みがないかもしれないが、彼らは厳格な戒律である「イスラム法」に則って経済生活を行っている。そのメルクマールを挙げれば、例えば次のとおりである。
(1)利子を生み出す事業に投資してはならない。
(2)軍需産業に投資してはならない。
(3)アルコールを生産する事業に投資してはならない。
高校時代に習った世界史を思い起こして、「確かに言われてみればそうだろう」と思うかもしれない。しかし、そこから先に思考が進むかどうかで、個人投資家としてこれから押し寄せる金融資本主義の荒波を乗り越えられるのかどうかが決まってくるのだ。

日本の大手メディアが信じられない理由

上の3つのメルクマールと照らすだけでも、イスラム・ファンドが日本市場で、どの業種に買いを入れないかわかる。逆に言えば、スクリーニングでふるい残された業種には買いが入る可能性が高い。もちろん、こうしたイスラム・ファンドがそれほどの資金量ではなく、ブームでもないというのであれば、深刻に考えるべき問題ではない。しかし、日本国内から一歩でも足を踏み出すと、世界のメディアでは昨年12月末頃より「イスラム・ファンド」に関する報道が次々と行われていることに気付く。たとえば、昨年12月7日付のフィナンシャル・タイムズ(ドイツ版)は、欧州随一の金融機関・ドイツ銀行がアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンで資金調達を行うイスラム・ファンドを設置したことを大々的に報じている。つまり、イスラム・ファンドは「世界のトレンド」なのである。
しかし、日本の大手メディアと言えば、ただでさえ少ない経済関連報道の中で、イスラム・ファンドについてほとんど語ろうとはしない。それどころか、ブッシュ政権が9.11のテロ以降、躍起になって流した「イスラムはテロの温床」とのプロパガンダを依然として繰り返している。日本の大手メディアを見ているだけでは、「世界の潮目」を見逃す好例と言える。

マーケットで生き残るための情報リテラシー

原田武夫国際戦略情報研究所公式ブログでもお伝えしていることなのだが、個人投資家として賢くなって人より先んじ、金融マーケットで生き延びていくためには、何よりも情報を読み解く力、すなわち「情報リテラシー」が必要である。しかも、個人投資家にとって重要なのは、金融関係者からこっそり頂く「非公開情報」ではなく、日常的に転がっている大手メディア経由の「公開情報」を読み解く力である。
このイスラム・ファンドの例が示しているとおり、日本のメディアだけを読み、見ているだけでは完全に「潮目」を読み違える。したがって、どうしても海外メディアに直接アクセスし、「越境する投資主体」の織り成すさざなみを敏感に感じ取っていくことが必要となってくる。そのことを端的に示すもう一つの例として、次回は北朝鮮を巡るスイス系新聞報道を分析してみることにしよう。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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