投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
いよいよ米国“デフォルト”が炸裂!?リーマン・ショックの1年後
リーマン・ショック1年後における米国の弛緩
ちょうど1年前のことだ。2008年9月15日、“越境する投資主体”の代表格であるリーマン・ブラザーズが、連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を連邦裁判所に申請、「倒産」した。これがさらなる世界金融危機の引き金となり、世界経済に大きな影響を与える“金融メルトダウン”を決定的に引き起こしたのは誰もが知るところである。
あれから1年が過ぎた。現在は、世界全体に楽観的なムードが漫然とただよっている観がある。確かに株価をはじめとする国際金融マーケットでは一時のような危機的な状況がみられなくなった。そればかりか、諸々の経済統計にも状態が改善されたかのような指標が散見される。
こうした弛緩したムードが形成された背景には、オバマ政権が景気刺激を企図した大規模の財政支出を行ったことや、FRB(米連邦準備制度理事会)による「非伝統的」金融政策の結果、大量のマネーがわずかながらも効果をあらわしているかのような印象が米国全体におぼろげにただよっていることがある。
だが、こうしたムードを手放しで評価するのには、いささかの不安を禁じ得ない。なぜなら米国の金融セクターをみると、特に地方銀行の破綻が依然として収まっていないからだ。今年に入ってから米国における銀行の破綻件数は、9月14日時点で92件(2008年は26件)と、“金融メルトダウン”が依然としてくすぶっているからだ。
今般の金融危機に際してしばしば参照されるのが、前世紀の「世界大恐慌」だ。その経過を見ても、その発生から終息までの道のりは決して平坦ではなかった。「暗黒の木曜日」に始まる大恐慌(1929年)以降3年間にわたり、株価は「暗黒の木曜日」から1933年にかけて、おおよそ8度乱高下を繰り返し、正に現下の“金融メルトダウン”と同じような動きを示していたのである。
こうした中でオバマ米大統領は、ただでさえ巨額な財政赤字にさいなまれている連邦政府の財布を一層痛めつけるようなヘルスケア改革に本格的に着手しようとしている。事実、去る9日には米連邦議会でヘルスケア改革に並々ならぬ意気込みを込めた演説を行った。しかしその熱意も空しく、ヘルスケア改革に対する米国民の支持を取り付けるどころか、かえって本人自身の支持率の低落を招き、ヘルスケア改革法案の成立さえ危ぶまれつつある。すっかり暗礁に乗り上げた観のあるヘルスケア改革だが、果たして米国に希望をもたらすのであろうか。
ヘルスケア改革に踊らされる「道化師」、オバマ大統領
このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。
9日、米国のヘルスケア・コンサルティング会社のルーウィン・グループが、ヘルスケア改革に関する驚くべき試算を公表した。それによると、民主党下院案ではヘルスケアがもたらす財政赤字が今後10年間で390億ドルとなるとしているが、それに続く2020年から2029年にかけての10年間にはむしろ拡大し、1兆ドルにまで達するというのである(9月10日付 米国マクラッチー参照)。
この試算によるならば、オバマ政権の「一丁目一番地」ともいうべきヘルスケア改革が財政面で破綻を来していることは明らかだ。当然オバマ大統領がこうした事実を知らないはずはない。また、オバマ政権の閣内にいるヒラリー・クリントン国務長官が、夫のビル・クリントン政権下でヘルスケア改革に取り組んだものの、ヘルスケア改革は金融恐慌のような危機的状況下というよほどの状況が訪れない限り成立しないということを述べている(『リビング・ヒストリー ヒラリー・ロダム・クリントン自伝』参照)。そのことを鑑みると、この改革は一筋縄ではいかないのである。
巨額の財政赤字を一顧だにせず、“デフォルト(国家債務不履行)”が間近に迫っていながらも、自らの「信念」を貫こうとする姿勢は、もはや半ば「道化師」と化していよう。
「もう騙されない日本人」が立ちあがる時
このようにオバマ政権の不安定化が明確になりつつある米国を含め、マーケットとそれを取り巻く激動の世界を巡る情勢について私は、来る10月7日に国立で開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々にはぜひ会場に足をお運び願いたい。
米国のデフォルトの足音が日に日に増しているにもかかわらず、「貯蓄から投資」の掛け声により、私たち日本人の資産を吸い上げようとする動きが再びうごめき始めている。思えば、リーマン・ショック以前に、「お金は銀行に預けるな」というフレーズが喧伝され、団塊世代の退職金は日本株を中心とした「投資信託」に向かったのだった。その時価は今日に至って大きく下がっており、今や売るに売れないという悲惨な状況に至っているということは、誰もが知るところである。私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは、この教訓を生かせず、同じ轍を踏むことになるのだろうか。それとも、「もう騙されない日本人」として今度こそ立ちあがることができるのだろうか。
日本の多くのマス・メディアは、ひたすら米国あるいは日本の経済の楽観的な風潮を言い立て、米国を震源に再度これからまき起ころうとする事態を報じようとしていないのが現実である。私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは米国の“デフォルト”という“潮目”の予兆が見えない、あるいは見ようとしない報道に惑わされることなく、真実の姿を確実に捉える能力、つまり「情報リテラシー」を高める必要がますます肝要になっているといえよう。
なお、来る10月3日にはIISIA調査部の研究員がより専門的な視点から世界を読み解く「IISIAステップアップ・セミナー」の第一回目を東京で開催する予定である。IISIAのいわば“心臓部”である調査部研究員が皆様の前に勢ぞろいする初めての機会に、ぜひご参加いただければと思う。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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