投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
オバマ大統領に「No, You Can't.」が突きつけられる時
既に紛糾が予想される米国連邦上院の審議
来る9日、連邦議会上院が夏休み明けを迎え、動き始める。同日午前10時から、農業委員会、外交委員会、司法委員会が同時に開催される予定となっている。これから再開される上院では、オバマ政権にとって極めて重要な2つの法案が審議されるはずだ。それは「ヘルスケア改革法案」と「気候変動法案」である。このいずれも、審議日程こそ今のところ未定だが、紛糾は避けられない見通しとなっている。
とりわけ「ヘルスケア改革法案」に対しては、保険業界はもちろんのこと、製薬業界をはじめ、減収や負担増の可能性がある勢力による反対が根強い。同様に「気候変動法案」に関しても、石油化学業界や中小企業などが反対運動を繰り広げている。
もっとも、民主党が多数の議席を占めるカリフォルニア州において保険業界に対する課税強化が決議されるなど、オバマ政権の法案推進をバックアップする動きもないわけではない。しかし、オバマ政権を待つ道は総じて険しい。特にヘルスケア改革については、反対派を取り込むために一部譲歩したことで、民主党議員の一部に不満を招いている。その一方で、気候変動法案についても、下院通過の際に民主党員の一部が造反の動きを見せるなど、民主党内ですら統一した支持を得られていない。そうした状況下、「ヘルスケア改革法案が審議入りするのはクリスマス以後になる」との観測さえなされているのだ。
仮にこれらの法案が上院で否決された場合、オバマ政権の権威は一気に失墜することになろう。オバマ大統領は、正に“剣ヶ峰”に立とうとしているのだ。
あえてリスクを冒すオバマ大統領の真意とは?
このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が、地球の裏側から飛び込んできた。
上院が開会される当日、オバマ大統領が上下両院の合同会議(ジョイント・セッション)を行い、ヘルスケア改革法案について審議入りするよう働きかけるというのだ(9月2日付 米国クリスチャン・サイエンス・モニター他参照)。この行動について、実は民主党内でも賛否両論だ。たとえば、バイデン副大統領は「理解」を示す一方で、テキサス州選出のマイケル・バージェス下院議員は「リスクが高い」と非難している。
危惧(きぐ)する声が上がるのも無理はない。8月末時点におけるオバマ大統領の支持率は既に50%を割っているからだ(フロリダ州・キニビアック大学調査)。かつてさわやかな演説によって国民の高い支持を集めたオバマ大統領だけに、同じ状況の再現に期待したいのであろう。しかし、その内容が“耳の痛い”話であれば、更なる支持率の下落を招き、レーム・ダック(残りの任期を消化するだけの)状態に陥るおそれは十分ある。
“No, You Can't.”という答えが突き付けられるとき
このようにオバマ政権の不安定化が明確になりつつある米国を含め、マーケットとそれを取り巻く激動の世界を巡る情勢について私は、来る9月12日に大阪、13日に名古屋で開催する「IISIAスタート・セミナー」 でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。
ちなみに、8月25日に米国政府が発表した2010〜2019年までの財政赤字の見通し額は、9兆300万ドルと過去最大となった。経済界の一部からは追加経済対策の停止など、財政の健全化を求める声が上がっている。追加の財政支出を伴う「ヘルスケア改革法案」や「気候変動法案」について、反対が強まる可能性は高い。
オバマ大統領といえば、キャッチフレーズ“Yes, We Can.”で一躍有名になった人物だ。しかし“No, You Can't.”の答えが今回の演説により、かえって国民よりオバマ大統領に突き付けられた場合、どうなるであろうか。今回の大演説の翌日にあたる9月10日には、米国債・30年債の入札が行われる。もはや借金大国への道をひた走り始めたオバマ大統領の後光を信じて投資するものがどれだけいるのかに注目が集まる展開もあり得よう。そしてそのような中、着々と力をつけてきたかつての対立候補ヒラリー・クリントン国務長官の不気味な姿がちらつき始めるのである。――いよいよ始まった運命の時=2009年秋。無謀なオバマ大統領が巻き起こす“潮目”から早くも目が離せない。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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