『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

ASEAN地域を舞台に白熱する米中間の“通貨外交”合戦

ASEAN地域フォーラムで“主役”の欠席とは?

23日、第16回目となるASEAN地域フォーラム(ARF)がタイ・プーケットで開催される。ARFは、1994年より開始されたアジア太平洋地域における政治・安全保障分野を対象とする全域的な対話のフォーラム。安全保障問題について議論する、アジア太平洋地域における唯一の政府間フォーラムだ。このフォーラムは、政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じ、地域の安全保障環境を向上させることを目的としている。そして、そこには各国の外交当局と国防・軍事当局の双方の代表者が出席している。ちなみにこのフォーラムは、コンセンサスを原則とし、自由な意見交換を重視する特徴がある。


今回の「第16回フォーラム」は、そもそも去る4月10日から開催される予定であった。しかし、開催国タイのアピシット政権退陣を求める、タクシン(元首相)派が会議の主会場に乱入したことにより中止・延期となってしまった。その後、紆余曲折を経て、今回ようやく開催となったわけである。


もともと今次会議の“目玉”は、北朝鮮の朴宜春(パク・ウイチュン)外相の参加が見込まれていたことだった。北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射と2度目の核実験などを強行した後だけに、日本や世界のマス・メディアは強い関心を寄せていた。だが、去る15日、金永南・最高人民会議常任委員長はエジプトで開幕した非同盟諸国会議の首脳会議の席で、ARFへの朴宜春外相派遣を見送る方針を表明。その結果、今回ARFの“主役”が消えてしまったのである。そのため話題性が低くなっている観がある。


では、果たして今回のARFは単なる国際的な“社交場”と化してしまったのだろうか。今後の国際政治の動向を左右する重要な“潮目”はそこに本当に潜んではいないのであろうか。

ヒラリー・クリントン米国務長官の参加の裏側に潜む米国勢のシナリオ

このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。


14日にケリー米国務省報道官が行った記者会見によると、クリントン国務長官は17日から23日までの日程でインドとタイを訪問し、更にタイではプーケットで開かれるARFに出席するというのだ(14日付 米ワシントンポスト参照)。


クリントン国務長官のARF参加を巡る本件報道や日本の大手マス・メディアを見る限り、北朝鮮問題の取り扱いや今後の対処が主に報じられている向きがあるようだ。しかし果たして、クリントン国務長官によるARF参加の目的が北朝鮮問題だけにとどまるという、単純なストーリーで捉えて良いのであろうか。――ここで考えなければならないのが中国の動向である。


中国は近年、華僑経済圏に含まれるASEAN地域に対して、これまでになく積極的にアプローチをかけてきている。例えば、中国人民銀行(中央銀行)のウェブサイトによると去る2日、中国国務院は人民元による貿易決済を、中国本土の上海市や広東省4都市と香港、ASEAN諸国連合で試験的に実施することを承認したのだという。このことからも、中国がASEAN地域における経済的なヘゲモニー(覇権)を構築しようと企図していることがうかがえよう。更に中国は、スプラトリー(南沙)諸島を実効的支配下において、マラッカ海峡を経由し太平洋地域に進出する様子さえあるのである。


他方、米国としても、中国のASEAN地域に対する経済的な影響力の伸張や太平洋地域への進出にただ指をくわえて見ているというわけではないようだ。前任のライス国務長官(当時)が2度欠席しているという「無関心振り」と比べると、違いは明らかである。クリントン国務長官が就任後初めて、そして“骨折の療養”からの公務復帰直後にもかかわらず、あえてASEAN会議に参加したことからもその関心の高さをうかがうことができる。更に、クリントン国務長官がASEAN友好協力協定(TAC)に署名する、という非公開情報すらある。米国としては、 ASEAN地域に積極的に関与し、中国に遅れをとるまいとこれを激しく牽制しているのだ。それと同時に、米国自らの景気回復のため、ASEAN地域の市場に活路を見出しつつあると考えられよう。

米中間の「通貨外交」を巡るせめぎ合いに見るマネーの“潮目”

このように経済的な利害を巡り米中間で大立ち回りが演じられている点を含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る7月25日、26日に福岡・広島で、8月1日、2日に東京・横浜でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。御関心を持たれた方々は、ぜひ今すぐ御申し込みの上、会場に足をお運び願いたい。


米中といえば、両国間の経済問題や外交問題を話し合う「米中戦略・経済対話」が今月27日から28日にかけて米国ワシントンで開催される予定だ。この会議では、ガイトナー財務長官とクリントン国務長官が共同議長を務め、中国側からは王岐山副首相、戴秉国・国務委員が出席する予定だ。


米国では、オバマ政権による景気対策の財政支出に伴い、財政赤字が急増している。また、米国連邦準備委員会(FRB、中央銀行)がマネタリー・ベースを2008年9月以降のリーマン・ショック以降、急拡大させているという事実もある。これらが相まって、世界では米ドルの基軸通貨としての信認が揺らぎつつある観がある。


一方、世界最大の米国債保有国である中国は、今年5月時点で8,015億ドルの米国債を抱えており、4月時点よりも380億ドル急増させていたことが明らかになった。さらに、中国政府からは国際基軸通貨である米ドルに揺さぶりをかける言動が聞かれ、人民元を基軸通貨に据えようとする向きもある。中国は、イタリア・ラクイラサミット(8日から10日開催)で基軸通貨制度について討議するつもりであるといわれていた。しかし、胡錦濤・中国国家主席は、新疆ウイグル自治区における暴動を受けてサミットへの出席を取り止め、急遽帰国し、結局この話題を俎上(そじょう)に乗せることはなかったのだ。


この緊急帰国が、サミットが米ドルに“最後通牒”を突き付ける場になるのを防ぐための、高度な“欠席戦術”であった可能性すら考えられる。最終的に中国の米ドルに対する“最後通牒(さいごつうちょう)”は「米中戦略・経済対話」に持ち越されることになるであろう。


こうした情勢を見る限り、米中間を巡る国際経済ないし国際基軸通貨のせめぎ合いは日に日に激しさを増しつつあると考えられる。日本の個人投資家・ビジネスマンとしても、こうした米中間の「通貨外交」を巡るせめぎ合いに潜む“潮目”の予兆を、注意深く観察することが肝要になっているのである。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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