『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

先行き不透明な“東アジア共同体構想”は船出を迎えられるか

一応の“成功”を収めた日中韓首脳会議

中国の温家宝首相を、日本の鳩山由紀夫首相と韓国の李明博大統領が挟む形で並ぶ。いずれも“満面の笑顔”である。この10月10日に北京で行われた“日中韓首脳会議”。昨年(2008年)12月に福岡で開かれた同会議に続き、単独開催となって2回目となる今回の会議は、一応の“成功”を収めたと評価する論調が多い。


中でも、鳩山首相の主張する“東アジア共同体構想”が合意文書「日中韓協力10周年を記念する共同声明」の中に盛り込まれた点が大きく報じられた。しかし、それはあくまでも“長期的目標”としてである。時に覇権主義を表に出す、この地域の大国である中国の本心は、未だ明らかではない。


中国だけではない。この地域に長く影響を及ぼし続けるもう一方の大国、米国の出方が懸念される点もまた、“東アジア共同体構想”の先行きに不透明感が拭えない要素の1つである。

外交面において“タフ”な行動を取る米国

このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が、地球の裏側から飛び込んできた。


ノーベル平和賞を受賞することが決まったオバマ大統領が、この受賞にそぐわない行為、つまりはアフガニスタンへの増派に舵を切ったというのだ(10月13日付 米国ワシントン・ポスト参照)。


これは重要度の高い変化である(この件については弊研究所の調査部長である糸井が個人ブログにおいて10月9日、同13日及び14日と続けて扱っている)。すなわち、欧州勢との“駆け引き”の末、米国が経済対策としての戦争拡大に打って出るという大きな決断なのである。


この決断の背景には、米国内の実体経済が極めて悪化していることがある。失業率は10%に達する気配を見せ、税収減と財政赤字拡大が加速する兆候が見えているのだ(10月13日付 米国ザ・ヒル参照)。米国としては、失業者に職と収入を与えると共に兵器を消費し、その需要を喚起することによって景気を刺激することが重要なのだ。


一方、欧州勢にとっては冷め止まぬ“金融メルトダウン”の中、隣接地域である中東における権益を維持したいとの思惑があるものと推測される。それが、平和活動について未だ大きな貢献をしたわけではないオバマ大統領へのノーベル平和賞授与という形で、米国の当該地域における軍事・インテリジェンス活動を牽制する動きに繋がったのであろう。


しかし米国はそれを跳ねのけ、自国の経済救済に動いた。現在の米国は、外交面において“タフ”な状況にあると思われる。

不安要素を抱える中、“東アジア共同体構想”は船出を迎えられるか

このように緊張の度合いが高まる可能性を見せつつある欧米間の関係をはじめ、激動の世界を巡る情勢について私は、来る11月8日に京都で、11月28日に福岡で開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。


ちなみに10月23日から25日にかけて、タイのフアヒンでASEANサミットが開催される予定である。これは、この4月に開催予定であったにも拘わらず、タイ国内の政情不安によって延期されたものである。その“政情不安”はタクシン元首相支持派のデモ活動によって引き起こされたものだが、その背後には“米国抜き”でアジア勢がまとまりかねない状況を懸念した米国勢の“影”があるとの見方がなされている。


このASEANサミットに、日本からは鳩山首相が参加する方向で検討されている。それが実現した場合、鳩山首相はその場で、“東アジア共同体”とASEANとの連携を提案する可能性が考えられる。こうした日本の動きに対して、外交面でタフ・モードに入った米国はどう出るだろうか。


元NSC(国家安全保障会議)アジア上級部長のマイケル・グリーン氏をはじめとして、日本の“東アジア共同体構想”を批判する知識人や政界関係者は多い。オバマ政権も、当該構想への懸念を強めていると言われる。4月と同様なインテリジェンス活動に出るかどうかはともかく、何がしかの“妨害工作”を行う可能性が考えられよう。


もちろん、11月半ばに控えるオバマ大統領の訪日・訪中を鑑み、鳩山首相が事を荒立てるのを防ぐために“東アジア共同体構想”を議題にのせない可能性もある。だが、その場合はこの構想自体がアジア諸国から信頼を得られないものになってしまうだろう。


中国と米国という不安要素を構想の内外に抱える中、“東アジア共同体構想”が船出を迎えられるかどうか、要注意の時期が始まろうとしている。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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