投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
メディア"大転換"の裏に潜む、インテリジェンス界の変動
出版メディア“大転換の時代”
去る5月18日、弊研究所の森山文恵研究員がフジテレビ系列で放映されている「FNNスーパーニュース」に出演し、ミツバチ不足問題についての分析を披露した。この件については、その後も全国メディアからの問い合わせが続いた。「1人でも多くの日本人に本当の“情報リテラシー”を」と願い、2005年に弊研究所を設立以来、地道に発信を続けてきた1つの成果であろうと自負している。
私はこれまで様々な場を通じて、“マスメディアの崩落”を述べてきた。この現象自体は今、この瞬間にも進んでいることに変わりはない。しかし、さりとてマスメディアによる権威付けという機能が完全に意味を失ったわけではない。要は「物は使いよう」ということなわけであるが、この関連で気になることが最近1つある。それは、情報メディア(なかでも出版メディア)が、内外で大きな転換の時を迎えているということである。
昨年(2008年)から今年(2009年)5月にかけて、大日本印刷が主婦の友、図書館流通センター、丸善及びジュンク堂を傘下に収めた。この再編に次いで同社は、講談社や小学館などと手を組んで、ブックオフに出資した。こうして、出版から印刷、流通まで一貫したメディアグループが形成されたことになる。これまで出版界において支配的であった「出版社と書店を、出版取次の独占企業が繋ぐ」というシステムから、新たな書籍流通システムへの移行の可能性が見えてきた。
一方米国では、書籍ネット販売のAmazonが提供する電子書籍“Kindle”が、この2月から5月にかけて普及を加速したことが明らかになった。同一書籍がKindleと紙媒体の両方で提供されている場合、紙媒体の35%に相当するだけの売上を、Kindle向けコンテンツから得るようになったことが報じられている。こうした状況を受け、“The New York Times”や“The Washington Post”といった大手新聞が、Kindle向けの記事配信を行うことを発表した。出版メディアを通じた情報流通は、文字通りの“大転換の時代”に入ったと言えよう。
放送メディアにおいても進む変化
出版メディアの中でも影響の大きい、全国に配布される新聞メディア、すなわちいわゆる“主要五紙”は、明治から昭和初期にかけて創刊された地方紙や産業紙が拡大したものである。ただし、いずれも太平洋戦争敗戦に際して、GHQ=米国勢からの“指導”を受けた歴史的経緯がある。その中で米国勢は、時に厳しい検閲をも行いつつ、日本の新聞メディアをパブリック・ディプロマシー(非公式な広報や文化交流を通じて、外国の国民や世論に働きかける外交活動)のツールとして利用した過去がある。そのことには注意しなければならない。
一方、インターネットに視聴者を奪われつつあるとはいえ、現代メディアの中で最大の影響力を持つものは、依然としてテレビであろう。全国ネットワーク化されている民放テレビチャネルは5系列あるが、いずれも全国紙およびその傘下のラジオメディアを母体とする。これらは当然、米国勢との上記の様な“歴史的関係”も含め、母体企業の企業文化による影響を受けている。
また、目を地方に向けてみると、“地方局”が各県に視聴地域を限定された形で配されている。これらの多くは地方紙と資本的に、また人的に繋がりを持つといわれる。更にその繋がりの中心となっているのは、いわゆる“地方の名士”と呼ばれる地域の政治勢力であるケースが多い。つまり、そうしたメディアの扱う情報には、一定のバイアスがかかっていても不思議はないのだ。
このように、テレビ・ラジオ+新聞メディアという戦後日本の情報発信システムは、政治勢力と結びつきつつ全国ネットワーク化されてきた。それらは日本社会における高い識字率と相まって、日本を世界でも類を見ないほどパブリック・ディプロマシー、すなわちメディアを通した外国による情報操作が容易な国に変えたと言えよう。
しかし現在、他のメディアの例に漏れず、テレビ各局も危機に瀕している。というのも、彼らは広告媒体としてスポンサーからの収益に頼っていたのだが、そのスポンサーの間では視聴率の低迷による広告効果の低下に不満を持ち、出稿を控えるという動きが拡がっているからだ。それによって、テレビ各局の収益の悪化が目立ってきている。
また、2011年7月14日までに現行のアナログ放送は停止し、地上デジタル放送に完全に切り替えられる予定である。そのための設備投資が、地方局にとっては大きな負担となっている。それに耐えられないと思われる地方局の再編に向けて、緩やかにではあるが、制度整備が進んでいる。テレビ放送が地上デジタル放送に切り替えられるときには、現在のテレビネットワークが姿を大きく変えている可能性があるのだ。
インテリジェンス界の変動がメディアを揺るがす
1990年代から2000年代初めに、世界のインテリジェンス機関は大きな変動に見舞われた。その背景には、米ソ間で1991年7月に調印された「第一次戦略兵器削減条約(START)」により、長らく続いた東西冷戦が終結に向かったことがある。当然、インテリジェンス機関に対するニーズは激減し、予算は削減された。追い打ちをかけるように、2000年前後のITバブル崩壊で、各国政府は財政縮小策を施行し、予算が更に削減されることとなった。そのような中、進んだインテリジェンス界再編成の一例として、当時の米クリントン政権の政策が挙げられる。同政権は、予算削減により政府機能の民営化を加速させたが、それがCIAやFBIからスピン・アウトした職員による民間のインテリジェンス機関(プライヴェート・インテリジェンス・エージェンシー)設立に繋がったのだ。
情報メディアの世界における変動は、これらパブリック・ディプロマシーの情報発信元、場合によっては情報メディアに対する資金提供元でもあるインテリジェンスの世界における変動と連動して起きている。例えば、2000年前後における情報メディアの大きな変動と言えば、インターネット利用の世界的な普及拡大である。2000年に米国で起きたAOL(=インターネット・プロバイダー)によるタイム・ワーナー(=新聞大手)の買収は、世界最大のメディア合併であったと言えよう。
つまり、現在、情報メディアにおいて生じている大きな変化にも、インテリジェンス界の変動が影響している可能性があると推測されるのだ。
訪れる“表”“裏”両面における再編の波
インテリジェンス機関の活動が影響を与えるのは、情報メディアばかりではない。お陰様で近くあらためて増刷が予定されている直近の拙著『計画破産国家アメリカの罠――そして世界の救世主となる日本』(講談社)においては、インテリジェンス機関の活動が金融・経済に影響を与えるロジックを、詳細に論じている。本記事の読者の皆さんにも、ぜひご覧いただきたい。
彼らの目論むパブリック・ディプロマシーにまどわされないためには、「情報リテラシー」が重要である。来る6月6日、7日に東京、横浜で、20日、21日に大阪、名古屋でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」では、その「情報リテラシー」を高めるために皆さんがどのようにすればよいか、お話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。
冷め止まぬ“金融メルトダウン”の中、欧米諸国に巨額の財政赤字が積み上がりつつある。一方で失業者の増加を背景に、治安の悪化が進み、“内乱”“騒擾(そうじょう)”のリスクも高まりつつある。それに伴う国土安全保障機能の強化に対応して、国際インテリジェンス機関の活動を縮小せざるを得ない状況にある。年初来、アフリカで行われている欧米諸国の“オセロゲーム”すなわち各地域における覇権(はけん)争いの報道が急激に減少しているのも、その現れと考えることができよう。
また先日、南米における米国のインテリジェンス活動が国際支援機関を通じてのものであったことを示す書類が“発見”されたと報じられた。こうした情報が公開されたことは、米国におけるインテリジェンス機関の再編に向けて、何らかの動きが生じる可能性を感じさせる。その変化が情報メディアの再編にどのような影響を及ぼすか、目が離せない。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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