『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

米国が進めるエネルギー・シフトの先にある“潮目”とは?

グリーンピースによる反石油業界活動

英国系のBPと英蘭系のシェルという石油メジャーの2社が、米国における石油業界のロビー団体(API:American Petroleum Institute)から脱退するように圧力を受けているという。APIはオバマ大統領が“グリーン・ニューディール”という錦の御旗の下で推進する“エネルギー及び気候変動対策法案”に対して、反対の立場で議会対策(ロビー活動)を行っている。そのAPIに多くの資金を提供しているのがBPとシェルである。そのため、環境保護団体のグリーンピース等は2社に対してAPI脱退を求める書簡を送り、APIを骨抜きにしようとしているのだろう。


グリーンピースの活動資金は、ロックフェラー財団をはじめとする、少数の有力出資団体からの出資が大部分を占める。当然、それら有力出資団体の意向が、グリーンピースの活動を大きく左右すると見るのが自然だろう。彼ら金融系財閥集団にとっては、グループとして抱える石油メジャーの存在感は大きい。しかしエネルギー・シフトは、それ以上の成長をもたらし得る、大きなビジネス・チャンスである。ロックフェラー系石油メジャーであるエクソン・モービルがAPI支持のスタンスを明示しているのに対して、出資先のNPOにそれとは反対の行動を取らせるのも、そうした二律背反的状況の表れであろう。


日本ではほとんど伝えられていないことだが、“エネルギー・シフト”の裏側では、このような組織を介した“パワー・ゲーム”が繰り広げられているのだ。そうした綱引きの中で、本年末に開催される予定であるデンマーク・コペンハーゲンにおける気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)に向けて、脱石油の動きが加速していくことであろう。

原油高騰は“エネルギー及び気候変動対策法案”可決のための“演出”か

このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が、地球の裏側から飛び込んできた。


8月中旬には下落傾向にあった原油価格が、8月下旬に入って一転、急上昇する局面を迎えた。しかしこれは、米国エネルギー省による「石油備蓄が減少した」との発表から受けた影響が大きいというのだ(20日付 イラン・プレスTV他参照)。複数のメディアによって、石油備蓄の減少が景気回復による石油需要拡大への期待を生み、原油価格の高騰をもたらしたという分析がなされているのだ。しかし、失業率の更なる上昇をはじめとして、実体経済が改善に向かうどころかさらに景気が悪化する兆候すら見えている中、そうした理由付けには無理がある。意図的な情報操作の可能性すら感じられる状況である。


この6月末に下院を通過した“エネルギー及び気候変動対策法案”は、オバマ政権を支える民主党内ですら、意見の不統一が見られる状況である。9月には上院での審議に入るが、可決に持ち込むには、原油価格の高騰による危機感の醸成は、強力な推進力となろう。

国家による産業振興策としての“エネルギー・シフト”

このように“脱石油”の方向が明確化しつつあるエネルギーの“潮目”を含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る9月6日に横浜で開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。


ちなみに欧州では、ドイツが2012年以降、電気自動車への買い換えを促進する補助金制度を立ち上げる方針を発表した。2009年から2010年にかけて日本勢が相次いで電気自動車を投入もしくは投入予定を発表しているのに対して、ドイツが電気自動車優遇制度を適用するのが2012年以降であるということは、自国のメーカーに電気自動車を開発する時間的猶予を与えたものと想像できる。エネルギー・シフトは、国家にとっても、有力な産業振興策であるのだ。


こうした観点から米国の“エネルギー及び気候変動対策法案”を考えたとき、それが米国企業のための振興策に繋がるものであることは、必然である。米国の推し進めようとするエネルギー・シフトが、米国に有力企業が存在するエネルギー、すなわち原子力に向けてのものである可能性について、考慮する価値があるだろう。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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