『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

ヒラリー・クリントン米国務長官のアフリカ歴訪に見るマネーの“潮目”

クリントン夫妻が外交で展開する「家族稼業」

去る4日、ビル・クリントン元米大統領が北朝鮮を電撃訪問。金正日総書記との会談ならびに米国人女性記者2人の解放を成し遂げたというニュースが世界を驚かせた。


一方、その裏側で妻のヒラリー・クリントン現米国務長官がケニアの首都ナイロビを訪問。就任後初となるサハラ砂漠以南のアフリカ諸国歴訪を開始した。11日間の日程で7か国を訪問するというハードスケジュールだ。クリントン国務長官は、最初の訪問地ケニアで5日に開催された、米国市場で優遇を受ける40か国が参加する「アフリカ成長機会法」フォーラムの演説で、悪政がアフリカ大陸の発展を阻害していると訴えた。そして、アフリカ諸国に対し、汚職と犯罪の撲滅に向けて主導権をとっていくよう求めた。さらに「(各国の)指導者が主導しなければならない」と注意を促し、「アフリカの真の経済発展は、汚職を拒否し、法による支配を行い、国民に成果をもたらすような責任ある政府にかかっている」と語った。また、自国の立ち位置に関してはアフリカ大陸の「パトロンではなくパートナー」になりたいと語り、これまで米国が投資拡大や飢餓撲滅に向けた農業支援などでアフリカ支援に携わってきたことを述べた(5日付 仏国AFP参照)。


実はクリントン国務長官のアフリカ諸国歴訪に先立ち、去る7月10日から11日にかけて、オバマ大統領が父親の母国・ケニアを訪問している。こうした米国要人の相次ぐアフリカ訪問からは、オバマ政権が従来にも増して、いかにアフリカを重視しているかがうかがえよう。では、このところの米国のアフリカ重視の外交方針の裏には、どのような意図が秘められているのであろうか。

クリントン国務長官の次期大統領選への布石

このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。


11日間にわたるアフリカ滞在中、クリントン国務長官は、ケニア、南アフリカ、アンゴラ、コンゴ(旧ザイール)、ナイジェリア、リベリア、そして余り知られていない島国のカーボヴェルデを訪問する予定であるというのだ(5日付 英国ガーディアン参照)。


アフリカ諸国のうち、どうしてこれらの7か国が選ばれたのであろうか。それには、いくつかの理由が考えられる。まず、原油輸入の中東依存度を引き下げたい米国は、南アフリカ、アンゴラ、ナイジェリア、コンゴといった産油国との関係強化を図ることで、原油の安定的供給先を獲得する狙いがあるといわれている。さらに、これらの産油国では中国政府系企業の進出が目立っており、今回の歴訪は中国の動きを牽制することを企図しているとも考えられよう。またケニア、リベリアについても、金(ゴールド)などの鉱物資源に恵まれている。つまり、これまで挙げてきた各国がみな資源国である以上、米国の狙いは明らかであるように思われる。だが、ここで目を引くのが残りの「カーボヴェルデ」だ。同国は天然資源に恵まれておらず、しかもアフリカ西海岸に浮かぶ小島。では、一体どうして上で見たような資源国に交じって訪問先として選ばれたのであろうか。


まず、カーボヴェルデが持つ地理的な意味を考えてみよう。――この国は大西洋上に浮かぶ島嶼国(とうしょこく)である。従って地政学的には、米国がアフリカに進出する上で戦略上重要な拠点となり得る可能性が高い。現在の米国は巨額の財政赤字に加え、アフガニスタンへの米軍増派により、財政的にも軍事的にも余裕がなくなりつつある。そうした中で、アフリカ本土にさらに直接的な米軍進出の「糊しろ」を見出し難い。また、オバマ政権発足直前に強化されたアフリカ方面軍(AFRICOM)の基地設置を巡っては、ナイジェリア等から強い反対のあったことは記憶に新しい。だからこそ、近隣の「島嶼国」カーボヴェルデとの関係を深めることで、アフリカにおける米国のプレゼンスを高める必要がある。そのために、この小さな島国と、まずは関係強化をはかっているとも考えられる。


またカーボヴェルデは、元々ポルトガルの植民地であった。19世紀に入ると同国内の旱魃(かんばつ)を避けて住民たちは米国等に移住し、現在米国内では約50万人が生活しているといわれている。米国に移住したカーボヴェルデ人はアフリカ系移民として扱われるのを拒み、ポルトガル人と称していたため、米国内の黒人で多数を占めるアフリカ系とは異質の存在であるといわれている。他方、バラク・オバマ現大統領は、意外に黒人などのマイノリティーからの支持が弱いという語られない事実もある。そうした経緯を踏まえると、ヒラリー・クリントンが現国務長官としてではなく、自らを次期大統領候補として位置付けつつ、米国内に居住するカーボヴェルデ人移民を取り込むことで、次期大統領選への布石を打とうとしているのではないかとも考えられるわけだ。

クリントン国務長官に見るマネーの“潮目”

このように米国のアフリカ外交で生じつつある“潮目”を含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る9月6日に横浜で開催する「IISIAスタート・セミナー」「IISIAスクール」でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。


上で述べたような米国のアフリカ外交戦略の動向やクリントン国務長官の言動は、今後の米国経済だけでなく日本にも少なからぬ影響をもたらすことも留意しておかなければならない。


現在、オバマ大統領は金融メルトダウンが進行する中で、財政赤字に苛まれているだけでなく、ヘルスケア(医療保険制度)改革で共和党、民主党議員から反発を受けている。のみならず、ヘルスケア改革の支持率が50%を切るという世論調査が出たことから、ますます政権運営で袋小路に陥りつつある観がある。


これとは対照的に、クリントン国務長官が精力的な外交を展開することで、着実に「得点」を獲得しつつある点に注目すべきなのである。上記のアフリカに対する「布石」に加え、夫のビル・クリントン元大統領による北朝鮮電撃訪問が妻を見事に“アシスト”した形となった。オバマ大統領自身が内政・外交で行き詰まりつつある中で、クリントン国務長官が次期大統領の座を射止める可能性は高まっている(この点について詳細は「IISIAマンスリー・レポート」2009年4月号の第6章で発表した弊研究所の予測分析シナリオ「ネオ・ヘイヴン」を参照されたい)。米国の外交政策を担うクリントン国務長官の動向は、いよいよ看過できない重要性を持ってくる。今後の国際情勢や金融経済を動かす重要な“潮目”の予兆として着目すべきであろう。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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