投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
金融システム“大転換”と同時進行するエネルギー・シフト
中国におけるエネルギー・シフト?
中国が再生可能エネルギーに注力するという。2008年における中国の総エネルギー消費のうち、7割近くは石炭によるものだ。次いで、2割近くが石油によるものである(BP発表資料による)。こうしたことから、いわゆる“次世代エネルギー”のうち、“クリーン・コール(石炭)”の大消費地として、中国は期待されていた。今後も引き続き、中国は、石炭や石油を用いた火力発電を主なエネルギー源としていくものとみなされていたのだ。急速な経済発展を追い求める中国が、エネルギー効率の低い再生可能エネルギーよりも、従来型エネルギーを優先すると考えることは確かに論理的ではある。だからこそ、再生可能エネルギーへの注力を検討し始めたというだけで、それが大手経済メディアの一面トップを飾ることになるのだ。
しかし、日本ではほとんど伝えられていないものの、既に昨年(2008年)の時点で、中国において再生可能エネルギー・ビジネスを拡大しようとの動きが、胎動を始めていた。それは昨年10月20日から22日にかけて英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)が上海で開催したセミナーに私が参加した際のことだ。その際、個別に接触した現地米系コングロマリット幹部が、クリーン・コールと共に、風力発電に関する“戦略的投資”を中国において行う動きがある旨を語ってくれた。そうした動きは当然、中国当局に対する働きかけを伴う。それが時を経て、いよいよ日本国内の主要メディアも大きく扱う変化へと結びついたということになる。あれから既に、半年以上が経過している。情報の「川上」と「川下」は、ここまで時間差があるのだ。
もちろん、中国だけではない。世界のあらゆるところでエネルギー・シフトは、緩やかではあるものの、着実に進んでいるのだ。
欧州においてもブレを見せる“エネルギー戦略”
このような観点から東京・国立市にある当研究所で世界の“潮目”をウォッチしていたところ、次のような気になる報道が、地球の裏側から飛び込んできた。
EUが、ロシアからの天然ガス・パイプラインの経由地であるウクライナに、約17億ドルの融資を行うことで合意したというのだ(4日付 米国ニューヨーク・タイムズ参照)。これに先立つ7月28日には、ロシアから欧州への石油・パイプラインの経由地であるベラルーシに対する経済支援をEUが行う方針も発表されている。
さらに以前の7月13日には、カスピ海からトルコ、バルカン半島を経て欧州へ天然ガスを運ぶ“ナブッコ・パイプライン”の経由国5カ国(トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、オーストリア)による当該パイプライン建設に関する政府間協定が調印された。これは、欧州のエネルギー安全保障の観点から“脱ロシア”と捉えられる動きの一環である。また、上記のEUによる従来パイプライン経由国を支援する動きは、一面において“逆行”ともみなされる。
長期的にみるべきエネルギーの“潮目”
このように世界各地で生じつつあるエネルギーを巡る“潮目”を含め、激動の世界を巡る情勢について私は、来る8月20日、21日に大阪、名古屋でそれぞれ緊急開催する「IISIAスクール」、22日、23日に札幌、仙台でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」「IISIAスクール」でお話する予定だ。関心を持たれた方々は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。
ちなみに欧州は、再生可能エネルギーをはじめとする次世代エネルギーの導入にも積極的だ。ドイツやスペイン、デンマーク、英国など、風力発電の導入を進めている国は多い。中でもドイツは、太陽エネルギー利用で先んじてもいる。同国は太陽光発電パネルの分野で世界最大の企業を有すると共に、サハラ砂漠における大規模太陽熱発電計画“DESERTEC”を主導しているのだ。また、フランスが原子力発電を戦略的に展開する動きを見せていることは、以前このコラム(2009年6月30日付)でもお伝えしたところである。
当研究所が様々な教材でお伝えしていることの1つに、金融面において大きな変化の“潮目”が生じるとき、エネルギーにおいても同様の変化が見られることが多いという事実がある。冷め止まぬ現下の“金融メルトダウン”もまた、エネルギー面における変化をもたらしつつある。金融メルトダウンが長期化する状況下、エネルギー・シフトもまた、長期的な視野で見るべき“潮目”として見逃せない。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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