『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

“金高騰”を叫ぶ英国勢の真意

やはり“潮目”は「5月7日」にやってきた

日本時間で5月7日未明、米国マーケットは大暴落、ダウ平均株価は10,000ポイントを一時割れ込む展開となった。その後、一部金融機関がよりによって「誤発注」をしたためである旨、米当局が発表するという“味噌”がついたものの、あまりにもすさまじい下落ぶりに世界中が震撼した。


前回、5月5日掲載の本欄コラム「米国債デフォルトが仕掛ける本当の計画」で私は「“潮目”は5月7日にやってくる」との分析を提示した。その理由は、ギリシア勢の“デフォルト(国家債務不履行)”危機を“喧伝(けんでん)”することで、結果として「ユーロ安」へと誘導し、輸出増による景気回復を図ったとされている国、ドイツ勢の動きだ。欧州勢による「近隣窮乏策」で最も裨益(ひえき)してきたドイツ勢が、対ギリシア支援に応ずるか否か、決定することになっていたのが7日だったのである。そして同日=7日(日本時間)に“潮目”は到来した。日本のマーケットもこれに引きずられるように暴落、人々は口ぐちに“ギリシア・ショック”を語り始めている。


しかし大切なのは、「暴落」云々ではない。むしろこうしたマネーの“潮目”の到来が、公開情報を丹念にフォローし、これを読み解き(=公開情報インテリジェンス)、その結果を紡ぐことで未来へと連なるあり得べき展開を描いていくこと(=シナリオ・プランニング)が可能であったということであろう。その意味で今回、5月7日に到来した“潮目”は、正に「教科書的な模範例」であったといっても過言ではないだろう。


また前回のコラムでは、こうした“デフォルト(国家債務不履行)”騒動の向こう側では中央銀行勢が自らの保有する金(ゴールド)の価値を引き上げようと躍起(やっき)になっている可能性が高いとの分析も提示した。


事実、今回の“潮目”に際し、ニューヨーク・マーケットでは、時間外取引ながらも金1トロイオンスあたり1,200ドルを突破するという「暴騰局面」が到来。この意味でも“想定内の展開”が見られることとなった。


あらかじめ“金高騰”を叫んでいた英国勢

こうした観点で、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。


年初より、そもそもインフレ展開が問題となっている英国勢において、金(ゴールド)はセーフ・ヘイヴンとして有用であり、しかも総選挙の際には金価格の高騰が見られる旨、あらかじめ“喧伝”されていたのである。実際、2005年の英国下院総選挙を前にして金価格は実に62パーセントも上昇したのだという。(4月21日付英国・テレグラフ参照)。


日本時間で5月7日未明、すなわち欧州時間で6日には、英国で下院総選挙が実施された。フタを開けてみると事前の予想どおり、与党・労働党が敗退。そうした政治不安を背景にポンドが下落するのと同時に、金価格が急騰した。これにギリシア勢の“デフォルト(国家債務不履行)”騒動が重なったため、事態は決定的なものとなった感がある。


「危機に際して金(ゴールド)は騰がる」―――確かにそうした一般則に従った展開になったように見えなくもない。だが、ここで忘れてはならないことがある。それは、私たちは明らかにあらかじめ「そうなること」を上記のような英国勢の“喧伝”によって刷りこまれていたということだ。突発的な事態が生じても、「その結果どうなるか」が分からなければ、人はただ慌てふためくばかりである。しかし、「その結果こうなる」ということが指し示されていれば、それだけで、人々はあたかも見えざる手に誘われるかのように、深く考える余裕もなく、そちらの方向へと走ってしまうのである。


それでは、なぜその「方向」が指し示されていたのかといえば、理由は簡単だ。上記のとおり、今後の危機的局面において最も困難に直面するはずの中央銀行勢にとって、資産としての「金高騰」は必要不可欠なものだからである。その意味で、一見、事態の急転に戸惑っているかのように見える中央銀行のバンカーたちは、またぞろほくそ笑んでいるに違いないのだ。「あらかじめ仕込んでおいたとおりの方向へと動いた」と。


“潮目”の焦点は「日華の金塊」にある

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で欧州勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は5月16日(日)に東京、5月29日(土)、30日(日)に大阪・名古屋でそれぞれ開催する「新刊記念講演会」(無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。


ここであらためて読者の皆様に想起しておいて頂きたいことがある。――それは、今となってはあまり語られることが少ないものの、2004年4月の段階でロスチャイルド系最有力投資銀行が、自らの手による「金取引」を停止しているという「事実」だ。単にこれから急騰するということであれば、これら欧州系“越境する投資主体”の雄は自ら金取引を続けておいても良さそうなものである。しかしそれをあえて“喧伝”する形で「自分たちはこの世界から足を洗う」と宣言したというのである。何かある、そう思うべきだろう。


この謎を解くカギは5月7日未明(日本時間)に発生した“潮目”にある。これまでの量的緩和を支えるため、既に大量の赤字国債を発行してきた各国では、中央銀行がこれをそのまま引き受けてきた経緯がある。しかし、“デフォルト(国家債務不履行)”ともなれば、これがたちまち紙屑になってしまうのである。そのために金価格の高騰をあえて誘導したというわけであるが、それでもなお足りない可能性がある。そうなった場合、持っている金(ゴールド)をありったけ放出し、これを密かに中央銀行の倉庫に運び入れては、それによってその資産状況の「健全さ」をアピールするしか手段がなくなってしまうのだ。


ポイントはここで放出され、露呈する金(ゴールド)が、必ずしも既にその存在について公表されているものに限らず、いわば「簿外資産」として各国勢が退蔵してきたものまで含まれる可能性があるということだろう。そしてこれまでこのコラムでも繰り返し書いてきたとおり、実のところ日本勢と華僑・華人勢力が大量に退蔵してきた金(ゴールド)こそ、この「簿外資産」に最も当てはまるものなのだ。


しかし、冷静に考えてみれば、大切なのはむしろその次の展開ではないだろうか。「簿外資産」、すなわちマーケット外から大量の金(ゴールド)が湧いて出てきたことに、人々はやがて気付くであろう。するとどうなるか。――「暴落」である。


遠く離れたギリシア勢を巡る騒動、そして英国勢による“喧伝”の向こう側に、本当のシナリオを読み解くための「情報リテラシー」を一日でも早く身につけること。これこそが私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンたちにとって喫緊(きつきん)の課題となっているのだ。



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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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