投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
米国債デフォルトが仕掛ける本当の計画
中央銀行のバランス・シートを探る
「世界は“大恐慌”に際して金本位制から離脱し、管理通貨制に移行した」。世界史の教科書で、私たちはその様に学んできている。「景気の悪い時には紙幣をどんどん刷り増して、マーケットに流したい。そのためには紙幣の裏付けとしてそれまで用いてきた、国家の保有する金塊の量に拘束されないシステムに移行するべきだ」。喧々諤々(けんけんがくがく)の議論の末、結局はこうした議論が勝利し、各国は脱・金本位制へと駆け込んだというストーリーが一般的となっている。しかし、あえてここで問いたい。――「本当にそうなのだろうか」と。
実は、厳密な意味での金本位制から“離脱”したからといって、各国の中央銀行が金(ゴールド)をそもそも持つことを止めたと考えるのは、全くの早計なのだ。各国の中央銀行が公開しているHPを見ても、たちどころにこの“事実”が分かるような記載はされていない。しかし、よく探してみると中央銀行のバランス・シートにおいて、「資産の部」に属する“資産”総額の、1割から多い場合には3割ほどの資産が金(ゴールド)をはじめとする貴金属であることが分かるのである。一方、残りの部分が一体何で埋められているのかというと、自国のものも含めた「国債」がほとんどだ。まとめて大雑把(おおざっぱ)にあえて言うと、中央銀行のバランス・シートにおける「資産の部」は“国債+金(ゴールド)”によって成り立っているというわけなのである。
そしてこのことは、一つの重大な事実を私たちに気づかせてくれる。――今、ギリシア勢を中心に“デフォルト(国家債務不履行)”の危機が叫ばれている。今後、欧州勢の中小国を筆頭に、実際“デフォルト(国家債務不履行)”へと陥る国が続出することだろう。しかしその結果、その国の「通貨」までが無価値なものになるかどうかは、紙切れとなる国債を引いた残りの上記「資産の部」に入っているもの、すなわち金(ゴールド)が高い価値を持っているかにかかっているのである。なぜならば、その“価値”こそ、同じく中央銀行が発行している「通貨」の価値を支える唯一の柱となってくるからだ。その意味で今、とりわけ“デフォルト(国家債務不履行)”の危機に陥りつつある欧州勢の中央銀行にとって、金価格が高騰し続けることは死活問題だというわけなのである。
“潮目”は5月7日にやってくる?
こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。ギリシア勢は既に4月23日(欧州時間)、国際通貨基金(IMF)とEUに対して緊急財政支援を正式に要請している。しかしこれに対して、ドイツ勢の中では議論が紛糾。それでもなお、支援実施へと決断しようとするショイブレ連邦財務大臣がいよいよ「5月7日までにドイツ勢としてこの問題に対する白黒をつける」と明言したというのである(4月26日付ドイツ、フランクフルー・アルゲマイネ・ツァィトゥング参照)。
現在までの議論を振り返る限り、ドイツ勢の中でも最大野党である『社会民主党(SPD)』、それと環境政党『緑の党』は「まずは債務償還の延期、あるいは一部債務の帳消しを宣言し、そこからギリシア勢は財政支援を受けるべきだ」と主張している。しかし、これはまさにインパクトの強い“デフォルト(国家債務不履行)”宣言そのものなのであって、ギリシア勢によって受け入れられるところとはならないであろう。一方、連立与党の中では「ギリシア勢はまだ国有資産を大量に持っている。まずはこれを吐き出させてから財政支援を行うべきだ」という主張が根強くある。いわば「借金をしたいのであれば、有り金を全部出してからにしろ」というのである。これもまた自明の理と言えなくもない議論だ。
だが、とりわけ後者の様な主張を巡る議論が、今度どのような推移を辿るのかについて、私たちは細心の注意をもってウォッチする必要がある。なぜなら、日本勢の中でもとりわけ多くの米国債を持っているのが、中央銀行である日本銀行だからだ。確かに今、この瞬間に米国債がギリシア国債のように“デフォルト”になるということは想定できない。しかし、今後、ギリシア勢を巡る展開の中で「国際的な財政支援を受けたいのであれば、まずは有り金を全部はたけ」という議論が主流になってくれば、今度は万が一、米国債が“デフォルト”となり、これを大量に保有している日本銀行が苦境に陥った際に日本勢に対して同じことが世界中から叫ばれることは間違いないのである。しかし、中央銀行である日本銀行が持っている金(ゴールド)はそうなったらば正に通貨としての日本円の価値そのものを支える唯一の柱である。これを差し出すなどということは全くあり得ない。ところが「有り金を全部出さない限りは、絶対に支援は行わない」と米欧勢は怒鳴りたててくる。八方ふさがりとなり、立ち往生するであろう日本勢の姿が目に浮かぶ。
米国勢が狙うのは「日華の金塊」
この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で米欧勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は5月16日(日)に東京、5月29日(土)、30日(日)に大阪・名古屋でそれぞれ開催する「新刊記念講演会」(無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。
繰り返しになるが、日本勢は大量の米国債を持っている以上、上記の議論に従う限り、米国勢に生殺与奪(せいさつよだつ)を握られているようなものなのである。確かに今この瞬間に、米国債の“デフォルト”は想定できない。しかし逆にいえば、米国勢が「日本勢に対して、有り金を全部出させること」に他よりも高いプライオリティーを置くなど、戦略的な決定を行う可能性はある。米国勢があえて“デフォルト”へと自らを陥らせることは、現下に抱える巨額の財政赤字を鑑(かんが)みれば、全くあり得ない話ではないのである。
実は近現代の世界史は、まさにこの点、すなわち日本勢が華僑・華人勢力と共に密かに退蔵してきた金塊を巡って、これをあの手この手で、時にはむき出しの武力をもってまでして吐き出させようとする米欧勢と、これを巧みにすり抜ける東アジア勢の相克によって織りなされてきたといっても過言ではないのである。私はこの「真実」について、5月10日に上梓する拙著『狙われた日華の金塊』(小学館)の中で、一般には流布されていない非公開情報も織り交ぜながら、歴史的な視点から検証した次第である。そして今、日本勢と中国勢が、通常では考えられないほどの米国債を抱え込むに至っているという「現実」を目の前にする時、誘いこまれた日本勢と華僑・華人勢力を待っている運命は、もはや明らかではないのだろうか。誰の目にも“想定外”であったはずの「米国債デフォルト」と、それに伴う「退蔵されてきた金(ゴールド)の放出要求」である。
読者の皆様に対して宿題を最後に一つ。――米欧勢による上記のようなあり得べき要求を受け、日本勢と華僑・華人勢力がその退蔵してきた金塊の「放出」を実際に行ったとしよう。果たしてどうなるだろうか?動乱の5月に向けた今だからこそ、是非、ここで立ち止まって考えてみて頂ければと思う。必要なのは「転ばぬ先の杖を想像し、行動する力」=“情報リテラシー”だ。
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- 2010年08月29日 01:25 | 日本を守るのに右も左もない
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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