『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

なぜ今、続々と“アルゼンチン詣出(もうで)”なのか?

デフォルト宣言という亡霊

1年以上前、このコラムを始めとする様々な場で、私は「デフォルト(国家債務不履行)のドミノ現象こそ、今始まっている金融メルトダウンが辿り着く先である」と喝破(かっぱ)した。以来、そうした分析を維持してきているが、とりわけ1年ほど前にはそれを読んだ多くの読者の皆さまから、次のような言葉を頂いたものである。


「デフォルト?そんなものが起きるわけがない。米国勢や欧州勢はそれなりに備えがあるわけだし、それぞれの国でベスト・アンド・ブライテストたちが経済運営をしているのだから、絶対にそんなことは起きないはずだ」


事実、昨年(2009年)は密かに重大な危機というべき局面が米欧勢に訪れていたにもかかわらず、それらはいずれも隠ぺいされ、一般に語られることがなかったため、「デフォルト」は発生しなかった。そうなったのは実のところ、もはや手がつけられなくなることを前提としつつ、まずは量的緩和によって発生した「ハイパーインフレ誘発」という事態を回避すべく、出口戦略に殺到し始めるため、各国勢は表向きあたかも景気が良くなったかのように取り繕ったことによる。いわば「出口戦略バブル」とでもいうべき事態が発生したわけであるが、読者の皆さまは少なくとも表面的には株価が上昇したことを受け、今度は次のように思われたのではないかと思う。


「デフォルト」が起きなかったばかりか、結局、景気は着実に回復しているではないか。もはや金融メルトダウンは終わった」


今年(2010年)5月をピークにギリシア勢による「デフォルト騒動」が誰の目にも明らかになった今、そうした印象が全くの幻想にすぎなかったということを読者の方々は噛みしめていることと思う。その後もポルトガル勢、スペイン勢、はたまたベルギー勢と、欧州勢は容赦なく「デフォルト危機」を“喧伝(けんでん)”している。正に「危機」は日常風景となりつつある。


もっとも問題はそうした目先の出来事にとらわれていると、物事の本質を見誤る危険性がある点にある。なぜならば、「デフォルト」とは何もつい最近始まった話ではないからだ。むしろ仮に直近で「デフォルト宣言」を行った国があったとすると、そうした宣言行為によって一旦は危機を脱したかのように見える公的債務が、実のところ未だ残っている可能性がある。しかも、今や金融メルトダウンはいよいよ“最終局面”を迎えつつあるのであって、こうした「忘れられた債務」こそ、もはや二度と償還されることのない債務として、にわかに問題視される危険性が出始めているのである。それではそうした厄介な国として一体どこの国に注目すべきなのであろうか。――ズバリ、南米の国・アルゼンチンである。


アルゼンチンを続々訪問する要人たち

こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。


6月9日にクリントン元米大統領がブエノスアイレスを訪問。アルゼンチンのキルシュナー大統領と会談を行った際、同大統領による政策運営の巧みさに「惜しみない称賛」を表明したというのである(9日付アルゼンチン「ブエノスアイレス・ヘラルド」参照)。クリントン元大統領がアルゼンチンを前回訪れたのは15か月前であったが、その時に比べて相当程度、経済状況が良くなっている状況を見ての発言だという。これに対し、現地メディアからは「予想もしなかった発言」といった表現が飛び交う展開となっている。


もっともこれだけを見れば、特段何ということもない社交辞令、そして外交行事の様に思えてしまうかもしれない。しかし、5月19日、ブレア元英首相もブエノスアイレスを緊急訪問。しかも詳しい用務は公表しないというスタンスであわただしく同国を去ったのである。続々とアルゼンチンを訪問する米英勢の要人たち。「これは何かある」――そう考えても全く不思議はないだろう。


実はこうした展開を見て、“越境する投資主体”の主たちが語り始めていることがある。――「アルゼンチン単体が問題なのではない。むしろ今、急速に「デフォルト」危機の瀬戸際に立たされつつあるスペイン勢との連動こそが、最大の問題なのではなかろうか」


一般に「デフォルト」のドミノ現象はそれこそ隣国同士で起きるのではないかと思われがちではないだろうか。東欧勢、あるいはバルト三国といったところが典型的なイメージなのかもしれない。だが、債権債務関係で緊密につながっていれば何も隣国でなくともデフォルトは「ドミノ」のように連鎖し得るのである。そしてアルゼンチン勢といえばイベロ・アメリカの雄であり、スペイン語圏としてスペイン勢と深い関係を持つことで知られる国である。ところがそのスペイン勢が窮地に立たされている以上、スペイン系“越境する投資主体”たちからの「貸し剥がし」が場合によっては危惧されても不思議はないのである。一方、アルゼンチン勢はクリントン元大統領による美辞麗句がどんなに聞こえてきたところで、農産品の輸出減に苦しむなど、経済的に苦境に立たされ続けている。そこに来て「貸し剥がし」が海の向こうからやってきたならばどうなるか。――その時、「亡霊」となったはずの、かつての債務が今やリアルな脅威として世界を襲う危険性すら出てくるのである。


これから何が起きるのか?

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で米欧勢、そして中南米勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は6月20日(日)に福岡にて開催する「新刊記念講演会」(無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。


ここで是非とも読者の皆さんにあらかじめ申し上げておきたいことがある。それは1994年よりメキシコ勢が「デフォルト危機」に陥った際、翌年(1995年)にそれが飛び火し、大いに価値を下げたのが米ドルであったという「史実」である。つまり中南米勢と米国勢は連動しているのであって、中南米勢における「咳」は、時に米国勢の「大風邪」を巻き起こすことを私たちは15年前の体験から知っているのである。


しかも状況は基本的に“あの時”と全く変わらない。――米国勢は景気後退に悩まされており、ドル安への転換がもたらす輸出増、そして雇用促進を喉から手が出るほど実現したがっている。つまり、米国勢にとって「デフォルト」のドミノ現象によって米ドルが急落することは実のところ“大歓迎”なのである。もっとも決してそうは見えないように表向きは取り繕っておく必要があることは言うまでもない。なぜならば“越境する投資主体”がそうした米国勢の秘められた戦略に気付き、一斉に先取りしたポジションを取り始めてしまうからだ。そこでクリントン元大統領による先ほど紹介した「褒め殺し」にも聞こえる、アルゼンチン勢に対する「称賛」が行われることとなる…。


「歴史は二度繰り返す」とはよく言われるものだ。しかし、これから起きる強烈なドル安という「二度目」が果たして喜劇となるかは、私たち=日本勢の個人投資家・ビジネスマンが持っておくべき、歴史に根差した“情報リテラシー”の多寡(たか)にかかっている。


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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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