『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

再びデフォルト騒動に巻き込まれる米国

「2009年米国デフォルト騒動」とその余韻

もうすぐ暑い夏がやってくる。――そう思う時、私が同時に思い出すのが昨年(2009年)8月10日頃に迎えた夜のことだ。あの晩、私は北海道の山間にあるとある保養地にいた。物音一つしない山間部のことだ、夜ともなればすぐに熟睡しそうなものだ。ところがその時は全く違った。とにかく寝付かれないのである。何度寝返りをうっても、どうしても眠れないのである。普段は全く異常を感じない背中の筋が、どうにもこうにも落ち着かないのだ。


「一体どうしたのだろうか」


東京に帰り次第、信頼するマーケットの“猛者(もさ)”にそのことを話してみた。すると彼はこういうのだ。「あぁ、よくある話ですよ。原田さんにもついに来ましたか」彼曰く、マーケットの“猛者”の間では“潮目”がやってくる直前にそういった「症状」を覚える人がかなりいるのだという。事実、かの有名な投資家ジョージ・ソロスの息子は自らの父について次のように語っていることを読者の皆さんは御存じだろうか。


「父は自分の行動を説明するさまざまな理屈を人に語る。だが子どもの頃そんな父を見て、半分はでたらめじゃないかと思ったものだ。父が投資先の評価を変えるのは背中がひどく傷むからだ。痙攣(けいれん)が起きると、それが最初の警告のサインというわけさ」(マルコム・グラッドウェル『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』光文社より引用)。それでは昨年(2009年)8月上旬のこの頃、世界の“潮目”は一体どのように動いたというのだろうか。――実はこの頃、米国のカンザスシティ連銀が主催して行われていたシンポジウムで重大な「決定」が事実上なされていたのである。シンポジウムの名前は「ジャクソン・ホール・シンポジウム」という。この場に日本勢を含む主要各国勢から中央銀行総裁たちが集まり、金融メルトダウンの「後始末」について話し合いを行った。もちろんその詳細は明らかにされていないが、一つだけ確かなことがあるのだ。それはこの時、景気回復のための量的緩和から脱するという意味での「出口戦略」へと順次移行していくことが合意されたということである。しかし、「出口戦略」とは究極においてインフレ抑制のための金利引き上げを伴うものである。ところが金利引き上げはマーケットに対する「冷や水」となりかねないため、その前にしっかりと景気の高揚感を“演出”しておく必要がある。そのため、その後、各国勢とその中央銀行たちは盛んに景気回復を“喧伝(けんでん)”し、株価の上昇を“演出”したというわけなのである。


その後現在に至るまでの間、昨年(2009年)11月末に発生した「ドバイ・ショック」、そして今年(2010年)5月の「ギリシア・ショック」はあったものの、そのたびに株価は全世界で復調し、推移してきている。そのような中、昨年(2009年)8月までの間、盛んに“喧伝”されてきた米国勢を巡るデフォルト(国家債務不履行)騒動は一気になりを潜めてしまった感がある。私の率いる研究所は上記のような次第を踏まえ、「構造として米国勢による“デフォルト”ないしはそれに類似した現象への誘導は不可避であるが、当面の間、とりわけ2009年中はむしろ逆に“出口戦略バブル”とでもいうべき事態で終始する」との分析を昨年(2009年)8月上旬の段階で提示した次第である。その一方で、「11月ないし12月までに米国勢は“デフォルト”へと突入し、もって国際社会全体が破たんする」という分析を堅持されていた方もいたようだ。マーケットでは今になってもなお、そうした方々に対する憐れみの声が聞こえすらしてくる。


しかし、あらためてここで問いたい。――米国勢による“デフォルト”騒動は二度とやって来ないのであろうか。

米国勢が再びデフォルトを叫ぶ?

こうした観点で、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。


米国勢の中でも州知事たちのつくる有力2団体が揃いも揃って声明を発表し、「このままいくと2012年まで州レヴェルでの財政安定化は不可能だ」と“喧伝”したというのである(3日付米国ザ・ヒル・ドット・コム参照)。昨年(2009年)7月頃に世間を騒がせたカリフォルニア州の“デフォルト(国家債務不履行)”騒動から約1年。その間、全くなりを潜めていた感のある州知事たちが、再び吠え始めたというのである。一体どうしたというのであろうか。


ここで私は何も、「いよいよ米国勢が“デフォルト”に陥る」と述べたいのではない。正確にいえば、上記の様な“喧伝”を米国勢が始めているのか、その背景をまずは探るべきだと考えたいのである。それではその「背景」とは一体何なのだろうか。


読者にぜひ思い起こして頂きたいのが、昨年(2009年)11月頃からのマーケット展開の中で、一体どの勢力が最も利潤をあげてきたのかということなのである。その答えはズバリ、「欧州勢」である。ギリシア勢の“デフォルト”騒動を自ら“喧伝”することで欧州勢は強烈なユーロ安へと誘導。これによって「悲劇」を“演出”する一方でとりわけ対米輸出を拡張させることで利潤を稼いできたというわけなのである。正に「近隣窮乏策」の典型だ。


つまりは、欧州勢が半ば公然と仕掛けてきた貿易戦争を、米国勢は甘受してきたというわけなのである。しかしここに来て、さしもの米国勢も堪忍袋の緒が切れつつある。なぜなら、失業率が再び上昇に転じ、このままいくと来る11月に開催される連邦議会中間選挙に向け、オバマ政権にとっての致命傷となりかねなくなってきたからである。


ここまでの説明を読んで、賢明なる読者の皆さまは既にお気づきになられたのではないかと思う。――米国勢は自ら「財政赤字の巨額さ」を“喧伝”することで、実は「ドル安」へと転換し、もって近隣窮乏策を展開しようとしている可能性があるというわけなのだ。まずは州レヴェルでこうした議論を“喧伝”し始めた次に、連邦レヴェルで同様の議論が行われるかどうかがカギとなる。しかし、公然とこれを連邦レヴェルで展開し始めた途端、人々は口ぐちに語ることであろう。「米国勢がいよいよ“デフォルト”になる」と。その意味で、暑い夏がすぐそこまで私たちに迫ってきているのである。


これから何が起きるのか?

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で米国勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は6月20日(日)に福岡にて開催する「新刊記念講演会」(無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。


世にイソップ寓話(ぐうわ)にいう「狼少年」という話がある。ある衝撃的な事態の到来を繰り返し“予測”し、“喧伝”している間に誰もそのことに関心を払わなくなり、本当にその事態が起きた時には誰も助けてくれなくなるという例の寓話だ。あまりにも語られすぎた米国勢による“デフォルト”危機というテーマについても、あるいはまったく同じことが言えるのかもしれない。「あれだけ騒がれたものの、結局何も起きなかったではないか」そう思われている読者の皆さんもきっと多数いらっしゃることであろう。


しかし、マーケットの格言に次のようなものがある。「一度目は試しで。二度目は本格的に、そして巨大な規模で」。過去のマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を巡る“潮目”を見ると、必ずこのルールに則って展開してきていることに気付かれるであろう。一度同じ様なことが起きると、どうしても人々は安心してしまい、しかし一度目に発生した時に覚えた恐怖感を記憶しているため、二度目に発生した時は過度なまでの反応をしてしまうのである。その結果、“潮目”は必要以上に露骨な形で現れ、持続することとなる。


暑い夏、そして米国勢の“デフォルト”騒動という「悪夢」。実際にそうなるまでの間に、日本の個人投資家・ビジネスマンである読者の中で、一人でも多くの方々が「背中の痙攣」でそのことの到来に気付かれることを願ってやまない。


  • はてなブックマークに登録はてなブックマーク登録数
  • BuzzurlにブックマークBuzzurlブックマーク数
  • [clip!]livedoorクリップ数
トラックバック

トラックバックはまだありません。

この記事に対するTrackBackのURL:

筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

  • メディアの情報のほとんどはもう終わったこと。現実に先駆けて今後の展開を分析!≪株式≫≪為替≫≪商品≫これを聞かなければ何れも始まらない!!
  • ⇒音声教材「週刊・原田武夫」

狙われた日華の金塊

原田武夫国際戦略情報研究所公式メールマガジン

元外交官・原田武夫率いる原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)の公式メルマガ。どこでも聞けない本物のマーケットとそれを取り巻く国内外情勢分析は必見です!気になるセミナーや社会貢献事業など、IISIAの幅広い活動を毎日お伝えします。

メールアドレス: 規約に同意して