『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

ギリシア勢の金庫は本当にカラなのか?

ドイツ勢による「救済」を要求するギリシア勢

昨年(2009年)末から、にわかにマーケットのリスクとしてあらためて注目され始めたのがギリシア勢による“デフォルト(国家債務不履行)”だ。このコラムにおいて、私はかねてより米欧勢が今後、順次“デフォルト(国家債務不履行)”ないしはそれに類似した現象に陥っていく可能性が高いと述べてきた。したがって熱心な読者の皆さんにとって、ギリシア勢を巡るこうした騒動は全くの“想定内”であろう。


当のギリシア勢にとっては尚更そうであろうし、ましてやギリシア勢に大量のマネーを貸し込んでいた米欧系“越境する投資主体”からすれば、同様だろう。それでもあえて「リスク」を“喧伝(けんでん)”し、マーケットが大きく揺さぶられているというのだからおかしなものだ。しかもギリシア勢はというと、とりわけドイツ勢を相手にして、「欧州統合で一番儲けたのはドイツ勢ではないか」「1893年にギリシア勢がデフォルトに陥って以後、救済を名目に搾取してきたのはドイツ勢だ」「第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによって殺害されたギリシア勢の数、実に30万人に及ぶ」「しかも大戦中、ドイツ勢はギリシア中央銀行の金塊を全て持ち去った」などと罵詈雑言(ばりぞうごん)を尽くす始末。挙句の果てには“だからドイツ勢はギリシア勢を救済する責務を負っている”と国際社会に対して声高に要求し始めたのである。


結局、3月末に実施されたEU首脳会議において、「国際通貨基金(IMF)が万一の場合にカネを出すことを条件に、ドイツ勢も財政支援に応じる」というスキームが決められた。その後、マーケットは沈静化した感がある一方で、ギリシア勢は7年物の国債を発行。金利6パーセントであったせいか、大いに売りさばけたという。他方でドイツ勢はというと、「もはや財政規律というルールを守れない加盟国はユーロ圏に留まるべきではない」と“喧伝”する始末。いわば、真正面からギリシア勢に喧嘩を売る形となってきている。

ドイツ勢のクールな分析

こうした観点で、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。


ドイツを代表する財団である「科学政治財団(Stiftung Wissenschaft und Politik)」が、報告書「流動性と主権(Liquidity and Sovereignty)」を発表。その中で“ギリシア勢に余力がないというのは真っ赤なウソ。彼らは多くの資産を持っているにもかかわらず、これを売却しようとする素振りしか見せない”と糾弾したというのである(2010年3月“SWP Comments”参照)。


ドイツ勢らしく、彼らはクールに次のとおり分析する。――そもそも“デフォルト(国家債務不履行)”の危機に立った国がある場合、これに対する支援を行うのに先立ち、整っていなければならない条件が3つある。それは以下だ。


1.貸し手となる国(lender of last resort)が潤沢な資金を提供すること
2.金利は市場金利より高く、また危機が最高潮の時の金利よりも低いこと
3.借り手となる国が十分な見返り(collateral)を与えること


「この観点から見た場合、ギリシア勢を見てみると」と、ドイツ勢は議論を進める。そして、ギリシア勢は(政府として)ホテル、港湾、空港、銀行、そして保険会社まで、大量に保有していることが分かるのだと指摘するのだ。例えばヘレニック・パブリック・リアル・エステート社は、全土にわたって72,000件の不動産を所有する大会社であるが、ギリシア政府が100パーセント所有している。2007年段階ではあるが、その価値は合計420億ユーロに達していたのだという。つまりギリシア勢は、大量の“見返り(collateral)”を持っているはずだというのである。


こうした議論を展開していることから、賢明な読者の皆さんにはギリシア勢の“デフォルト(国家債務不履行)”問題が持つ本当の一側面が明らかになったのではないかと思う。――そう、口角泡を飛ばすドイツ勢とギリシア勢が、本当のところ念頭に置いていたのは、他ならぬギリシア勢の国有財産の“切り売り”をどれくらいの規模で、いつ行うべきなのかという点だったのである。ところが大義名分としては、あくまでも「ユーロを救え!」「欧州統合を逆回転させるな!」といったスローガンばかりが掲げられたのである。ここに正に欧州勢における“経済外交”の真骨頂がある。

これから起きる本当の“潮目”を知る

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で米欧勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は4月24日に浜松・静岡でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。


ちなみに上記ペーパーの中でドイツ勢はもう一つ、気になることを書いている。――ドイツ勢が自ら財政支援を行う大前提として、同じく財政支援を行うべき主体として取り上げている国際通貨基金(IMF)であるが、2010年についていうと実のところたった100億ユーロしかそれを行えないはずだというのである。一方、ギリシア勢はというと来る5月末までに105億ユーロの資金調達を強いられているという現実がある。IMFが持つ余力は、それにすら及ばないのが実態なのだ。


ここで思い起こすべきは、“デフォルト(国家債務不履行)”騒動に見舞われているのはギリシア勢だけではないということであろう。ポルトガル、フランス、イタリア、ルーマニア、ブルガリア、ウクライナ、バルト三国、そして英国。可能性として列挙するならば、枚挙(まいきょ)にいとまがない。しかも1カ国で仮に“デフォルト(国家債務不履行)”危機が発生し、最悪な事態ともなれば、一斉に他の各国で取り付け騒ぎが起こることも間違いない。正に「デフォルト・ドミノ」である。ところが、国際通貨基金(IMF)にはおよそその全てを賄う資力など無いのである。


その意味で「すぐそこの未来」で起こり得る危機こそ、多くの人々にとって“想定外”なものとなるというべきなのだろう。ドイツ勢による“あまりにも”クールな分析ペーパーはそのことを私たち=日本人にくっきりと示してくれるというわけなのである。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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