今週の解答
[資金管理に関する問題]
あなたが増益見通しなので購入・保有していた銘柄が、750円の購入価格から700円にまで値下がりしました。このときもっとも適切な対処法はどれですか?
(1)即座に売り損を確定させる
投資と投機とのアプローチの違いをご存知ですか?投資は投資に用いる判断材料や指標を十分に理解できていると信じるところから始まります。今日の質問の場合では、増益予想に対する確信がこの銘柄を購入し、保有している根拠となります。
いっぽうの投機は、粉飾決算もあればスキャンダルもある、水面上のものは案外当てにならないので、値動きのみを信じるというものです。今日の質問の場合では、値下がりしているという事実のみが、決定的なポイントとなります。
ここで重要なのは、投機はもちろんのこと、投資でさえも株価の上げ下げによって損益が決まることです。その銘柄をどれだけ理解しているかを競うのは、自分でポジションを取らないアナリストにまかせましょう。損益のみで勝ち負けが決まる個人投資家は、値動きに素直になる必要があります。
ほとんどの人が現実問題としては(3)を行うと思います。上がると信じて買ったのだから、たとえば、増益予想が減益とでもならない限り持っていたい、自己の相場観に忠実でいたいというものです。ところが、実際には上がるも八卦、上がらぬも八卦の神頼み、一か八かの博打手法なのです。増益が実現し、仮に750円まで戻ったとしても、その期間の生産性はゼロですから、褒められたものではありません。減益にでもなれば、目も当てられません。
(2)の「下値で買い増し買値の平均を下げる」、いわゆる「ナンピン買い」は、同量を買っていれば、下げ幅(50円)の半値(25円)戻しで損失を回避できるというものです。通常、相場は上げ下げを繰り返しますので、ナンピン買いの支持者は思っている以上に多いのです。実はナンピン買いは統計的にも一理ある手法です。
たとえば、過去の価格変化から予測した変動比率(ボラティリティ)が32%の銘柄の場合、1日のボラティリティは、1年の取引日が256日だとすると、16(√256)で割って2%となります。
この標準偏差をとると、68.3%の確率で引け値が前日の引け値の上下2%ずつの変動幅に収まることがわかります。また、95.4%の確率で上下4%ずつの変動幅に収まり、そして99.7%の確率で上下6%ずつの変動幅に収まることになります。このことは、1日で6%以上下落したなら、ほぼ100%の確率で引け値では6%の内側に戻っていることを表わしています。
仮にあなたが購入した銘柄のボラティリティが32%だとして、1日で750円から700円に値下がりしたとすれば、その下落率は6.7%となりますので、統計上のベストの選択は「ナンピン買い」だといえます。 6.7%の下落(700円)で買って、6%(705円)以内まで戻ってくれたなら、新しいコストの725円まであと一歩という感じがします。4%以内なら720円、2%以内なら735円まで戻して、10円の利益がでます。
ところが、標準偏差の両端は、あり得ない程の確率で例外が頻発するとされています。そのためでしょう。私はナンピンを得意技としていた人が、相場の世界から消え去った例を枚挙に暇がないほど知っています。また、先の標準偏差は、毎日2%ずつ下落する分には、当たり前の確率でどこまででも下落します。ナンピンはその時のポジションが大きくなっていますので、実は危険な手法なのです。
(1)の損切りのいいところは、それ以上に損が膨らまないことです。10回のうちの5回の下落を7%以内の損で切っておけば、最大でも35%の損失に抑えられます。残る5回のうちの1回で、35%以上のゲインがあることも稀ではありません。
株式を買ったなら、上げる確率は50%。下げる確率も50%。株価は常にぶれますので、あらかじめ想定していたぶれ以上に下げたなら、売って損切ります。波に乗れていない時には、辛抱強くいい波が来るのを待つのです。自分が乗れていない時に、勝負を焦るのは禁物です。勝負は波に乗れている時にするものなのです。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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