今週の解答
[ニュースに関する問題]
原油の価格が年初来最高値を更新しました。こうした原油価格の高騰が株価の上昇要因になる可能性が最も高いのはどの業界でしょう?
(3)総合商社
原油は安価でもっとも効率的なエネルギー源であることから、「産業の血液」とも呼ばれてきました。安価と言われていたのは、オイルショックと呼ばれた一時期を除いて、長年1バレル20ドルほどで推移していたからで、近年の70ドル台でも安価なのかどうかは意見の分かれるところです。とはいえ、現状ではもっとも利用されているエネルギー源であることには間違いがありません。製造業や火力発電の燃料となるだけでなく、灯油やガソリンといった形で、家計にも直接の影響を与えています。
また、原油はエネルギー源だけに留まらず、プラスチックなど石化製品の原材料でもあるので、原油価格の動向はほぼ全ての産業、そして我々の生活に影響を与えます。原油価格の上昇はインフレ懸念に結びつくのです。インフレ懸念が起こり、抑制のために金利が上昇したならば、原油価格の上昇は株式市場全体に悪影響を与えることになります。
ここまでの説明で類推できますように、原油価格の上昇は多くの産業にとってコスト高要因、つまり株価の下落要因です。上の業種の中では、特に悪影響が大きいのが、ジェットフエルという形で膨大な燃料費を抱える航空業界です。原油価格の高騰は、航空会社の大きな収益圧迫要因なのです。また、エネルギー価格の上昇は、鉄鋼業など製造業の収益をも圧迫します。
一方、総合商社の中核事業のなかに、エネルギー関連事業があります。商社は産油国や石油会社に出資するなどして、油田の採掘や開発にかかわっています。自社が開発に関わった製品が値上がりすれば、そのまま収益アップに結びつきます。また、商社の本来業務として、ブローキング、ディーリング業務があります。
ブローキングとは手数料を貰って売り手と買い手のニーズを結びつけることで、携わる者をブローカーを呼びます。ここで取り扱う商品の単価が上がれば、通常、手数料も上がります。
ディーリングとは売り手と買い手のニーズの時間差を埋めるために、一時的に自分で在庫を抱えることを意味します。携わる者がディーラーです。このとき、自分が抱えている在庫が値上がりすれば、安く買ったものを高く売れますので、大きな収益に結びつきます。
原油に限らず、商社が取り扱う商品価格の高騰は、在庫のディーリング益に大きく寄与します。もちろん、価格下落の場合には、相当巧みにヘッジでもしていない限り、在庫は損失に結びつきます。
私が証券会社で米国債のディーラーをしていた1985年に、ニューヨークの原油先物が1バレル10ドルを割り込むことがありました。当時は原油価格の動向がインフレ懸念に、それが金利動向に結びつくとして、原油価格の上げ下げが、そのまま債券価格の下げ上げにつながっていました。つながっていたというより、私なども原油価格の画面を見ながら債券の売り買いをしましたので、投機筋が強引に結びつけたというのがより正確でしょう。いかに原油価格の動向が金利に影響を与えるといっても、ほとんど瞬時に連動するはずもありません。同じように、原油価格の高騰が株価の下落要因だからといって、他の要因を加味することなしに、必ず下落するとは言えません。
とはいえ、当時の原油価格は金利変動の一大要因でしたので、私は石油元売り会社の調査部に原油価格の決定要因を尋ねにいきました。田代さんという方が応対してくれたと記憶しています。それまで一面識もない私に、詳細な資料をくれて小一時間も応接室で説明してくれました。一般に調査畑の人たち、エコノミストやアナリストには親切な方が多いのです。私が皆さんに提供している知識は、そういった形で先輩諸氏から受け継いだものなのです。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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