今週の解答
[ニュースに関する問題]
アメリカの住宅着工件数が、予想よりも低く160万戸(年率換算)と発表されました。アメリカ株は「住宅バブル崩壊」(=景気後退)かと売り込まれましたが、金融引き締め終了期待が起こり下げ止まり、引けにかけて持ち直しました。ドル円はどう動くと予想しますか?
(1)ドル安円高に向かう
まずは住宅着工の数値の意味を考えてみます。1990年代の初めに底打ちしたアメリカの住宅産業は、その後10数年にわたってアメリカ経済を牽引、あるいは下支えしてきました。その住宅産業が2005年あたりから頭打ちになってきています。住宅着工の数値も、 2004年、2005年あたりは200万戸を優に超えていたものが、 2006年は年率170万戸台にまで落ち込んできています。全米の住宅平均価格も1993年に対前年比でマイナスとなって以来、13年間上昇し続けてきましたが、ここにきてマイナスに転じるとの観測が出始めました。
確実な人口増加に加えて、米10年国債にもっとも連動するといわれる住宅ローンの金利が、 10年国債とともに歴史的な低水準にあったこと、雇用の不安が少なかったこと、顧客を刺激する新型ローンがいくつか開発されたことなどで、住宅に先食い需要が入り、販売、価格ともに上昇してきました。その需要に合わせて住宅建築(着工)が伸び、需要を追い越し、そしていま新築住宅の在庫は約7カ月分という歴史的な高水準にあります。そこで昨年あたりから始まったのが生産調整なのです。
住宅が売れれば、中身の家具や家電の売れ行きも伸びます。住宅価格が上昇すれば、転売して利益を出す人もいますし、上がった信用力を利用してクレジットの利用も増えます。国内総生産の3分の2以上を占めるという個人消費が増えるのです。この好循環がいま逆転しようとしています。逆転すると景気の悪化要因となります。これが、いわゆる「米住宅バブル崩壊懸念」です。
さて、問題に取り掛かりましょう。住宅着工の数値が予想以上に悪化したのを受けて、アメリカ株は景気後退懸念にすなおに反応し下落しました。しかし、連銀による景気てこ入れ、金融引き締め終了の期待が高まったために反発、上昇に転じました。ところが、この景気後退懸念と金融引き締め終了、あるいは緩和観測の、どちらもがドルにとっては下落要因となります。景気後退はアメリカ市場の魅力を損ねますし、金利低下(あるいは金利差縮小)はドルの魅力を損ねます。
ここで注意を促しておきます。こういった「下落要因」とは、実際にこのような数値が出たときに、間違いなくドルが下落するという意味ではないのです。為替は景気や金利見通しだけでなく様々な要因で動きます。またその時々で市場が注目している材料もころころと変わります。為替市場は取り扱う材料が多すぎるために、的を絞りきることができず、常に「旬」な材料を追い求めているのです。そしてその材料の「変化」を売り買いの動意とします。
ここでは、問題の要因しかありませんから、ドルは売られ、ドル安円高に向かいます。
また、アメリカがくしゃみをすれば、日本が風邪をひく的な連想は、経済のグローバル化、日米関係の親密さからすれば妥当な連想ですが、2国間の為替レートはドル高=円安、ドル安=円高とまったく逆に動きますので、同じ方向には動けません。また、状況はつねに変化していますので、そこまで先のことは考えなくてもいいのです。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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